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ゆるやかな学校のススメ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:末本はる(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「高校は4年通ったんです。定時制で」
そう言うと、たいていの人は何かを察してそれ以上追求してこない。
昔だったら言おうなんて思わなかったけど、今ならさらっと、自信を持って言えるのだ。
 
「このままだと留年です」
そう言われたのは、制服がやっと馴染んできた高校1年の冬。
 
不登校だった中学生。高校からはみんなと同じスタートラインに立つんだ、もうこんな黒歴史は終わりにするんだ! となんとか入った高校。
友達もできた。授業も大丈夫。ほら、学校帰りは天神でプリクラ撮ってる。みんなと同じ女子高生できてる。そんな風に頑張ってきたけれど、心と身体を騙すのにも限界があったみたい。ここでも同じだった。気づけば一人周回遅れで走っていたのだ。
ここでやりなおす気力は無い、と少ない単位を握りしめて定時制高校の扉を叩いた。
 
選んだ理由は簡単だ。公立でお金がかからなくて、楽しいところだよと知り合いから聞いていたから。やり直そうという気持ちが強い分、定時制に通うこと自体に嫌悪感は無かった。何より嫌だったのは、年下と同じ授業を受けること、定時制のマイナスなイメージがついて回ること。
小中高とずっと同じ年の人と一緒に授業を受けてきた。
社会に出たら年上も年下も関係なく働く、頭ではわかっているつもり。
だけどやっぱり年下と一緒に同じ授業を受けるというのは、自分が周回遅れな上に後からスタートした選手に並ばれている状態。それも舞台は皆が当たり前のように進級し卒業していく高校。上を目指して粘る大学浪人とは違うのだ。これはどうにも気分が上がらない。
定時制のイメージもそうだ。定時制と聞いて、漫画やドラマで描かれるようなやんちゃ、落ちこぼれ、そんな雰囲気を想像する人も多いかもしれない。
自分がそのイメージに当てはめられ、そういう人として見られていく可能性を考えるとため息が出た。
 
もう一度スタートを切りたい、でもここはマイナーコース。多くの人が選ばない選択肢に踏み出す不安を抱えて入学式を迎えた。
 
自由だった。
制服も校則も、がんじがらめの人間関係からも解かれた。
あんなに気にしていた年の差も、私服で学年も分からなければ全く分からない。
大学と同じように選んだ授業に行くので新入生だろうと卒業間近であろうと同じ授業を受けることが普通にある。
実はね……って年齢をカミングアウトすれば「私もだよ!編入生同士がんばろ」「うちなんてここ5年目よ」。年下の子にとっても年齢はちょっとした誤差程度の認識のようで、変に気を使われることも敬語で話されることもなく、むしろ心地よいくらいだった。
 
そしてカオスだった。
ギャルとヲタクが真剣に体育で汗を流し、優等生とヤンキーは授業を共にし、昼になればカラフルな髪の子もおとなしい子も中庭でご飯を頬張る。廊下ではスケボーが横切ったかと思えば、車椅子だって全速力で走っていった。
仲良くなった一人に、自分の親より年上の人がいた。彼女は家のことやヨガの勉強もしながら週3日学校に来ている、穏やかで品がありそれでいて芯の強い人。お昼を食べながら、学校の話をしていた時のこと。「私ね、何十年も高校に行ってないことをずっと後悔していてね、だから今ここでいろんな人と一緒に学べることが本当に嬉しいの」。よく思い出す言葉だ。
 
彼女も含め、いろんな背景を持つ人がいろんな目的を持って学校に通う。大学に行くため、就職するため、自分の体調に合わせて勉強するため、高卒になるため。
自分より後に入学して先に卒業していく人もいれば、自分が先輩に卒業式を祝われることもある。
私は朝が苦手だから昼から学校に行く。やりたいことがあるから午前中で授業を終わらせる。
 
ここでは、人の抱えてる環境や想い、進むペースも何もかも違っている。でもそれは「普通」のこと。私の囚われてた、みんなと同じペースで進まなきゃいけない、3年間で卒業しなきゃいけない、いつも同じメンバーでくっついていなければならない、という普通ではない。どんな選択肢も自分の責任のもとで自由に選べるのが「普通」。一人一人が自分の道を探して進んでいく。
 
自分で選んで自分で責任を持つ。きっと大人になるってそういうことだ。
自分で選んでここで改めて3年過ごした。昔は毎日学校行くだけで精一杯だったけど、気持ちと時間に余裕ができてボランティアや行きたいイベントに行くようになった。やりたいことがたくさん出てきて、悩むという贅沢な迷いに落ちた。
やっぱり大学行ってみたいと、自分で勉強をするようになった。職員室に入り浸り、先生をつかまえては解説を強請った。
今は第一志望の大学で燻りながらも自分の道を探している。
 
もう縛られた「普通」に掴まれる私はいない。
高校で自由と多様性という普通を得た私なのだから。
 
 
 
 
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2019-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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