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結婚相手がゴキブリ退治できない男だったら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:カネマルチホ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「きゃー! ゴキブリよ!」
向こうを向いて作業をしていた夫に聞こえるように可愛く叫んだ。
これは、私たち夫婦が結婚して、さあ今日から一緒に暮らしますよ、という引っ越しの夜のこと。2人で片付けをしている部屋に、あろうことかゴキブリが出たのだ。正直、私は1人でもゴキブリ退治できるのだが……。
 
そう叫んだ私の脳内では咄嗟に妄想が広がった。
「きゃー! ゴキブリよ!」
と怖がる妻と
「大丈夫だ! 俺に任せろ!」
と頼もしい夫。
果敢にゴキブリ退治に挑む夫の姿を見て
「ありがとう、頼もしいわね。やっぱりあなたと結婚してよかった〜」
と安堵する妻。
そういう理想の夫婦像を思い描いた。
だって今日から私たちの結婚生活が始まるんだから、なんでも初めが肝心でしょ。
 
しかし現実は違った。
夫は私の叫びにびっくりして振り返ると、ゴキブリを見るなり
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
と悲鳴をあげ、今にも腰を抜かしそうな勢いだった。
「……え?」
私の中でサーっと気持ちが冷静になり、
「あれれ? 何かおかしいぞ……」と拍子抜けした。
そう、私が考えていた理想の夫婦像と全く違っていた。
 
結局、ビビリまくる夫をよそに、この日は私が淡々とゴキブリ退治をしたのだった。
 
これを機に私たち夫婦のパワーバランスが決まったと言っても過言ではないだろう。夫がゴキブリ退治できない男だったなんて、結婚するまで知らなかった。こんなはずじゃなかった……。
 
思い返せば、正直言って、夫は私が今まで好きになった男性のタイプと全く違っていた。私はどちらかというと色黒スポーツ系の筋肉質で男らしい人、私の父のように「俺についてこい!」という亭主関白で、“ザ・九州男児”みたいな男性がタイプだったが、夫はその逆だ。
 
夫はメンズ美容にも気を使い、日焼け止めクリームは毎日欠かさないし、ヒゲ脱毛をしていてお肌もきれい、美容室専用のシャンプーを使っていて髪もサラサラだ。私が1回美容室に行く頻度の間に夫は3回も美容室へ行ってこともあるくらいだ。
ファッションにもこだわりがあって、花柄のシャツを着たり大きなハットを被ったりするので、私と2人で買い物に行くと店員さんから「女性2人組かと思ったら、男性だったのね」と言われることもあった。色白で細くて背丈も私と変わらないくらいの夫はよく女性に間違われていた。
夫が1人でカフェにいると、隣の席に座っていたおばあさんからケーキをご馳走になったこともあるという。夫はいつもやわらかく人懐っこい雰囲気を醸し出している。
 
また夫は誰に対しても、とにかく優しい。ちょっとやそっとのことでは怒ったりしない。
一緒に喫茶店で食事をした時。私はミニケーキ盛り合わせを注文し、夫はパフェを注文したが、店員さんは私にミニケーキ盛り合わせ、夫にパフェとミニケーキ盛り合わせを運んできた。明らかにミニケーキ盛り合わせが1つ多い。
“パフェとミニケーキ盛り合わせを一緒に食べるわけないじゃんか!”
と思いつつ、夫に
「店員さん、オーダー間違えて持ってきたよね」
と確認すると、
「いいよいいよ、パフェもミニケーキも両方食べるから気にしない」
と、オーダーを間違われてもお構いなし。
夫が店員さんに言う気が無いようだったので、私が
「すみません、注文したものと違うものが来ています……」
と声をかけることになった。
夫は何事にも動じないようだ。私だったらこういう時、すぐに言ってしまうけど。
 
そんな優しい夫はゴキブリを退治することができないのだ。
 
映画『タイタニック』では、沈みかけた船の中でジャックがローズの手を引いて出口を探して走り回りっていた。私がローズだったら、私もジャックのような勇敢な男性に付いて行きたい思う。
しかしながら、優しい夫は極度の方向音痴という才能も持っている。夫が指差す方向はあまり信用できない。
きっと私たちがタイタニック号に乗っていたら、私が夫の手を引っ張って
「こっちよ!」
と誘導するに違いない。それでもいいのだ。
 
よく恋愛と結婚は別物だと言うけれど、まさにそうだと私は思う。今まで恋愛して来た男性のタイプとは違うけれど、夫と結婚できてよかった。
 
どんどん女性が強くなっている時代だ。妻は三歩下がって夫の後ろを歩くべき、だと思っていたが、そうでなくてもいいんだとだんだん気がついてきた。
理想の夫婦像とは違ったけれど、気の強い私が優しい夫を守ってあげてもいいのではないかと思う。
 
夫がゴキブリ退治できないのであれば、妻の私がすればいいだけのこと。
こうやって夫婦はバランスを取っていくのかなと、この頃つくづく思う。
 
 
 
 
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2019-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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