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あの気になる販売機の秘密が明らかに


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記事:大矢亮一(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
最近街で見かける奇妙な販売機をご存知だろうか。
一般的に路上の販売機で購入するものと言えば、夏なら冷たいドリンク、冬ならホットコーヒーと相場は決まっているものだが、その販売機は想像の斜め上を行った商品が販売されていた。
そう、商品は『出汁(だし)』だ。
あのお味噌汁や煮物を作る時に使う出汁が、路上の自動販売機で売られているのだ。
最初、駐車場の販売機で見つけた時は度肝を抜かれた。
なんでこんなところに出汁が?
まして、駐車場に設置されている自動販売機と言えば、出庫の際に必要となる小銭を作るために、そもそも飲みたくも無いものを購入するためのものなのに、それに輪をかけて必要としていない出汁を買えとはこれ如何に。
一気飲みしたら具合が悪くなりそうだ。
そこにタイミング良く、自動販売機に補充をするための作業員がやってきた。
どうしても気になったので、その作業員の若いお兄ちゃんに思い切って声をかけてみた。
「すいません、これって売れてるんですか」
よく考えれば、失礼な質問ではあったと思うが、どうしても気になったことから聞いてみた。
すると、作業員のお兄ちゃんは愛想良く
「まあまあですかね」
と答えてくれた。
話しやすそうなお兄ちゃんだったので、更に質問を続けた。
「なんで出汁なんか自動販売機で売ってるんですか」
補充の作業を続けながら、お兄ちゃんは面倒くさがらず答えてくれた。
「出汁を自動販売機で売っている会社は、実はうちを入れて三社あるんですけど、うちはその中でも最後発で、他の会社の出汁がそこそこ売れているみたいなので、うちも販売を始めました」
で、出汁を作っているメーカーさんか何かかと思ったら
「うちの会社、船橋で不動産屋を経営しているのですが、仕事柄土地の売買などを通じて地元の農家さんとお付き合いが深く、彼らが作る野菜がとっても美味しくて、それをもっと色々な人たちに知ってもらえるようなアイデアがないかと、それで野菜から作る出汁として自動販売機で売り始めたんです」
気持ちよく話してくれているが、野菜で作られている出汁だなんてどこにも書かれていない。ちゃんと書かなければダメじゃないですか!
「そうなんですよね、そういうところをちゃんとPRしていきたいと思っているのですが、本業が忙しくて、なかなか手が回らないんです」
本業というのは言わずもがな、不動産業のことだ。
しかし、どんな人が自動販売機で出汁なんか買うのだろうか。
そんな疑問にも、お兄ちゃんは親切にも更なる情報を提供してくれた。
「やっぱり、主婦の皆さんは値段に敏感ですから、スーパーよりも割高な自動販売機の出汁は購入されないですね。購入者として多いのはサラリーマンの方が多いです。仕事の途中、訪問先のお客様へ手土産として買っていく方もいるんです」
え、こんな剥き出しの出汁が入った瓶をお土産に持っていくのか。そう怯んだら
「購入するとわかるのですが、こんな形でキャリー用のケースに入って出てくるんです」
そう言って、お兄ちゃんは補充していた商品を一つ見せてくれた。なんと、クッション材に包まれ、さらに透明のプラスチック製キャリーケースに一本ずつ包まれている。まるでプレゼント用のワインボトルのようだ。
自動販売機の商品サンプルにはそのキャリーケースについて一切の情報がなく、出汁の瓶が剥き出しのまま並べられている。オイオイ、そういう情報載せようよ。
「そうなんですよね」
作業員のお兄ちゃんはまるで人ごとのように笑っていた。
「空港なんかにも(自動販売機)置いているのですが、この商品はよく飲まれているみたいです」
なんで空港で出汁を飲む奴がいるのかと思ったら、作業員のお兄ちゃんがそう言いながら指差している商品サンプルの一番上の段だけ、他と違う商品が並んでいた。
『H O T』と書かれたそれは、缶のタイプの出汁スープと書かれた飲料水だった。
最近、自動販売機の商品に通勤・通学の方を狙った朝食がわりになるスープの商品を見かけるが、その出汁スープの缶も同類のものだった。
なるほど、それならレストランなどが開いてない時間に利用者も多いかもしれない。
意外なところで、意外なものが売れるんだなと感心してしまった。
色々と親切に教えてくれたので、このまま買わずに帰るのも忍びなかったため、その出汁スープを試してみようと一つ購入してみた。
出てきた出汁スープの缶を早速開けて一口飲んでみると、これがなかなか美味しい。野菜の出汁とは思えない、なかなか濃厚でイケている。
「お味の方はいかがですか」
作業員のお兄ちゃんが聞いてきたので、缶のデザインなどを観察しながら感想を述べていたが、妙なことに気がついた。
内容物の説明書きのところに『飲む博多だしスープ』(6種の国産厳選素材)と記載され、長崎産焼あご、枕崎産鰹節・枯鯖節、熊本産うるめ鰯節、九州産原木栽培椎茸、北海道産利尻昆布となっている。なんで?
するとお兄ちゃんが笑いながら
「それ、うちの商品じゃないんですけど、売れるから代行販売してるんです」
えええええええええええええええ。
船橋の農家の話はどこへ行ったんだ!?
もう一々このお兄ちゃんの説明が訳分からないので、それ以上突っ込むのを諦めていいかげん別れを告げその場を後にした。
街で見かける出汁を売る自動販売機の謎は解けのか、さらに深まったのかモヤモヤした気持ちのまま帰宅の途についた。
 
 
 
 
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2019-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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