メディアグランプリ

「168位だった私もトップになれたから、たぶんきっと、大丈夫」


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記事:菅原ともえ(ライティング・ゼミ特講)
 
 
168位。
 
高校1年生の頃に叩き出した、1回目の定期テストの学年順位だ。
200人中である。
 
私は昔から、頭の良い子供ではなかった。
親はそんな私の将来を憂い、時にお金をかけて勉強をさせようとした。
中央出版の「チェックアンドアタック」のCMを覚えているだろうか。「ジャストミート」でもいい。島田紳助さんが出演していた、家庭用の教材のCM。独特なリズムが頭に残る。
実際に購入したひとはいるだろうか?
我が家は、購入した。しかし実際に取り組んだ記憶は、ほとんどない。おかげですぐに押し入れにしまわれた。
購入してくれた親には申し訳ないが、私は勉強が嫌いだった。
 
母校は決して偏差値の高い高校ではなかった。
海の近くにある女子高校で、大学進学率はあまり高くない。生徒の素行も悪いとよく噂を耳にしていたし、駅で見かける紺色のチェックスカートは確かに、揃いも揃って下着が見えてしまいそうなほど短い。
中学生の私にとって、大きな声できゃらきゃらと笑って歩く女子高生は恐ろしかった。生徒が女子だけというのも恐怖に拍車をかけた。いじめがあったらどうしよう。自分が女性だからこそ、女の陰険さには身に覚えがあるのだ。
 
後に知るのだが、母校の大学進学率は確かに高くはないものの、就職率は90%を超えている。
ボランティアも活発で、パンツが見えるほどスカートが短い生徒なんて一握り。素行の悪い生徒は体育教師に追いかけ回されるし、噂と違い地域の評判も大変良い高校だった。
だがそんなこと、入学前の自分は知らない。先入観で震え上がり、できれば違う高校に行きたいなあと、毎日のように考えていた。
 
しかし、私に選択肢はなかった。勉強をしてこなかったからだ。
他の高校を選べるほどの学力がないからだ。
そして泣く泣く、その偏差値の高くない、海の近くの女子高校に入学したのだった。
 
168位と書かれた紙を渡された時も、悔しいとか恥ずかしいとか、そんな特別な感情はなかった。
数学の理解度で「特進クラス」「基礎クラス」に分けられた時、当然のように基礎クラスに配属された時も、
英語と地理の小テストで30点の答案が返ってきた時も、
自分は頭が悪いから仕方がない、とぼんやり思うだけだった。
ばかだからこの高校に入ったのだし、まあ今更何をやったってムダだろう、と。
 
そんな私に転機が訪れたのは、同じく高校1年生の冬。
期末テストの直前だ。
 
私は物理担当の教師が大嫌いだった。高圧的で、嫌味ったらしくて、説教で授業が終わる時もあった。
藁半紙で刷られた物理の計算問題をクラス中に配りながら、前回のクラス平均点数の低さにほとほと呆れていた教師が、いつものようにばかにした口調で言った。
 
「俺には君たちが理解できない。
このプリントの問題がテストに出るって言ってるのに、何故やらないんだ?」
 
嫌味っぽく、しかし純粋に問うているように聞こえた教壇の教師の言葉が、なぜかその時の私の頭にすっと入りこんできた。
 
そして思った。
 
「この教師は意地が悪いから、言ったとおりにテストに出すはずがない。
そこまで言うなら、解いてやる。このとおり出なかったら、文句を言ってやろう」
 
そんな気持ちで、渡されたプリントに取りかかった。
 
普段からまじめに授業を受けていなかったせいで、授業時間が終わっても解き終わらない。
私は教科書と睨めっこしながら、わからないところを友人に聞いたり、職員室を訪れて直接教師へ解き方を聞きに行った。
出るはずがない。そう思いながらも、半分意地で全て暗記し、物理のテストに挑んだ。
 
そして当日、配布された問題用紙を見て驚いた。
どこもかしこも見たことのある単位の羅列。
 
言ったとおり、プリントの問題が、そっくりそのまま、定期テストに出たのだ。
 
戸惑ったが、おかげでその時はじめて物理で70点以上をとることができ、
嫌いだったはずの教師から「やればできるじゃないか」とやっぱり呆れ気味に、それでいて優しく、褒められた。
 
はっとした。
 
なぜ自分は、今までテスト勉強をしたことがなかったんだろう?
 
どの分野の教科でも、大体教師が授業中にヒントをくれる。
そもそも、テスト範囲は定められている。復習して暗記しなければいけない場所を、最初から教えてもらっているのに、なぜ私は頑なに机に向かわなかったんだろう?
なぜ自分はばかだからと、最初から諦めていたんだろう?
 
その日を境に、テストへの挑み方は180度変わった。
 
2年生の、1回目の定期テスト。授業内で事前に「ここテストに出るぞ」と言われていた箇所を重点的に暗記した。
結果は200人中90位。
そうか、さすがに事前に予告された箇所だけが出るわけがない。
じゃあ一体どこから出るんだろう。
でもヤマをはったところで、外れたらどうする?
だったら大事そうなところは全部覚えよう。
 
200人中40位。
そうか、単語だけ覚えても、もし説明を求める問題だったら答えられない。
全部理解した上で、覚えなければいけない。
ノートをテスト範囲から書き直して、わからないところは聞きに行こう。
家だと集中できないから、部活は休みだけど、教室に残ろう。
土日も朝から学校に行って、勉強をしよう……。
 
そうやって、今までのテスト結果から自分のできることを細分化して、とにかくテスト勉強のために時間をとるようになった。
もしかしたらもっと効率のいい勉強法があったかもしれない。
でも当時の私には、それ以外の方法がなかったのだ。
 
高校3年生、1回目の定期テスト。
ほとんどの教科で80点以上を獲得していた私は、妙に誇らしげな担任から順位の紙を受け取った時、思わずえっと声をあげた。
 
1位だ。
 
目を疑った。
でも何度見ても、1位だ。
 
実際は最高学年から半分が就職・進学コースに分かれていたので、分母は減っていた。
それでも、100人中1位になったのだ。
 
168位だった私が、1位になることができたのだ。
 
その時の感動が、達成感が、今も忘れられない。
 
勉強の分野において、やればやっただけ結果はついてくる。
それを身を持って体感してから、私の人生における「勉強」という概念はがらりと変わった。
進学した短大では成績上位者として表彰されたし、受けた資格はひとつも落としていない。
努力をすれば、その分成果が返ってくる。ありきたりな言葉だと思っていた。だけど、体感してしまっては、信じざるを得ない。
 
高校を卒業して何年後かに、部活の顧問に「当時の話を在校生にしてほしい」と母校に呼ばれた。
テストを控えた在校生に、「テスト勉強と資格勉強がかぶってしまって、勉強時間がたりません、どうすればいいですか」と聞かれた時、私はこう答えた。
 
「かぶろうがなんだろうが、どっちもたくさん勉強すれば大丈夫。頑張ってください」
 
在校生はたいへん微妙な顔をしていた。
効率のよい勉強方法とか、暗記方法が知りたかったんだと思う。
  
そもそもばかだった私が、そんなレベルの高い方法を知るはずがないのだ。
凡人ができることは、とにかく他人よりたくさん勉強すること。
努力すること。
 
そうすればたぶんきっと、報われるだろう。
168位だった私が、1位になれたみたいに。
 
 
 
 
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2019-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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