合理主義の若者と質素倹約のシニア世代をつなぐフリマアプリの功績
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記事:高橋禎美(ライティング・ゼミ平日コース)
「え! フリマアプリ、使っているんですか?」
結構な衝撃であった。仕事場で経理事務を手伝っている、大人しくて真面目な70代の女性がいる。メルカリで、自分の家にあった貰い物の食器セットを出展して、売れたという話を聞いたときは本当にショックだった。高年齢の人がフリマアプリを使用しているとは。自分の予想を超えて、時代は進んでいるな、と自分の感覚のズレを反省したところだ。
自分が衝撃を受けた、シニア世代がフリマアプリを利用している、ことについて考えてみた。私はこのシステムを、都合よく“自分が何者なのかを知られずに後腐れなく取引ができる”ことに価値を感じている世代に、つまりドライな若者の間で支持されていると思っていたのだ。
結論から言うと、フリマアプリは、もったいない精神を持つシニア世代と、合理的な若者たち、この違う価値観を持つ年代の違う二つの層をつないでいる、有意義なシステムなのである。
戦後のモノや食料が不足してきた時代を生きてきたシニア世代と、飽食でモノにあふれた次代を生きている若者たち。時代背景が変容しているので、世代間には価値の違いが見られている。
シニア世代の価値観は、おおむねこんな感じだろうか。
持ち家やマイカーを手に入れることが、成功の象徴。保有することが夢。それを目標に働いてきた世代だ。そしてもったいないから捨てられないという考え方も、根底に保有していることを大事にしているからだろう。
一方で、今の20代の若者は、持ち家やマイカーには興味を持たない人が多い。
新しい文化として、シェアも浸透していて、家も車も他人とシェアして利用している。
また、背景にサスティナビリティが席巻しているが、映画や雑誌の見放題はもちろん、車の月乗り放題を利用したり、家についても定額で全国の対象の家で過ごすことができる。
ネット接続されているところならば、どこでも仕事ができるノマドスタイルもめずらしくなくなっていて、必ずしも1カ所に集まり、顔を合わせて仕事をする必要性がなくなっている。家の場所を仕事場のそばに置かなくても良いという時代だ。
むしろ住居を固定することなく、自由でいたいと思っている人は多いだろう。場所も住まいもそのときの状況に合わせて変えて行きたいのだ。
“もったいない精神”は使えるものを大事に使う。壊れたり破れたりしたら、修繕しながら使い続ける。これが美徳。知恵。正しいとされ、世界にも発信されて受け入れられている日本人の道徳。生き方、指針だ。
“使えるものを捨てることを悪とする”
この考えは素晴らしいが、弊害もあるのではないか。捨てないことで、使わないものを抱え込んではいないだろうか。
ところが、10年ほど前から、世論が変わってきた。
出てきたのは「断捨離」ブームだ。必要なものだけを持ち、最低限のアイテムで暮らすことでモノから開放されすっきりさせる。
第一段階で、処分することが大事になる。仕分けして処分して、必要なものを適所に収納するという理論は、暮らしやすさの秘訣として今もなお支持されている。
モノにあふれた次代のなかで、断捨離がひとびとを変容させた意義は大きなものだと思う。
当初、シニア世代が「断捨離」が馴染まなかったという。その理由は、処分=捨てる ができない、物を捨てることへのもったいない、申し訳ないという気持ちだ。
しかし、断捨離では、「使われていないのであれば、それはモノの価値を殺している」と謳っている。
これによってシニアの“モノを捨てることはもったいなくて悪”という概念は、
“モノをしまいこんで使わないでいることは悪”という、新しい価値観へと変換させたのだ。
そこに新星のごとく登場したのが、フリマアプリだ。
個人が、個人の保有しているモノを自由に販売できるシステムが浸透してきた。
使わないモノを、必要とする人に所有権を移転させることで、またモノは使われて役に立っていく。そのために手放すのであれば、罪悪感は生まれない。ここが、もったいない精神と価値が合致するところだ。しかもお金も入ってくる。
若者世代は、合理的だ。要らないものは所有しないし、必要なものを、安く探したい。それは必ずしも新品である必要がない。気にしないのだ。彼らはフリマアプリを活用する。保有し続けることを目的としていないので、使い終わったら、またフリマアプリで販売するのだ。彼らは、新品の洋服を買うときにも、転売することを考えて選ぶそうだ。
このように、価値観の相違が見られる二つの世代間の両方に、大きな価値を感じて利用されているフリマアプリは、もはやただのモノの売買ツールではないだろう。
シニア世代が背負ってきた価値観と、空腹を知らない若年世代の異なる価値観に見事に融合している。そしてどちらの世代におけるニーズを満たして、抱える悩みを開放している。
こんなに意義のある社会現象を起こしたフリマアプリの功績は、実に大きいのではないだろうか。
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