人生に、孤独を死守せよ。
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記事: MDR(ライティング・ゼミ日曜コース)
21歳、オーストラリア半周の旅に出た。
シドニーから大陸中央のウルル(エアーズロック)まで、陸路で向かう。移動は、グレイハウンドという長距離バス。だだっ広いオーストラリアのこと、移動距離が半端でない。次の目的地まで14時間、とか笑顔で言われる。
そもそも、この旅に出たときの私は、交換留学生として1年間シドニーに滞在していた。ろくに英語も分からないまま工学部の授業にぺそっと入れられ、宿題が出たことは分かっても何が宿題なのかは分からない。掲示板に張ってあった「英語教えます」というチラシに連絡して、微妙な人とレッスンもどきをしたり。Free Internetと書いてあるカフェで日本の友人からメールが来ていないか何時間も粘ったり。「何やってんだろ」と思って泣けてきたりした。
そんなしんどい半年を過ごして、やっとたどりついた1ヶ月の休暇。
スマホが登場する前のこと、バックパックにはLonely Planetというバックパッカー御用達のガイドブックが入っている。それは貧乏版・地球の歩き方みたいな本で、小さい街の安宿も事細かに載っている。宿は事前に決まっていないので、街に着いたら、宿に電話するか直接行って泊まれるか聞く。宿が決まって重い荷物を置くとほっとする。どちらにしても、ベッドしか自分の居場所がないような宿なんだけれど。
夜はベッドで日記を書く。孤独だなあ。友達と呼べる人はいない。日本には彼氏もいたのに。何で留学しようと思ったんだっけ。それほどの器でもないのに。いきおい、自分と向き合う時間となる。
旅に出ても、出来ない自分を引きずって悶々としていた私。
救ってくれたのは、オーストラリアの自然だ。
世界遺産のグレイトバリアリーフでダイビングをしたら、透明なブルーの水と極彩色の珊瑚礁の中を、ウミガメがふわりと泳いでいた。
ナショナルパークで、アボリジニの壁画やら夕日やら見ていたら、彼らがオーストラリアに最初に上陸した映像が目に浮かんだ。
ああ、世界は広いんだ。自然の圧倒的な美しさと、悠久の時間の流れと、自分のちっぽけさ。
そんな自然の力で、孤独ながらも元気を取り戻しつつあった時。
安宿に泊まっていたイギリスの女の子たちが、キャンピングカーでウルルまで行くけど、一緒に行く?と言ってきた。彼女らにしてみれば、ワリカンにする人数が一人足りなかっただけのこと。私はその話に乗った。
キャンピングカーは、ただひたすらひたすらまっすぐな道を走る。運転するのは、年長の2人。あとの4人は後ろに座ってビールを飲んだくれる。相変わらず、早口の英語はおぼろげながらにしか分からなかったけれど、久しぶりのガールズトークは楽しかった。
夜は道路脇の草原に車を停めて、簡単なパスタだか何かを食べて、焚き火をしてまた飲んで、寝る。
焚き火を消す頃、一人が、peeしに行く? と聞いてきた。
Pee? Peeって何?
真面目に聞き返したら、みんなが笑う。よく聞けば何のことはない、おしっこのことだ。
みんなそれぞれ、四方八方の暗やみに散らばっていった。
みんなが、あっちこっちの草むらにしゃがんで、peeをする。みんな、笑いながら。
誰かが、ちなみに大きいほうはpooよ、といってまた草むらから笑い声。
一人旅は、単細胞生物だったころの記憶をたどる旅。
自分のことしか見えない状態から、周りの広さに気がついて、そして外部とのつながりが生まれる。
6億年前、単細胞生物は捕食者に対抗するため、多細胞生物に進化したという説がある。単細胞生物は、何かしら脅威のある状況に身を置かれたため、それを解決するため多細胞生物に進化した。それはきっと人間も同じだ。一人旅に出るとか、新しい環境に行くとかして、安泰な環境からはみ出してみる。その新しい環境で、自分の無力さを知る。そして周囲を見渡すと世界は思っていたよりずっと広く、そこにはたくさんの仲間がいる。最初のステップで、自分の無力さや孤独とむきあうのはなかなかつらい。でも、その孤独を通り過ぎないと出会えないものが、必ずある。
結局それからも、孤独と、世界の広さと、つながりの面白さに、私は旅を続けた。
チェコの安宿で、イタリア人の男の子が「お前のパスタはパスタじゃない」と言っておすそ分けしてくれたパスタの固さ。アルデンテを通り越して半分くらいしか火が通ってない。
中国の寝台列車で、カップラーメンを食べようとしたら、おじさんとおばさんが煮卵やらチャーシューやら入れてくれて、いきなり本格ラーメンになった。中国ウン千年の歴史を感じた。
フィンランドの子とビールバーに行ったら、その日はダンスナイトだったかで、手を引っ張られ人生初のお立ち台に登った。無になって踊った。
孤独から、すべてが始まる。
人生に、孤独を死守せよ。
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