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メディアグランプリ

どこにでもある、ここにしかない、カツ丼。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:郡山秀太(ライティング・ゼミ特講)
 
 
また首をかしげてしまった。
 
20代のころ、福岡の会社で働いていた。
ご存知の通りで福岡は食の宝庫。美味しいものが死ぬほどあった。
名物の明太子、もつ鍋、水炊き。
新鮮な魚を食べたければ柳橋連合市場。
お肉を食べたければ鹿の肉までも売っている百旬館。
なんでもある九州一の街で、食べて食べて食べまくった。
 
福岡の夜は飲み会が多く、一人暮らしの自炊は限度を知らない。
それが原因で20キロ太った。(制限しない自分に一番原因があるのだが)
保健師のおばさんにこれ以上太ると本当に後悔するよ、と脅され、社会人バドミントンサークルに入会したのはいい思い出だ。
 
福岡は本当にごはんが美味しかった。
ただ、ひとつをのぞいて。
 
それは、カツ丼。
 
カツ丼をどこで食べても物足りないのだ。
まずくはないけど美味しいというほどじゃない。
カツ丼が美味しいと噂のお店で食べては首をかしげてしまう。
私はとても失礼なやつになっていた。
でも、なにか満足できないのだ。
 
なぜそんなことになってしまったのか。
原因はわかっている。
 
高校卒業後、私は鹿児島の専門学校に通っていた。学校は鹿児島市内の「天文館通り」という繁華街の近くにあった。
入学して新しくできた友人に、昼はカツ丼を食べよう、と誘われる。
もちろん場所は天文館通りだ。1階がお土産物屋になっているビルの2階にそのお店はあった。
階段を上がり、廊下の奥に目的のお店。木製の引き戸は赤茶けておもむきがある。
店内はL字のカウンターに10人くらいは座れ、座敷は広く大人数の対応ができそうだった。
 
お店のひとは2人。すぐ席に案内された。
さっそくメニューをみると、カツ丼は670円でリーズナブル。(現在は690円になっている)
貧乏学生にはありがたい。安心できる価格だ。
午前中の授業でチカラを使い果たしお腹がへっている我々は、さっそくカツ丼を注文。
 
あいよ、と大きい声ではないが、しっかりとした返事をしてくれた、この初老の男性がきっと大将だ。
 
まず、豚肉を叩き始めた。肉をやわらくするための工程だ。注文を受けてから調理することにこだわっているのだろう。
 
肉を叩き終わると、手際よく、卵に豚肉を浸し、パン粉をつけ、油へ投入。
ジュウジュウと良い音がした。豚肉がカツへ変態しているのだ。
 
食いしん坊のバイブルマンガ「美味しんぼ」では、天ぷら職人選び対決の話がある。ひょんなことから主人公の山岡士郎と、その父である料理評論家・海原雄山が勝負するのであるが、雄山が勝利。
決め手となったのが揚げ物の音を聞く耳のよさ。耳がいいと揚げている途中の微妙な音の変化に気づきベストなタイミングで、てんぷらをお客に提供できるのだという。
この店主の耳もきっと肥えているはずだ。
 
ご飯お願い、と大将がもうひとりに伝えると、このタイミングでカツが油から救出された。
 
こんがり揚がったカツに包丁をいれると、危険な音がした。
 
ザクッ。ザクッ。
 
この音は、やばい。
音の禁止薬物だ。
「別に」と平然を装うが、食欲がいまにも弾けそうだ。
 
同時に大将は、専用鍋で餡を作っていた。煮えた黒に近いベースのたれ。その中で玉ねぎと椎茸の薄切りが踊っている。
 
ブラウンが少し強い揚げたてのカツは、まな板の上で切られ、きれいに並ぶ。
火にかけてあった餡は卵でとじられ、きらきらしている。
 
ついに、黒いどんぶりへ熱々のご飯がよそわれた。
まず、ご飯の上にカツがのる。
つぎに、きらきらの餡がたっぷりと。
出来上がりだ。
 
カツ丼のバスキアが目の前に置かれた。
芸術的すぎるビジュアル。
食欲は爆発だ。
 
お腹はへり、あふれるヨダレを我慢していた。
もう、ダメだ。
 
たまらず、勢いよく、がっついた。
甘辛の餡に椎茸の出しが効いている。
ザクッとしたカツの歯ごたえがくせになる。
お米も、かためで、ちょうどいい。
勢いでほうばる。水で流し込む。
飯が、すすむ、すすむ。
ああ、めちゃくちゃ、美味しい。
 
天文館通りのカツ丼が、人生で、一番のカツ丼になった瞬間だ。
 
カツ丼を食べるたび、天文館通りのカツ丼と比べてしまう癖がついた。
なんか違う、と首をかしげてしまう。
あの、きらきらした餡とザクッとしたカツを思い出し、どうしても、もの足りなくなってしまうのだ。天文館のかつ丼については私のインスタグラム(アカウント名:emerica.gum)をチェックしてほしい。
 
私は転勤で仙台在住になってしまった。
いま、天文館通りのカツ丼とは、離れ離れ。
彼とは遠距離中なのだ。
 
しかし、もう少しで帰省の季節だ。
年末、鹿児島で、もちろん天文館通りのカツ丼を食べる。
誰も、私たちの邪魔はできない。
 
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
ああ! こんな記事書くんじゃなかった。
カツ丼のことを書いているせいで、さっきからヨダレがすごい。
カツを切るくだりから、おなかが食べ物を欲している!
 
カツ丼の種類は無限だ。
餡と、カツと、ご飯。
甘いのか、あっさりなのか。
ころもは、カリカリなのか、しんなりなのか。
ソースカツ丼だってある。
餡をかけていないカツ丼だってある。
それだけボキャブラリーが隠れている。
 
どういうカツ丼が美味しいか。それを決めるのは、あなただ。
あなただけの、推しカツ丼は、必ず見つかる。
かつ丼はどこにでもあるが、そこにしかないあなただけの、
心のカツ丼を、ぜひ見つけて欲しい。
 
よし。いまからカツ丼食べいこ!
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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