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女性から『女』を引いて残るものとは


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:西田 千佳(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 
「『女扱いされたくない』と思うこと自体、『女』を意識していたのかもしれませんね」
 
女性の生き方をテーマにしたセミナーで、一番心に残った言葉だ。
 
予想外だったから、驚いた。
その答えを知っていたら、もっと違う人生を歩んでいただろうか……
 
今から約20年前、私はとある会社に転職した。
男性が活躍するイメージが強いからか、当時、その会社の女性従業員は5パーセントにも満たなかった。
女性の管理職はいなかった。ポストも限られていた。
仕事のキャリアを積みたくても、選択肢が少なかった。
いずれの選択もできなければ、結婚して家庭を優先させ、退職する人もいた。
 
私には、その会社でどうしてもやりたい仕事があった。
その仕事をするには、大きな問題があった。女性ポストの前例がなかったのだ。
「女なんかにできるはずがない」長年その部署にいた男性から、はっきりと言われた。
プロジェクトが始まると、過酷な日々が続くからだ。
生活のサイクルは不規則になり、家には寝るためだけに帰る。家庭は二の次にしないと、遅れを取ってしまうのだ。
だが、好きな仕事ができるのなら、そんなことは関係ない。
先輩の言葉を気にもせず、私はずっとその部署への異動願を出し続けた。
 
自分の思いを遂げるべく、仕事で自己アピールした。
私という存在を認めてもらいたくて、目の前にある仕事に熱心に取り組んだ。
周りに埋もれたくなかった。「できない奴」のレッテルも貼られたくなかった。
 
入社7年目になり、念願叶って、希望通りの仕事に就くことができた。
配属先には、その分野に長けたベテランの先輩がそろっていた。
ちょうど、大きなプロジェクトに向けて始動していたところだった。
異動直後から、経験がない「女」の私は、明らかに足を引っ張る存在だった。
 
この先、どうしたらこのポストを死守できるだろうか……
やっとの思いでスタートラインに立てたのに、嬉しさよりも、不安が勝っていた。
何とかして、道を拓きたかった。
 
考えに考えて、私は答えを出した。
男性ばかりのチームの中で、私にできること。
『女を捨てる』
それしか考えられなかった。
 
「女扱いされるの、嫌いなんです」上司にそう伝えた。
ちょうど、セクハラが浸透してきた頃だった。
扱いに困ると思われる前に、「男性と同じ扱いをしてください」そう申し出た。
セクハラなんて言ってたら、仕事にならないと思っていた。
 
一筋縄ではいかない顧客への対応には、「私にさせてください」と真っ先に手を挙げた。
「女は相手にしない」と言った顧客も、自分の味方につけた。
力仕事も進んでやった。急な出張にも、即座に対処した。
 
「女」なんて関係ない。そう知らしめたかった。
女性のポストと、私という存在が消えないよう、必死になっていた。
 
だんだんと自分の言葉遣いがきつくなった。
同僚や部下には弱い部分を見せたくなくて、強く当たった。
見えない鎧を着て、虚勢を張っていた。組織の中で、取るべき最善策だと思っていた。
 
最初の数年間は、何事もなく乗り越えた。
年数を重ねていくと、「何とか乗り越える」に変化していた。
やっとクリアできたという安心感もあって、小さな綻びに気づかなかった。
不規則な生活も影響したのか、私の体力を少しずつ奪っていった。
 
身体がついていけないことに、焦りと苛立ちを抱くようになった。
「私のポストがなくなるかもしれない」気持ちが空回りするようになった。
少しずつ、気持ちと身体のバランスが崩れ始めた。
同時に、チーム内もぎくしゃくし始めていた。
 
そんな時、女性社員を対象にしたセミナーの案内が届いた。
「これからの女性の職場を考える」偶然にも、そんなテーマだった。
何かヒントが得られるかもしれないと、軽い気持ちで参加してみることにした。
 
講師の先生は、自らの体験談を語ってくれた。
 
男社会の中で、仕事では女性扱いされたくなかった。
肩肘張って、自分を大きく見せようとしていた。自分を奮い立たせて仕事をした。
そのうち、男性の部下を何人も持って、気づいたことがあった。
 
体力的に、男性に劣るのは当たり前だ。いくら頑張っても、普通の女性じゃ勝てない。
だから、その劣る部分を、男性にカバーしてもらえればいい。
その代わり、男性ができないことがあれば、女性である自分がカバーすればいいのだ。
これは、言い訳ではない。「助け合い」なのだ。
助け合うことで、仕事がうまく回るようになった。
男性だから、女性だからと意識せず、助け合うことが大事である。
 
先生は、そう締めくくった。
 
「私が『女扱いされたくない』と思うこと自体、『女』を意識していたのかもしれませんね」
講師の先生が、体験談の中でそう語っていた。
確かにそうだ。
私も意識しすぎているから、そんな言葉が出てきたのだ。
私は男ではない。女なのだ。
 
私は、チームの雰囲気を悪くしようとしていたのかもしれない。
女なのに、女を捨てていたから。
 
セミナーの後、意識を変えるようにしてみた。
無理にできないことは、正直に伝えて、男性の同僚や部下にお願いした。
何となくだが、チームの関係がフラットになっていくような感じがする。
勿論、仕事の効率は上がっている。
 
どうして今まで気づかなかったのだろう。
私は、ずっと足を引っ張り続けていたのだ……
 
女性から『女』を取ったら、いいことはない。
マイナスにはなっても、プラスになることはほとんどない。
男性社会の中では、女らしさを活かして、女だからできる仕事をすればいいのだ。
後悔しても仕方がないので、これからは『女』として突っ走ろうと思う。
 
 
 
 
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2019-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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