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メディアグランプリ

人生最高のダイエットトレーナーは、高円寺のキャバ嬢キャッチだった 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大滝菜摘(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「ごめん、もう会いたくないわ」
 
大学2年の春だった。
 
1年間の遠距離恋愛を乗り越え、春の上京を待ちに待っていた彼から告げられた一言だった。
 
目の前が真っ白になり、四ツ谷の交差点で思わず立ち止まった。
1年間も待っていたのに。その間に、女子寮を飛び出してあなたが好きそうな街を選んで引っ越しまでしたのに。交差点の信号を3つは見送った。流れる人々の姿がスローモーションに見えた。
 
人生で初めての失恋の理由は、あまりにシンプルで辛辣なものだった。
 
大学進学をきっかけに、晴れて夢のひとり暮らしが始まった。
自由な時間に起き、自由な時間に帰り、自由な時間に食事する。誰にも何も文句を言われずに、好きに生活することができる!生活を自分の手でコントロールできる!
 
そうなるはずだった。
 
まずは女子寮に住み始めた。しかし、23時の門限が疎ましく、さらなる自由を求めた私はたったの10ヶ月で退寮し、アパートへ引っ越すことにした。
 
「住みたい街ランキングで、高円寺がすごく人気なんだってよ!」
 
高円寺か……。
そういえば、古着屋がたくさんあるって聞いたな。
おしゃれ好きの彼、よろこぶかな。
 
この街に住んだら……。そう考え始めた瞬間、私の妄想は勢いよく広がり始めた。
遠距離をしていた彼は、ファッションに詳しかった。シティボーイ向けの雑誌と古着屋をこよなく愛していた。一方私はおしゃれに全く興味がなく、彼の話にいちいちついていけないのが歯がゆかった。
 
古着屋のひしめくこの街に住めば……。
きっと、自分もセンスが磨かれるだろう。
休日には2人で古着屋巡りでもするのだろう。
 
そうなる、はずだった。
 
今思えば実に単純すぎる脳みそである。
天気のいい秋の昼下がりに内見をしたのも失敗だった。
 
日向でまどろむ猫の姿が、あまりに平和だったのだ。
高円寺のディープな部分は、日が落ちて猫がどこかへ消えた後に浮かび上がってくるというのに……。
 
夢の高円寺ライフが始まって数日後、次々と悩みのタネが芽を出し始めた。
 
悩みのタネ、ひとつめ。
生活を自分でコントロールどころか、むしろ自堕落になった私は、気づかないうちにめちゃくちゃ増量しはじめた。親のありがたみは離れてからわかるものなのだ。
 
悩みのタネ、ふたつめ。
高円寺駅周辺の商店街は、想像以上にディープな店が多かった。
というか、風俗店が多かった。
夜には黒いコートに身を包んだキャバクラのキャッチが等間隔で立っており、お客さんを呼び込んだり、女性には「お姉さんキャバクラ興味ある?」の言葉を投げ続けていた。
 
駅から自宅までの間に、おそらく3店以上のキャバクラがある。
そしてどうやら、店の階級は駅に近いほど高く、離れれば離れるほど低くなるようだった。
駅から離れた店の方が、だれかれ構わず「バイトしませんか?」の声をかけるのに対し、駅前の店ではお兄さんの鋭い目利きでスカウトしているようだった。
 
田舎者の私にとって、その光景はあまりにディープなものだった。
「お姉さん、落し物だよ」と声をかけられ、ハッと振り返るとその男たちが「嘘でしたー、バイト興味ない?」と言ってくるから怖かった。
 
高円寺、最悪。
 
キャッチが怖くてたまらず、アーケードを歩くのも夜道を歩くのも嫌になった。
でも、彼が上京してきたら。
その妄想だけが私の高円寺ライフを支えていた。
 
そして、春。
交差点で開いたあのメールである。
 
「もう会えないって、なんで? 突然すぎない?」
 
震える手で返すと、なんともシンプルな返事が帰ってきた。
 
「ごめん……。でも俺、デブ無理なんだよね」
 
デブ……。
確かに、上京してから5キロも体重が増えて、春の健康診断の問診では「体重がかなり増えてますけど、何かありましたか?」とメンタルの心配をされたくらいだった。
確かに、今の私は、デブだ。
 
思えば引っ越ししたての頃は各スポットで声をかけられていたキャッチも、駅から一番遠い店にしか声をかけられなくなった。
 
腹が立った私は、あれだけ嫌っていたキャッチに再び声をかけらるべく、一念発起した。
 
食事制限をした。運動の為に、四谷三丁目から吉祥寺まで歩いたりした。
すると、体重が2キロ戻った頃に、中間グレードのキャッチから頻繁にお声がかかるようになったのである。
 
以前は逃げるように断っていたキャッチも、今はなんだか余裕を持って断れる。
それがしばらく続くと、むしろ声をかけられるのが楽しみになってくる。
 
駅に一番近い店のキャッチは相当手強かった。
いつも同じ金髪のお兄さんが立っているのだが、目があってもなかなか声をかけてこない。
 
悔しい。
振られた男を見返すように、キャッチから声がかかるまでめちゃくちゃ頑張った。
 
目があっても声がかからないのが一番悔しい。
絶対に、あのキャッチからスカウトされよう。
 
ファッションも変えてみた。おしゃれな友達の服を真似して、雑誌のトレンドもめちゃくちゃ調べて真似してみた。
新しい美容室に入り、髪型も変えた。
 
イメチェンをはじめてから約3ヶ月後、あの金髪のお兄さんと目があった。
あー、今日も基準には届きませんでしたか……。そう思い、通り過ぎようとした瞬間、
 
「お姉さん、バイト、興味ありませんか?」
 
もはや体験入店してしまいそうなくらいに嬉しかった。
やっと、やっと、田舎者でデブのコンプレックスを背負った私から、抜け出せることができたんだ……!
 
キャッチの目利きを楽しみはじめてから、私は高円寺が怖くなくなった。
 
変化を起こすたびに、そのお兄さんをチラと見る。
くっ……、まだか。そう思い、また新たな変化を起こす。
 
大失恋のあと、大嫌いだったキャッチにスカウトされようと必死で頑張った結果、私はもうデブではなくなった。これまでの人生で一番、女子だった。
 
人は見たいように世界を見る。
怖いと思えばずっと怖いし、楽しもうとすれば世界はいくらでも楽しくなる。
 
高円寺、大好き!!!!!!
 
 
 
 
***
 
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2019-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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