メディアグランプリ

災害はスクリーンの向こうにはない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:緒方愛実(ライティング・ゼミ特講)
 
 
最近非常に台風が多い。ここ数ヶ月の週末は、台風の影響でスケジュールはめちゃくちゃになってしまった。
ニュースでは、連日被災地の映像を映し出している。未だに不便を強いられている方がいらっしゃるかと思うと、胸が痛い。幸い、私の家は台風19号の被害を受けることなく、日常を過ごしている。だからこそ、私はあの日のことを強く思い出す。
 
当時私は中学生、修学旅行を控えていた。飛行機に乗って沖縄へ行く。同級生の中には、初飛行機の子もいて、みんな心待ちにしていた。
 
9月11日。
その日の夜はいつもの様に、パジャマに着替えて寝る準備をしていた。
「ちょっと、テレビ見て!」
居間から母の叫び声がした。ただならぬ様子に急いで向かう。テレビには、青空をバックに高層ビルが映し出されている。その屋上付近、そこから黒い煙がもうもうと上がっていた。信じられないことに飛行機が突っ込んだのだという。
事故? 画面を凝視していると、そこにもう一機、飛行機が突込ん出きた。ビルが崩壊する。
これは事故なんかじゃない! 私は目を見張った。
後に「9.11米国同時多発テロ」と呼ばれる未曾有の大事件。大変なことが遥か遠くアメリカで起こっている。
あまりのことに頭がついて来ない。目の前で繰り広げられる悪夢は、非現実的で、それは、どこか映画のワンシーンの様だった。
数日後、学年集会があった。修学旅行は、テロを警戒して、飛行機の使用を避け、新幹線で行ける範囲の場所への旅程変更をするという。嘆く友達の中で、私はただぼんやりとしていた。遠く外国の出来事なのに、ここにまで影響がでるのかと不思議な気持ちだった。
修学旅行も無事終わり、時間が過ぎていくと、私の中であの大事件は風化していった。
 
2005年3月20日。その日はお彼岸、休日の朝のことだった。異様に外が静かだったことを覚えている。
高校生になった私は、家で兄と母とのんびりと過ごしていた。1階では、母と兄が、私は1人、階段を上って二階の部屋に向かっていた。部屋に入った瞬間のことだった。
窓がガタガタと鳴り出した。
トラック?
自宅は道路に面している。小さな日本家屋なので、道路に大型の車が通ると、家が揺れることがあったのだ。
だが、揺れは止まらない。
それどころか、激しくなっていく。窓が、床が、家具が、家が、視界が揺れ続ける。
地震だ!
私は咄嗟に、窓や家具から離れるために、部屋の真ん中へ行き、うずくまった。
ドン、と大きな音がして、何か大きな物が私が先程まで立っていた場所に飛んできた。状況を把握する余裕はなかった。ただただ、身を縮こませて、必死に耐えた。
どれくらいそうしていただろう。揺れは次第におさまっていった。
シン、と静まった部屋で、転がるようにして床に座り込んだ。
そういえば、さっき何が飛んで来たのだろうと、横を見てぎょっとした。
扇風機の頭だった。
壁の天井に近い高さにしっかりと打ち付けていた、小型の扇風機の首が折れて落ちたのだ。もし、咄嗟に動いていなかったら……。頭が理解し始めると、体が恐怖でカタカタと震え出す。
「大丈夫か!?」
心配して兄が駆け上がって来てくれた。兄の指示で、震える足を懸命に動かして、みんなで家の外に出る。外壁に大きな亀裂が入っている。
幸いなことに、家族、友人ともに無事だった。
だが、安心はできなかった。数日置きに、数ヶ月間余震は続いた。
家にいても、学校にいても、寝ても覚めても地震が来る。いつどこで起こるかは、予測不可能。連日の止まない恐怖に、友人は学校で泣いていた。
これが私が初めて体験した災害、「福岡県西方沖地震」での記憶だ。
 
首の折れた扇風機を視界に入れたあの瞬間、私はやっと気がついた。
安全なんて、ずっと平穏で生きていけるなんて、そんな保証どこにもないのだと。
私は、自分は安全圏にいると勘違いしていた。
テロも、災害も、スクリーンの中のできごとではない。
遥か遠くの話じゃない。
いつ巻き込まれても不思議じゃない。
私は、自分が被災者になって初めて気がついた。
長い夢から、目が覚めた様だった。
 
あれから数年がたった。
2年前の「九州北部豪雨」で、再び福岡・朝倉が甚大な被害を受けた。私の自宅も土砂災害にあい、一時避難をよぎなくされた。
その後も、「3.11東日本大震災」など、日本各県で痛ましい災害が起こり続けている。同じ国のどこかで今も不安な日々を過ごしている人がいる。
被災者になったからこそ、その恐怖と悲しみ、不安を理解することができた。ニュースを見る度、胸が苦しくなる。
残念ながら、当時よりは記憶が風化しているかもしれない。だが、時折あの恐怖をフラッシュバックすることがある。ドラマや映画の地震のシーンを見ても足がすくむ。
そして以前より、ニュース、特に天気予報の情報をチェックするようになった。SNSなどで、災害避難時の対処法の情報が流れると、意識して覚えようとする様になった。大雨の予報が出れば、すぐに避難できるように、荷物をまとめる準備は心得ている。
もう、私も観客ではないのだと、気がついてしまったから。
 
どうか他人事と思わないで。
完全に安全な場所はどこにもない、明日も生きていられる保証はない。
どこでどんな災害が次に起こるのか、それは誰もわからない。災害だけじゃない、事故や事件に巻き込まれることもあるだろう。
臆病で、用心深いくらいが丁度いい。
「もしも」をいつも頭の片隅に置いて備えて欲しい。
あなたと、あなたの大切な人やものを守るために。
災害はスクリーンの向こうにあるのではない。
あなたが主人公になる可能性は、いつだって潜んでいるのだから。
 
 
 
 
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2019-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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