間を制する者は、しゃべりを制す
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:星野美緒(ライティング・ゼミ 日曜コース)
毎日毎日、わたしたちは誰かしらが「しゃべる」のを聞いている。
テレビ、ネット動画、スーパーの試食のおばちゃん。
聞いていても、別段なんとも気にならない。試食のおばちゃんには申し訳ないが、そのウインナーごとスルーである。
しかし、たまにものすごく気になってしまう種類の人がいる。
それは、「人前でしゃべるのが下手な人」である。
キャンペーン中のヨーグルトの説明をするのに、「マイルドで、クリーミーで」と同じことしか言えず、魅力を伝えきれていないであろうおばちゃん。
とある企業の展示ブースで、イマイチ抑揚がつけきれず、ちんぷんかんぷんな話をしている説明員。
めちゃくちゃ下手なユーチューバー。
そういう人たちがしゃべっているのを聞くと、もうとにかく気になってしまう。
ハラハラドキドキ、まるで突然パラレルワールドの冒険に放り出されたような気分になる。
そして、同時に「ああ、普段気にしていなかった人たちは、しゃべるのが本当はうまかったんだな」と悟るのだ。
そして、心の中で応援しながらも、そっと、心の“閉じるボタン”を押してその場を立ち去るのだ。
かくいうわたしは、しゃべるのがめちゃくちゃ下手である。下手も下手のド下手である。
自覚している。
人前で改まって話すときは頭の中が真っ白で、覚えていたことは吹っ飛び、緊張して前後不覚となる。
転職時の面接でだって、例外ではない。
「わたしは、(息継ぎ)以前の営業の経験から人と話すのが、(息継ぎ)好きです」
というように中途半端なところで息が詰まってしまったり、なんだか中学生の英語訳文かと思うような、どことなく不自然な日本語が次から次へと繰り出されたりしてしまうのだ。
挙句の果てに、「営業の経験から、お客様への製品アピールが得意だ」みたいなことをそのド下手な話し方で口走ってしまうのだから、救いようがない。
『聞き苦しい』とはまさにこのわたしのことである。
話のうまい人は、特に準備していなくても、突然振られた場で上手に話す。
しかしド下手なわたしは、仕事などで話す必要があるときは、もうめちゃくちゃに準備をして臨むのである。メモや下調べのカンニングペーパーをどっさり用意し、手汗をぬぐうハンカチをもスタンバイさせ、いざ出陣の法螺貝を鳴らし、おもむろに口を開けるのである。
そんな始末だったが、あるとき、うまく話すコツがあることを知った。
きっかけは、ようやくおしゃべりができるようになってきた我が子である。
お絵描きをして遊んでいたその日。
「これ、なんでしょーか?」
と、突然、絵の当てっこクイズが始まった。
「虫」
「ママせいかーい!」
などとたわいのないやりとりをしていたが、相手はだんだん白熱してきたようで、
「これ、なんでしょーー……か!!」
と、勢いづいてきた。溜め部分が長いなとツッコむわたし。
しかしさらに勢いは増し、
「これ!! なんでしょーー……(間)……か!!!」
ありえないほどに溜めてきた。
こちらはおもわず失笑である。
しかし、そのとき気づいたのだ。
これは、相手の注意を引きつけるのにとても効果的なやり方なのではないだろうか、ということに。
わたしは、小さな子のかわいいしゃべり方に魅了されていたのではない。その「間」に、すっかり魅了されていたのだ。
この「間」があったからこそ、至極単純な当てっこクイズにのめりこんでいけたのだ。
大人のくせにこうした効果的な間の使い方もままならない、失笑を受けるべきはわたしの方である。
その後改めて、しゃべりが下手な人のスピーチを意識して聞いてみると、それは確信に変わった。
下手な人は、基本的に話すスピードが速すぎて安定しない。
そして逆に、ゆっくり間を使って話す人は、声が小さかろうが、内容がイケてなかろうが、上手く聞こえるのである。
これは話がわかりやすい・わかりにくいではなく、上手に聞こえるか下手に聞こえるかの違いである。
「間」は聞き手に安心感を与え、話に流れを与えて、相手を巻き込んで展開させていくことができるのだ。
ひとつ実験をしてみたいと思う。
ぜひ皆さんも手元にスマホを用意してご自身でも臨んでもらいたい。
お題は、「生麦生米生卵」。定番中の定番の早口言葉だ。
まずは普通に言ってみて、録音してみる。
「生麦生米生卵」
再生してみると、早口言葉だけに無意識に急いでしまい、聞き取りにくくなってしまっていることがわかる。
次はゆっくり話すのを意識して、再録音する。
「生麦 生米 生卵」
これはずいぶんと、聞きやすくなっている。
最後に、研ナオコの往年のギャグを意識して言ってみる。
「生麦 生米 な~ま~た~ま~ご~」
これは聞きやすいどころか、自分の声でも笑わせられるレベルである。
聞く相手を魅了することができているのだ。
ゆっくり話すことを意識してスピードを押さえ、不自然に間が空きそうなときは「あー」でも「うー」でも何かひねり出して言葉をつぎ足す。そうすることで、安定したスピードと間を維持する。
もちろん、これがわかったからといって実践ですぐに「間」が使えるようになるわけではなかった。『知っている』のと『できる』のはまた別次元の話だ。
わたしが我が子のしゃべりスキルに追い付くのはもう少し先のようである。
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