メディアグランプリ

女性のみなさんも泌尿器科へ行きましょう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大嶋里子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ここ数年、繰り返し膀胱炎を患った。そのたびにかかりつけの内科や婦人科で「膀胱炎にかかったみたいです」と言っては抗生剤を出してもらった。処方された薬を1週間飲めば良くなっていた、はずだった。
 
数か月ほど前から、寝ている時にトイレに行きたくて目が覚めるようになった。ネットで調べると「就寝中に1回以上トイレに起きることを医学的には夜間頻尿という」とある。婦人科で症状を話すと「よく効く薬がありますよ」と処方薬を出してくれて、私は1日1回、寝る前にその薬を飲んで寝るようにした。
 
ところが、である。私の症状は良くなるどころか、ますますトイレのために起きなければならなくなっていったのである。平均2回。多い日には3回もトイレに起きるようになってしまった。下腹もしくしくと痛むし、ちょっとおかしいのでは? と思い始めたのは薬を飲み始めて2カ月近く経った頃だ。
 
行ったことはないけれど行くしかないだろう、と泌尿器科で診察をしてもらうことに決めた。これまでどんなにひどい膀胱炎になっても泌尿器科へ行こうと思わなかったのは、泌尿器科にはなんとなく男性専科のイメージがあったせいだった。でも、こうも眠りが妨げられては、そんなことを言っている場合ではない。餅は餅屋だ。
 
ネットで予約して訪れたその診療所は、思っていた通り、待合室にいる患者は全員男性だった。場違いのような、でも落ち着くようなこの感覚はなんだろう? などと思いながら椅子に座って問診票に記入していく。それから検尿のために広々とした清潔なトイレへ向かう。
椅子に座って診察の順番を待っていると、部屋の隅で裏社会風の男が検尿カップを持ったままスマホを耳に当てて話しているのが聞こえる。「保証人には1000回は電話しました。ま、100回に1回くらい電話に出るってとこですわ。引き続きガンガンいきますわ」男は深刻そうな話をしながら、指にカップをのせてクルクルと回している。受付では、同じく検尿カップを手にしたおじいさんが「腰がメチャ痛いねん」とスタッフに甘えた声で訴えている。そうだ。さっきから感じていたこの妙に落ち着くような感覚は、幼い頃に父に連れられて入った銭湯の男湯で感じていたものと似ているのだ。銭湯で一糸まとわず湯を浴びる男性たちの様子と、泌尿器科で検尿カップを持ってトイレに向かうみなさんの様子には、下半身について隠していないことからくるのだろう、リラックス感が漂っている。待合室が穏やかなムードに包まれていて、私は心地良さまで感じ始めていた。
 
名前を呼ばれて診察室に入ると、医師がていねいに症状を聞いてくれる。よく膀胱炎を起こすこと、そのたびに内科や婦人科で薬を処方してもらってきたこと、夏にひどい膀胱炎を起こしてから、治った後も就寝中にトイレに起きなければならなくなったことなど、これまでのいきさつを話した後、まずはエコーで膀胱や腎臓に何か起こっていないかを調べてもらった。私は器質的な問題が起きているのではないかと心配していたので、エコー検査で問題がなかったことに胸をなで下ろした。次に医師は、大きな顕微鏡モニターに私の尿に潜んでいるものを映し「白血球がたくさん見えますね。膀胱炎を起こしたままの状態になっているようですね」とモニターに映る丸い形を指さした。毎晩私を苦しめてきた細菌たちと闘う無数のまん丸の白血球たちと、私はモニター越しに初めて対面した。それにしても、きちんと薬を飲んでいたのに膀胱炎が治っていなかったなんて、どうしてだろう。
 
医師の診断はこうだった。私は膀胱炎が治りきっていないことに気づかずに、夜間頻尿を訴えて婦人科で症状を抑える薬を処方してもらった。しかしそれは尿の出を抑える働きをする薬だから、膀胱の中にいて外に出さなければならない菌を、かえって繁殖させてしまうことになったのである。ちゃんと病院へ行っていたのに、治すどころかかえって悪化させる薬を飲んでいたなんて。最初から泌尿器科で診てもらったらよかった、と後悔の念に駆られた。これまで飲んできた抗生剤は効かないということなので、違うタイプの薬を飲んでみましょう、ということになった。
 
私はこれまでに飲んだことのない強いタイプの抗生剤を飲み、1週間後、再び泌尿器科へ向かった。診察室へ入ると、医師が難しい顔をしている。顕微鏡モニターは、まだ細菌とがんばっている白血球を映し出していた。強い抗生剤を飲んだのに、まだ治っていないのだ。医師の説明によると、前回、尿を培養して検査にかけたところ、私の膀胱内にはすでにいくつかの耐性菌(抗生剤が効かない細菌)がいることがわかった。この検査をすると、どんな種類の細菌に感染しているのかがわかるだけでなく、その細菌に効果のある薬や、すでに耐性ができてしまっているために効かない薬までもがわかるそうだ。
 
女性の2人に1人がかかると言われている膀胱炎を、そのありきたりな病気ゆえに甘く見ていた私は、気づかないうちに体内に耐性菌を抱え、治療に難渋することになってしまった。ターゲットにする細菌の種類がわかり、効果のある抗生剤が判明したことで、私の数か月に及んだつらい膀胱炎の症状はやっと治まったが、最初の薬のチョイスがいかに重要かを思い知らされることになった。
 
膀胱炎に困っている女性は多いことだろう。私は自分の後悔から、そんな女性たちに大きな声で伝えたい。
「困っている時こそ、泌尿器科へ行きましょう」
 
 
 
 
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2019-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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