“好き”を100個書いてみたら。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:滝波俊平(ライティング・ゼミ特講)
「はい、じゃあ自分の好きなもの100個書いてみて〜」
大学のとある講義で先生はいきなりそう言った。
何の意図を以て何のためにそうするのかよく分からなかったけれど、先生より早く書けなかったらその人は単位なし! と言い出したのでとにかく書くしかなかった。
好きなもの・好きなもの。
とりあえず思いつく限りのものを書き並べてみて、なんとか100個書くことができた。
みんなが好きなものを100個書き終えたのを見て、
「はい、じゃあ来週までに今書いた好きなもの100個をもとにして、自分について発表するプレゼンをしてもらいます。」
先生は、そう言った。
……自分について発表するプレゼン。
ことばにしてみると格好良いものに見えるのかも知れないけど、自分が自分について語るというのは、難しいと僕は思う。
「僕はこういう人間です」
そう自分で言ったみたところで、明日にはそう宣言した自分とは違う行動を取っているかも知れない。他の人から見たら全然違うふうに見えているのかも知れない。そんな面倒くさいことを考えてしまう僕にとってはやっぱり難しいことだ。
だけど、その発表から逃げるわけには行かない。その先生のことは好きだし、いきなり次のクラスから来なくなれば、周囲から「あいつ、逃げたな……」と認知されてしまう。それは嫌だ。
とりあえず、講義の間は人目を意識して書いた好きなもの100個だったから、自宅に帰って、人目のつかない静かなところで、自分の好きなものベスト100を書いてみるつもりで、書き直してみた。
そこに出てきたのは本当にいろいろなものだった。
脈絡もなく並べてみると、次のようなものだ。
今のバイト先・寝たり、散歩したり、といったゆるめの行動・好きな音楽・アーティスト・よく読む本・感動した本を書いてくれた著者・昔住んでいた場所・好きだった人・ペット・友達・好きだったマンガに出てきたかっこいい必殺技・プログラミングなどの実用的な技術・今でも思い出せる昔の旅先の景色。
タイトルの画像は、それらをとりとめもなく列挙したものだ。
「……ここに共通点なんかあるんだろうか??」
とりとめもないものがたくさん出てきて、そこから共通したものを抽出して、”自分”を語るのはどうも難しいように思えた。
ぼーっとその好きなものリストを眺めてても、何も出てくる気がしなかったので、逆から考えてみることにした。
他の人が自分を好きになってくれることはあるんだろうか?
……あった。そして、仲良くなれる人とは、共通な好きなものを持っていることがほとんどだった。好きなものが一緒な人のことは好きになれるのだ。というか、好きになってしまう。
「そう考えると、人を好きになることとものを好きになることって似ているのかも」と、ぼんやり考えていたら、自分なりの答えが見えてきた。
「もしかしたら、“好き”は繋がりたい人(生き物)に対して湧いてくる感情なんじゃないのだろうか」
例えば、僕は本を読むのが昔から好きだけど、それは、ことばを追うのが好きなわけではなくって、その中で動き出す人が好きだったり、そのことばを書いてくれた作者から繰り出されることばを味わうのが好きだからだ。そんなことばを出せる人になりたいなと思ってきた。
他にも、寝たり散歩したりするのが好きなのも、寝ていたり、散歩している状態のときの自分が好きだからだ。ある意味、この状態の自分と繋がりたいと感じているとも言える。他の音楽とかマンガとかも一緒だ。全部、その状態になりたいと思っている自分がいる。
だから、好きなものと自分はある意味つながっているんじゃないか。つながったものと自分はある種の一体感を持つことができる。何かを好きになるとき、自分はある意味その何かになっているような気になる。
だったら、実は好きの数だけ自分は増えているんじゃないんだろうか?
100個の好きがあったら、自分は100人の自分に影分身しているみたいなものなのではないか?
つまり、好きなものをなんで好きになったのかを自分なりに筋道を立てて語っていけば自分が語れる!全部を語る必要はなくて、その分身のうちの大事な何人かについて語れば十分だろう。
そう結論を出せて、先生が出した宿題をなんとか解けた気がした。
1週間後の発表もなんとかなるだろう。
最後に。
今回、分かった、というか自分で勝手に納得したことは、自分は、自分だけじゃなくて、自分の好きなものでもある。もしかしたら、自分のことを気に入ってくれる人も自分みたいなものなのかもしれない、ということ。
それは、僕が自分の「好き」を100個書いてみて、初めて分かったことだ。実感できたことだ。
「好き」を100個書いてみたら、自分が増えた。自分を語れるようになった。
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