君たちの愛を見せつけてくれ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:砂口智子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「あ~終わったぁ~! 今日の結婚式とっても素敵だったね~」
10月某日、都内。二次会が終わった21時過ぎ。
同じ式に出席した友人と、今日の感想を述べながら帰路につく。
高砂に飾ってあった花と引き出物を持つ両腕が、ずしりと重い。
素敵な結婚式だった。
そんなテンプレートな台詞しか出てこなかったけど、瞼の裏は未だにきらきらと輝いている。
今日の結婚式は何かが違った。不思議な満足感が胸を満たす。
一体何が違ったんだろう……?
新婦に特別に思い入れがあった? 料理が美味しかった?
余興が面白かった? 引き出物のセンスが良かった?
首をかしげる。理由はそれではない気がする。
30歳にもなると、結婚式に呼ばれた回数は両の手くらいはある。
どれも素敵だったけれど、その素晴らしさはどちらかというと、新郎新婦との関係に紐づいていて、
関係が近しいほど輝き、義理で出席したものはモノクロだ。
今日は会社の同期の結婚式だった。友情よりの義理。いつもなら何事もなく流れて終わりのはず。
でも披露宴を終えた私が感じたのは“今まで見た中で一番いい式”だった。
思いつく理由はひとつ。なんというか“見せつけられた”気がしたのだ。二人の愛を。
ガツン。まさに幸せで殴りつけられた様な感覚。
惜しみなくさらされる二人の愛。なるほど、私たちはこれが見たかったのか。
それは私にとって新たな発見でもあった。
はじめに感じた良い意味での違和感は、結婚式の受付の仕事を終えた、その直ぐ後にやってきた。
新郎新婦の親族に集めたご祝儀を託し、ゲストの控室に戻る。
部屋に入った瞬間、びっくりして声を出してしまった。
「え? ゲストの控室に新郎新婦がいる!!!!」
なんとそこに新郎新婦がすでにゲストに交じって和やかに談笑していた。
頭に疑問符が飛ぶ。え? どういう状況なの?
直ぐに花嫁の元へ行き、お祝いの言葉と素直な疑問を口にした。
彼女は笑って言った。「出し惜しみは、しないことにしたの」
そのあと人前式に移り、集合写真を撮り、披露宴会場までの移動。そこまではお決まりのパターン。
しかし披露宴会場の扉を開けた瞬間、私は思わず笑ってしまった。
「またいるじゃん!!! 新郎新婦!」
「いるよ! だって私たちの式だもの」そう言ってふたりは幸せそうに笑った。
確かに、通常の結婚ではヴァージンロードを歩くまで、新婦と話すどころか見ることも叶わない。
それは披露宴中も同じで、歓談の時間に新郎新婦の席にお邪魔する時ぐらいしか話す機会はなく、
それも数分に満たないほど短い。お祝いに来たけど、主役は遠い壇上で微笑んでいるだけ。
結婚式にふと訪れる、寂しさや疎外感はそういった所に由来するのかもしれない。
だから出し惜しみしない。そう言って、いく先々でゲストを迎えてくれる新郎新婦に、こちらも自然と言葉が零れる。間近で見るふたりはきらきらと輝いていて、まさに愛ここにありという感じ。
その後の披露宴も、とても愛が溢れる内容だった。
主賓の挨拶では、新郎が新婦に惹かれたエピソードが事細かに披露され、
新婦作のプロフィールムービーでは、新居で料理したり、楽器を演奏したりする普段の二人の映像まで入っていて、見ているこちらの方が照れてしまう程、ふたりの幸せが可視化されていた。
私はこの式に出るまで、誤解していた。
幸せの絶頂でいちゃつくふたりを見ると、死ぬほど胸焼けしうんざりするのかと思っていた。
でも実際、恥ずかし気もなく愛を表明しあう姿を見た今、うんざりするどころか、寧ろ感動さえしている。
何故なら私たちゲストが見たかったのは、誓いのキスやファーストバイトのような演出された
“幸せっぽい姿”ではなく、純粋に愛に狂ったふたりの姿だったのだ。
その後の余興では新郎がサプライズで、『君とずっと一緒にいたい』というニュアンスの歌を歌い、
新婦がコメントで「私も……ずっと一緒にいたいです」とアンサーを返した。
最後の最後まで、ふたりはお互いへの愛を口にした。
これから結婚式に悩んでいる人へ、ただのゲストの一意見を言わせてもらいたい。
結婚式は有名な童話みたいなもので、結末はハッピーエンドなことを誰もが知っている。
ケーキカットもお色直しも、シャッターチャンスではあるけど、
本当に見たいのは、そんなテンプレートな童話ではなく、主役のふたりの生の物語なのだ。
ゲストへの心遣いは、美味しい料理でも、特別派手な余興でも、良い引き出物でもない。
ただ、君たちのことが知りたい。恥ずかしいかもしれないけれど、君たちの愛を見せつけてくれ。
それを見て「もうお腹いっぱい、ご馳走様。末永くお幸せに」そうコメント出来るのを、
心から楽しみにしている。
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