メディアグランプリ

「ドラクエウォーク私もやってる」と言って仲間に入りたかった私が、そっと胸にしまうまでの5秒間。

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:香月 祐美(ライティング・ゼミ書塾)
 
 
始まりはひと月前のことでした。
何気なくスマホをスクロールしながらFacebookを流し見していた私は、指を止めました。
見たことがある絵が流れていった気がしたのです。
とても懐かしい様な。
 
画面の下に流れていこうとしていた投稿を、上に巻き戻します。
 
……これは。
子どもの頃に、見たゲームのキャラクターに似た絵を凝視する私。
 
ドラクエウォーク……ドラクエ!
 
知人の投稿には、「フレンド募集中でーす」という言葉とともに、スマホ画面のスクリーンショットが張り付いていました。
 
私がまだ子どもだった頃。
ゲーム機といえば、まだファミコンしかなかった時代。
毎日のようにやっていたのがドラクエでした。
ゲームをどれだけやっても怒られるどころか、むしろ父がハマって一緒にやっていた家庭で育った私。
 
そして今。
塾の先生になった私は気が付きました。
普通、子どもがゲームばかりやっていると親は怒るんですね。
 
怒られるどころか、親も一緒に楽しむというある種の英才教育を受けてきたこの身では、仮に自分に子どもいたとして、子どもがゲームばかりやってたとしても、どうやって怒っていいのか分からない気がします。
それどころか、一緒にハマっている自分の姿しか見えません。
 
子どもの頃、散々毎日ゲームをしていたので、高校を出て一人暮らしを始めると同時にゲームは封印しました。
封印と言っても、簡単なことです。
何も大層なことはしません。
ゲーム機を買わなければよかったのです。
環境がなくなると、ゲームをしていた日々のことはあっさり忘れてしまいました。
 
でも今は違うんですよね。
ゲーム機なんて無くてもスマホがあれば、面白いゲームなんてたくさんできます。
 
塾の子に
「先生、何かゲームのアプリ入れてないの?」
と聞かれたこともありましたが、
「ハマったら困るから、入れない」
と言って貫いていました。
 
でも、青春の日々を過ごしたドラクエは……だめでした。
Facebookの投稿を見た3分後には、アプリのダウンロードが完了していました。
 
ゲームから遠ざかって20年。
そんな20年ものの封印も破るのに必要なのは、たった3分でした。
青春の日々、恐るべしです。
 
ダウンロードしたゲームをさっそく起動します。
なるほどなるほど。ウォーキングをすると、勝手に敵を倒してレベルが上がっていくのね。
一通り理解したときには、時刻は夜の10時になろうとしていました。
 
そのまま玄関に向かった私は、傘の柄を握りました。
 
もう夜だし、明日でいいじゃない。
そう思ったのも一瞬で。
 
ガチャリ
 
玄関のドアを開けると、雨降りしきる外に出ていました。
思ったよりも雨が強かったけれど、そんなことは関係ありませんでした。
 
家のそばは、長い一本道の商店街。
さすがに何往復もするのはどうかと思ったけれど、かといって住宅街の小道を夜中にぐるぐる徘徊しはじめた私は、あきらかに不審者でした。
夜回りのパトカーが、青いランプをピカピカさせているのとすれ違うこと数度。
顔を覚えられたりしたらどうしよう、と不安になったけれど結局、家に戻ったのはそれから1時間半後のことでした。
 
それから。
通勤で駅に行くまでの道はもちろん、電車の中でもドラクエウォークをやる日々。
 
休日にも異変をきたしはじめました。
休日になると、外に出るようになったのです。
元々「休みの日に、お家にいるの最高!」という価値観で生きてきたにも関わらずです。
それくらいあっという間にハマっていました。
 
ハマったはいいのですが、一つ困ったことがありました。
私は、ものすごい方向音痴なのです。
方向音痴すぎて、車の免許は持っているのですが乗る勇気が無いまま……無念のペーパードライバーになりました。
だって歩く速度ですら行き先を間違うのに、車に乗ったらどうなるの……と怖くて乗れないのです。
 
勝手にあちこち歩いたら、いい大人が昼間から迷子になってしまう。
そう考えた私は、JR東日本が主催している「駅からハイキング」に参加をしはじめました。
開催時間に駅に集合して、決められたハイキングルートを歩くのです。
「お家の中は天国!」だった私がです。
自分で自分が信じられない、まるで奇行です。
 
全然運動していなかった人が、10キロ歩き始めるとどうなるか分かりますか。
仕事が楽になるんです。全然疲れなくなったというか。
理由はとっても簡単で、普通に体力がついたんだと思うのです。
私の生活習慣を変えるどころか、元気になったのです。
恐るべし、ドラクエウォーク。
 
3日前のことでした。
夕方、塾で仕事をしていて、塾生達がポツポツとやってきはじめたときのことです。
「あ、それゲーム?」
 
声の方を見ると、塾のオーナーがスマホをいじっていました。
「そう、ドラクエウォーク始めたんだ。」
 
内心ドキッ! とした私をよそに、
「それ、うちのパパもやってるんだよ」
と小学生の女の子。
 
「先週始めたばっかりなんだけど、塾生に負ける訳にはいかないから」
と誰もやってるとは言っていないはずなのに、謎の対抗心を燃やしているオーナー。
 
私もやってる……と口を開きかけた私を遮るかのように、会話は続きます。
「でもまだレベル19だけど」
 
「そうなんだ、うちのパパ20くらいだったかな?」
 
「うちのパパもね、やってて確かレベル30くらいだったよ」
 
あれ? この流れで私、レベル50ってもしかしてハマり過ぎってこと?
今までゲームしないって言ってたから、絶対「先生ゲームやるの!?」って驚かれるよね。
 
盛り上がるすぐ隣でいろんな考えが胸に渦巻き、時間が止まったように固まること、5秒ほど。
言い出せない気まずさを勝手に感じはじめた私は、一息つくと「とりあえずしばらく胸にしまっておこう」という結論に至りました。
 
その日の仕事終わりに「ラーメンでも行こう」とオーナーに誘われ、横並びに座ったカウンターで、オーナーのスマホ画面が何やらピカーっと光り、思わず画面に目をやると。
 
ドラクエウォークのレア武器が当たった画面でした。
 
オーナーめっちゃハマってるわ、と思うとともに、やっぱり言ってしまおうか決心がゆらぎます。
でも、いやいや、とすぐに思い直しました。
ゲームにハマるだけではない、体力作りと、これからは、あわよくばダイエットも目指すんだから……という大義名分を掲げながら、当分楽しんでいくつもりです。
 
 
 
 
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2019-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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