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メディアグランプリ

スイミング・プールで出会った師匠達の教え


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:水野雅浩(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ほしたら、50、150、300、500で、いーね?」
「はーい」
 
1年前の2017年10月10日午前10時。
定期的に通っているジムのスイミング・プールでの出来事だ。
私は、スイミングの選手でもないし、特にストイックに体を作っているわけでもない。しかし、健康維持のために、体調メンテナンスの一環として通っていた。
 
普段は平日の19時半頃から仕事帰りのビジネスパーソンたちと1時間ほど泳いでいた。その日は、祝日だったこともあり、午前中から泳ぎに来た。夜とは年齢層が違い、ご高齢の方が多かった。
 
当時、私は43歳。
明らかに30代に比べたら代謝は落ち、体に丸みが出てきた。特におなかだ。
おっさんになるか、オトコになるのかの瀬戸際だった。
 
どうせなら、いつまでもスリムで精力的な男性でいたい。
そんな思いもあり、1年前からなんとなく、泳ぎ始めた。
 
はじめは25m泳ぐのもきつかったが、ようやく1kmが泳げるようになった。
もちろん、一気にではない。
25m✕2本の50m単位を20本泳ぐのだ。
 
これでも正直、きつかった。
 
折返しの500mを過ぎると、しばらくプールの縁にしがみつき息を整えないと次に行けない。これをあと、1本、あと2本と繰り返すのだ。我ながら、頑張ってるな、と思った。
 
私が一息ついていると、隣のレーンに何人か人が入ってきた。
 
おじいさん1人、おばあさん3名。
見た目は60後半から70代前半といったところだろうか。
 
人生100年時代。
水中ウォーキングでもするだろうか、と微笑ましく見ていた。
 
「ほしたら、50、150、300、500で、いーね?」
おじいさんがおばあさん達に声をかける。
 
「は~い」
おばあさん達も当たり前のように応え、ゴーグルを装着する。
 
50? 150? 300? 500? は??
 
何を意味しているのか分からず呆然としている私を尻目に、おじいさんが、先頭を切ってクロールで泳ぎ始める。おばあさん達も、なんの躊躇もせずに、クロールで泳ぎ始める。
 
速い。
 
まずは、25mを泳ぎきり、一休みするかと思いきや、くるりとターンをして次々とこちらに戻ってくる。
 
まじか。
 
こちらの岸に全員戻ってきたのをおじいさんが確認すると、
「ほしたら次行くよ~」
おじいさんがおばあさん達に声をかける。
 
「は~い」
おばあさん達も挨拶を返すように応える。
 
まじか。
 
50、 150、 300、 500は
50m 150m 300m 500mだったのだ。
 
まじか、まじか、まじか。
 
私も、慌てて、泳ぎ始めた。
50mを泳ぎながら、一気に150m? その次が300m? ノンストップで500m??意味がわからん。しかも、どう見ても、70代のおじいちゃん、おばあちゃん達だぞ??
 
それまでは、淡々と頭を空っぽにしながら泳いでいたのに、パニックになった私の泳法は乱れ、余分なところに力が入り50mを泳ぐのも至難担っていた。
 
なんとかルーティンの1,000mを泳ぎきり、精神的にも肉体的にもフラフラになりながら、プールの暖気室でクールダウンをしていると、先程のシニア一団がひと泳ぎ終えて入ってきた。暖気室の中で「はい、飴ちゃん」と言いながら、飴を口に放り込み、今日の泳ぎを振り返りながらワイワイ談笑している。
 
私はたまらず、声をかけた。
「あの~、隣で泳いでいた者ですが、皆さん、どれぐらい泳いでるんですか」
と声をかけると、
「今日は1,000ですけど。普段は2,000かな」
という。
 
「皆さんは水泳の選手なんですか??」と聞くと、
 
ただの、じじばばよー。
スイミング始めたのだって60の時。
その時は、水中ウォーキングだけで、顔を水につけることも嫌だったもん。
でも、隣のレーンを見たら、私ぐらいの年齢の人がビート板使って泳いでたのよ。
だったら、私もできるかなって。
そこからよ。
 
「水に顔をつけられないところから始まって、今は2,000mですか……。 私は1,000m泳ぐのもやっとなんですけど、どうやったら、2,000mを泳げるようになりますか?」
 
いきなり2,000m泳ごうとするからダメなんよ。
1,000m泳げたら、次は1,025m。それで体がなれてきたら1,050m。
焦らずに少しずつ距離を伸ばしていけばいいのさ。
出来もしないことにチャレンジしても、筋肉痛の揺り返しが来てスイミング自体が嫌になっちゃうよ。肩の力抜いて。はい、飴ちゃん。泳いだ後のこの飴が美味しくてね。
 
というと、「そうそう!」とみんながにこやかに声を合わせた。
 
私はビジネスパーソン達の生活習慣を整えるコーチングの仕事をしているが、スイミングの暖気室のシニア達との会話はまさに生活習慣を変える、行動変容のプロセスそのものだった。
 
・小さく始める。
・ゴールを達成したら自分へのご褒美を準備しておく。
・仲間と喜びを分かち合う。
 
人間には普段生活している心地よいゾーンにとどまろうとする性質が備わっている。これは人間の本能でもあるが、これに縛られてしまうと、新しい行動を踏み出すブレーキにもなる。そこで、赤ちゃんがハイハイするように行動変容を小さく始める「ベイビーステップ」という手法が用いられる。
 
また、「達成後のご褒美」も効果的だ。実際、暖気室で頂いた黒糖の飴は、疲弊しきっていた私の心と体を癒やしてくれた。飴がこんなに美味しく感じたことは今までなかった。
 
最後に、「共有と振り返り」も重要だ。ダイエットなども一人で黙々とやるよりも仲間と一緒に実行すると継続率が高くなることが分かっている。そして、何よりも楽しむこと。そして、仲間と喜びを分かち合うことで学びもモチベーションも高くなる。
 
おそらく、理論的なことは何も分からずとも、実践していたのがプールで出会ったシニアたちだった。
 
実際、1年たった今、プールで出会った師匠達の教えを実践しながら、ようやく2,000mが泳げるようになった。
 
40代も半ばになると、収入も安定し、仕事の地位も安定し、保守的になりがちな時期だ。しかし、小さく始めることが想像もしなかったような景色を見せてくれることもある。
 
40代のおっさんとオトコの瀬戸際にいる男性陣よ。人生100年時代、小さくまとまるにはまだ早い。小さな一歩を踏み出そう。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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