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サーフィンは人生みたいだ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:有村奈津美(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
サーファーと聞くと何を思い浮かべるだろうか? よく焼けた肌に、引き締まった体、長めの風になびく髪、少しチャラそうと感じる人も多いのかもしれない。実際、私はサーファーのことチャラそうだと思っていた。
 
しかし、初めて自分でサーフィンを体験してから、そんなイメージはがらりと変わった。サーフィンは思っている以上に奥が深く、そして勇気と努力を要するのだ。
 
サーフィンを簡単に説明すると、板にうつ伏せで寝っ転がり、手でパドルをして、沖まで出て行く、沖でしばらく待って、いい波がきたら、波に乗る、波に乗ったらあとは気持ちよく走るだけだ。
 
こう書くと、なんだ、思ったよりも簡単そうじゃないか、と思うだろう。私もそう思っていた。
 
しかし、そんな簡単なものではなかったのだ。
 
沖に出て行くまでに、何度も自分のところに波が押し寄せ、パドルをしてもしても進まない、なんなら浅瀬に押し戻されることの方が多い。そして、浜辺から見ていると穏やかに見える波でも、うつ伏せに寝っ転がった自分の目には、目の前に壁が立ちはだかり、それが崩れて襲いかかってくるかのように感じる。
 
波に押し戻されても、なんとか踏ん張り、幾度となく襲ってくる波に、少しの勇気を出して立ち向かい、ようやく沖に出る。サーフボードの上に座り、波を眺める。はるか地平線の向こうに小さなうねりが見える。波が近づいてくるにつれ、方向転換をし、ボードに寝っ転がり、「1, 2, 3, 4, 5, ……」と、パドリングを開始する。最初はゆっくり手を動かすのだが、波がもうすぐ来る! という時に、より力を込めて水を掻く。そうでなければ、どんなにいい波がきたとしても、あっという間に置いていかれてしまうのだ。
 
「1,2,3……!」と力強くパドルをしたあと、ようやくボードが波の力に押されて走り出す。スピードが増したサーフボードの上で、タイミングを図り、立ち上がる。ここまできてもなお、まだ安心はできない。後ろ足に力を込めすぎると、ブレーキがかかり、途中で失速してしまう。反対に、前のめりになり過ぎると、ボードの先が水の中に沈み、ボードと共に体は海の中に投げ出される。
ここまで書くと、なんとなくサーフィンの大変さが伝わっただろうか。しかし、伝えたいのはサーフィンの大変さだけではない。大変なだけなら、こんなにも多くの人がサーフィンの虜にはなっていないだろう。私がサーフィンを通して感じたのは、サーフィンは人生みたいだ、ということだ。
 
目の前の困難を乗り越えても乗り越えても、また壁が立ちはだかるように感じる時、一生懸命前に向かって進む努力をしているのに、一歩も前に進めていない気がする時、そんな瞬間は誰でも経験したことはあるだろう。サーフィンでいうと、まさに目の前から押し寄せて来る波と戦っている時なのだが、少し遠くまで目を向けてみると、2個先の波を超えたら、穏やかな場所が見えたりする。「しんどいけど、この波を超えたら、沖に出れる!」そう思うと、最後の力を振り絞れたりするものだ。そうやって、ひとつめの波を超えた時、懸命に動かした腕を休ませたくて、水を掻く手を止めそうになる。そんな時、サーフィンのコーチに決まって言われるのは、「パドルを止めるな。止めたらどんどんキツくなるぞ。漕ぎ続けた方が楽だ!」というセリフ。確かに、一度手を止めると推進力がなくなる分、また一から漕ぎ直しになり、ものすごくエネルギーを使うのだ。これは、何か困難な課題に直面している時も同じなのかもしれない。「あーもうやめたい。」と思う瞬間は、たくさんあって、その中でどれだけ止まらずに進み続けられるか、が最終的にその課題を乗り越えられるかどうかを決めるのではないだろうか。
 
サーフィンでは、波をいくつか超えたあとは、穏やかなところに必ず出る。そこでは、ボードの上に座りながら、多少腕を休ませ、遠くからくる波に目を凝らす。ここで大事になってくるのは、近くの波ではなく、遠くの波を見ることだ。近くの波を見て、「あっ!いい波きた!」と慌てて方向転換して波に乗ろうとしても、波に置いていかれるのがオチだ。しっかり心の準備を整えながら、ベストなタイミングを待って、タイミングがきたら、迷わず漕ぎ出す。ここぞ、という時に力を込めるのだ。最後の数回のパドルが波に乗れるかどうかを決めてしまう。
 
そして、波に乗れたあとは、前後左右のバランスを取りながらも、波に乗れている瞬間を楽しむ。その乗れた瞬間の爽快さ、達成感がたまらないから、また1から波を超えることになっても、沖へと向かうのだ。
 
バランスを崩して、波に飲まれた時、海水を大量に飲み込んで、心が折れそうになる時もある。そんな時は、自分が確実に乗れる小さな波に乗ってみる。そうすると、自信を取り戻せて、もう少し大きな波に挑戦してみようかな、そんな気持ちが湧いてくる。
 
波を何度も超えるうちに、踏ん張りどころ、リラックスするところが感覚でわかってくる。そうすると、波に向かっている時も、これを越えればいけるぞ、と自分で自分を励ますことができる。
 
キツイ時に少しだけ踏ん張る力と、波に立ち向かう勇気、そして、自分の中で頑張るところとリラックスするところのバランスを取る力、それが私がサーフィンから学んだことだった。
 
 
 
 
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2019-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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