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40歳からの「リベンジ」ライフ~「チャレンジ」よりパワフルな生き方~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:井上紗由美(ライティング・ゼミ特講)
 
 
3月、私は4500人の前で舞台に立っていた。
40歳になって初めてチャレンジした、ミュージカルの舞台だ。
ちなみに私は舞台役者ではないし、普段舞台に関わった仕事をしているわけではない。
そんな私がなぜミュージカルの舞台に立ったのか。
 
昨年9月、何気なくFacebookのタイムラインを見ていた時に、ふと目に留まった記事。
東京のNPO法人が主催している「100人、100日でミュージカルを作り公演するプログラム」が地元浜松で初開催されるという。公演会場はアクトシティ浜松大ホール。
 
……アクトシティ浜松の大ホール???
 
私が驚いたのは、その公演が開催される会場。
アクトシティという、静岡県内で一番高いビルの施設内にあって、国際的な音楽コンクールも開催される全国屈指の音楽ホール。その中でも一番大きな大ホールで公演をやるというのだ。観客数は数千人規模である。
 
そんな大舞台でミュージカルの舞台に立つキャストを一般公募して、素人100人で仕事の合間に練習をして100日でミュージカルの舞台を作り、立ってしまおうというのだ。なんてクレイジーな!(笑)と思ったが、私は内心ちょっとワクワクしていた。
 
アクトシティの大ホール。誰でも立てる舞台じゃない。
あの大きな舞台に立ったら気持ちいいだろうなぁ!
 
実は、高校時代に演劇部に所属していた。
舞台が好きとか、役者になりたかったというわけでは全くない。
でも、入部してすぐにやった台本読みが楽しくて、いくつか公演の舞台にも立った。
舞台の楽しさは経験済みだったのだ。
 
ミュージカルの舞台経験はないけれど、歌や踊りは楽しいし、100人もキャストがいるなら私一人へたくそでもきっとなんてことはない。私にも出来そう、やってみたい!そんな風に気持ちは盛り上がり、気づいたら体験会に応募して出演を決めていた。そして約4か月後、私は大ホールの舞台で3公演、計4500名の観客の前に立っていた。
 
私がこのミュージカルへの出演を決断したのは、大舞台に立てる、ということだけではなかった。高校時代に感じた、演じることの難しさ。せっかく役を与えられても自分の思う通りには全く表現できなかった。舞台の上で自分をもっとのびのびと自由に表現できたらどんなにかよかっただろう。でもやってみて「私には無理だ」と思った。それで、舞台の上に立つことを私はやめた。それが20年以上の時を経て、舞台に立つチャンスがやってきたのだ。
 
今の私に、高校生の時に感じていたような気負いはない。
しかも、一人じゃなくて100人もの人たちと一緒に舞台に立つのだ。「うまくやらなくちゃ」いう焦りもなく、舞台に立てることに純粋にワクワクした。
 
歌があったこともよかった。歌の歌詞やメロディが自分の想いと共感する内容でもあったため、私は自分の感情を声とともに表現することができた。
それは、高校の演劇部時代には感じられなかった、表現する、伝えることの楽しさだった。
 
自分を表現するってこんなに楽しくて気持ちのいいことなんだ。
こんな風に自分の表現する場を持ちたい。そんな気持ちが、私の中に湧いてきた。
止まっていた時計が、動き出したかのようだった。
 
実はもう一つ、エピソードがある。
 
私がこのミュージカルの舞台に立つことを決めてから、ずっと連絡したいと思っていた人がいた。それは、高校生の時に演劇部に入るきっかけをくれた、一つ年上の先輩だった。
私に舞台を立つきっかけをくれた彼に、ミュージカルの舞台を見に来てほしかった。
 
高校卒業以来20年以上会っていないので携帯番号は知らないし、誰に聞いても連絡先が分からない。それで実家にあった高校の名簿を引っ張り出してきて、そこから彼の実家に連絡したのだ。きっとこんなことでもなければ一生連絡することもなかっただろう。先輩は地元には住んでいなかったので、電話に出てくれた彼のお母さんに私の連絡先を伝えておいた。
 
結局ミュージカルの当日までに彼からの連絡はなかった。妙に自分だけ気持ちが盛り上がって先走ったような気がして、なんだか一連の行動が恥ずかしかった。きっともう、彼から連絡が来ることはないだろう、そう思っていたある日のこと、LINEの連絡先に、彼の名前がぴょこん、と現れたのだ!
 
いきなり飛びつくのも品がないかな……と、少し待ってから、でもせっかちな私はやっぱりこちらからメッセージしてしまった。「25年ぶりですね、お元気ですか?」と。彼からは少し間をおいて返信があった。「驚いたよ。まるでタイムマシンみたいだ」
タイムマシンみたい……彼の言葉が本当にそれを表していた。
彼とはあれからぼちぼちやり取りをしている。
止まっていた時計がまたひとつ、動き出した。
 
昔やりたかったけどできなかったこと。
無理だと途中であきらめてしまったこと。
連絡が途絶えてしまったあの人のこと。
 
もしかして、止まったままの時計はあちこちにあるのかもしれない。
昔できなかったことを今の自分なら実現できるのかもしれない。
 
想えば、30代までの私はとにかく今の自分を最高のものに更新したくて新しい世界へと飛び出していく連続だった。過去は脱ぎ捨てて、新しい自分に変わっていく、そのことが前進だと思っていた。
 
でも、40歳を迎えて今の自分が舞台に立ってみて思う。
きっとあの頃の自分はこんな風に楽しめなかった。
人目を気にせず、もっと堂々と自分を表現したかった。
今の自分だから、それができたのだ、と。
あの頃の自分は、そんな自分をどんな風に見ていてくれているかな。
誇らしく思ってくれているだろうか。
 
そう思ったら、過去に置いてきたたくさんの忘れ物があるような気がして、ふと走り抜けている足を止めてみたくなった。
 
それを振り返って取りにいってみるのはどうだろう。
ふと、そんな想いが廻った。
今の自分なら、あの頃の自分の夢を叶えられるのかもしれない。
それは未知の世界に飛び込むより、きっとずっとパワフルだ。
 
走り抜けてきた「チャレンジ」の30代から、
振り返りながら過去の自分の夢をかなえていく「リベンジ」の40代へ。
前を向いて走っていた歩を止め、踵を返して逆方向へ向いてみる。
 
私のこれからの風が少し変わっていきそうな予感がして、静かにワクワクしている。
 
 
 
 
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2019-11-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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