メディアグランプリ

100箱の段ボールを前に考えたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:畠山朱美(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「何でこんなに増えてしまったかなぁ……」
部屋に積み上げられた段ボールの前にわたしは立ち尽くしていた。
 
今、目の前にダンボールが100箱重ねられている。
これは、すべてわたしの本だ。
このなかには、単行本、文庫、漫画、雑誌、全集、画集、写真集、そして辞書まで様々な本が詰められている。
冊数は数えていないが、体重計で重さを計ったところ、1箱あたり10kg〜15kgの重さだった。
となると、全部で1t〜1.5tということになる。なかなかの重さだ。
 
「こんなに本があると、2t車を追加しなければ積載オーバーになってしまいますねぇ」
物量を確認に来た引越し業者が、山積みの本の箱を眺めながら言った。
 
「はあ……」
2tトラックの料金を頭のなかのソロバンではじきながら、
「なんでこんなに増えてしまったかなぁ……」
とダンボールの山を眺める。
 
……と、悩んでいると見せかけて、同時に新しい家でこれらの本に囲まれている自分を想像しニヤついているのは、本好き、本中毒、本狂いの人ならわかってくれるはずだ。
 
この箱のなかに眠っている本は宝だ。
 
わたしにとって本は、ディズニーランドだ。まさしく夢の国なのだ。
本にはキラキラした楽しい世界の入り口がたくさんあるのだ。
 
本の扉を開けば、どんな時代にもどんな場所にも瞬時に行くことができる。
まさにドラえもんの「どこでもドア」である。
美しい物語のなかにも、絶対に触れることのないであろう裏社会にも、ちょっと憧れていたけれど諦めた探偵の世界にも入っていくことができる。戦国の世で伊達政宗にも会えるし、未来にだって行けるのだ。
この小さな部屋の中にいて、世界中の絶景や宇宙の景色までもが目の前にあるのだ。すばらしい!
 
わたしは、幼い頃から本を読むのが好きだった。本さえあれば静かで手のかからない子どもだった。物語のなかの登場人物に自分を重ね合わせて、世界の中にどっぷり浸かっていた。自分の暮らす小さな世界から飛び出せるような気がしていた。
大人になると、本屋で本を探索しはじめる。今のようにインターネットで検索できる時代ではないので、自分好みの本を置いている本屋を見つけたり、店主に聞いてみたりして世界を広げていくのが楽しみだった。
その後、本好きにとって禁断の本屋勤めをしてしまう。人文・ビジネスの担当になったことから、社会学やビジネス書までに興味の幅を広げてしまった。本屋には本の情報が溢れている。同じ店員同士の情報交換はもちろん、出版社や問屋の営業の人たち、たまには作家本人が登場するなど、本に囲まれた幸せな日々のかわりに給料の大半は本に化けた。
 
たくさんの扉を開けて、本のなかへ旅をした。
そして今でも、毎日本の扉を開いている。
 
夢の国にはまだまだキラキラした世界への入り口がたくさんある。
本の楽しみは、内容だけではない。
 
本は、「紙」の世界への入り口でもある。
本のほとんどは、紙でできている。
紙の色、手触り、匂い、風合い。紙の魅力を堪能できる。
本文紙の白い紙も千差万別。
ページをめくる手触りもたまらない。
 
さらに、「文字」という入り口がある。
本には必ず文字がある。
写真集や画集にも必ずどこかに文字がある。
文字に込められた思いを想像するのも楽しい。
 
そして、本には「装丁」という入り口もある。
文字があり、紙があり、その本の世界を包む装丁がある。
本の出で立ちに魅了され、高額な本を「えいやっ!」と買ってしまうことも少なくない。
ジャケ買いからの世界の広がりという楽しみもある。
本の装いは魔力だ。
 
「本」は楽しい。
つまり、わたしは「本」そのものが好きなのだ。
書店員、書道、シルクスクリーン印刷、活版印刷等々、興味に任せて色々やってきたけれど、結局大元は「本」につながっているということなのか。
 
わたしにとって、「全ての道は 本 に通ず」
 
ということに気づいたわたしは、「本づくり学校」に通っている。
本そのものが好きなのだから、本そのものを学ぶのだ。
月に1〜2回、仙台から横浜へ通っている。今年で2年目になる。
そこでは、本の成り立ちや製本の方法、紙の選び方、編集デザインまでを学ぶ。自分で一から製本をして本を製作する実習がメインだ。
 
本づくり学校に通うようになってから、気づいたことがある。
内容、編集、文字、紙、印刷、装丁すべての要素が集結し、それぞれが融合したときに素晴らしい本が出来上がる。それぞれのプロが妥協せずに知識や技を極めることによって、本はわたしたちの手元に届けられる。
本は様々な要素の集大成なのだ。
それぞれのプロは、作品の魅力を最大限引き出すために努力を惜しまない。そして、わたしたち「読み手」のことを想像することを忘れない。
「本」へ注ぐ愛情は、わたしたち「読み手」に注がれる愛情でもあるのだ。
 
本のことを学べば学ぶほど、「本」が愛おしくなった。
本のことばかりを考えるようになった。
 
さあ、100箱の本を2tトラックに乗せて、新しい土地へ行こう。
これからも本を抱えるようにして暮らしていこう。
 
いざゆかん!
 
 
 
 
***
 
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http://tenro-in.com/zemi/102023
 

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2019-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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