メディアグランプリ

未完成の家


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:仮屋薗 麻衣(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「木工屋さんのシェードランプが届いて、玄関がやっと完成しました」
 
今日、K様の奥様からLINEをいただいた。
 
私は、鹿児島県霧島市のハウスメーカーで住宅営業をしている。
大変なこともある。けれど、お客様の希望を少しでも実現できる喜びや、お客様の暮らしに寄り添って何かを解決できたときの嬉しさは、この仕事を続けている醍醐味だ。
 
LINEをいただいた、K様とは、もう、2年近い付き合いだ。
 
最初の出会いは、会社の近くで開催した、平屋の家の完成見学会。本格的な冬を感じる、1月後半頃だった。
見学会の会場となった家は、お施主様こだわりのアカシアの無垢材を使ったリビングや、コの字型の間取りをはじめ、多くの希望を詰め込んだ家だった。
K様は、ロードサイド看板をたまたまご覧になって、見学された。アカシアのフローリングや、木のアクセント壁を、大変気に入っておられた。
 
その時は、他のお客様の対応をしていたため、あまり、お話はできなかった。あとからはどうとでも言えることではあるが、この時確かに、「営業の勘」が、ピンときた。
 
このお客様は、自分が絶対に、幸せにする!
 
このお客様だけは、他の営業には、担当させたくない!
 
雰囲気・フィーリング……、言葉ではうまく表現できないが、とにかく、自分と、ピタっと合うものがあった。
 
受付アンケートをもとに、住宅関連のイベントの際には、案内をしていた。
案内をすると、毎回、完成見学会に来られた。
 
特に予約をしてから来られる訳ではなかったため、タイミングが合わず、なかなか、あまりゆっくりとお話することはできなかった。
 
そんな中、やっと、LINEを交換することができた。最初に出会ったときにはまだ奥様のお腹の中にいた赤ちゃんが、産まれて、外に出歩けるようになっていた。
 
話を進めていくうちに、
「吉田さんにならお願いしたい」
「スタッフのみなさんの、仲が良さそうで、雰囲気がよかったから」
そんな言葉をもらえるようになっていた。平屋の家の見学会から、8か月ほどが経っていた。
 
そして、K様の家づくりが始まった。
土地は、元々お住まいになっていた場所よりも、買い物の利便性がいいことを条件に、えらんだ。ちょっとした家庭菜園をしたいということで、その分の広さや日当たりも考慮した。
 
どんな間取りにするか、この敷地に、どんな風に家を配置するか。
駐車場から、玄関からまで、どんな動きができたらいいか。
家庭菜園から、勝手口から、キッチンまで、どんな暮らしができたらいいか。
リビングに座ったときに、どんな風に庭が見えるといいか。
 
共感を得にくい、細かい部分もあるが、ものすごく、考えた。
たとえ分かってもらえなくても、「ここは、こういう理由で、こうしている!」と、すべて、言える。
 
予算や工期との兼ね合いで、すべて叶えられるわけではない。
K様も迷い、私も悩んだ。
 
ひとつずつ、決めていった。
 
普段、取引がないところから仕入れをすることもあった。
初めてタッグを組む職人もいた。
 
ひとつずつ、家の形に近づいていった。
 
お腹の中にいた赤ちゃんは、1歳の誕生日が近づいていた。
 
お引渡しをして、引っ越しもされた。
結婚式の記念品という、ブリザードフラワーは、玄関にそのための場所を作り、埋め込んだ。
この家に合わせて購入された、ウォールナットのダイニングテーブルは、あるべき場所に置かれた。
それでも、まだ、家は完成していない。
 
当初、親戚に頼む予定だった、カーポートやお庭の工事を、「やっぱり吉田さんのところにお願いしたい」と言ってもらえた。喜んで、引き受けた。
郵便ポストは特注だ。
その後、家庭菜園もちょっとずつ始めることができたようだ。
それでも、まだ、家は完成していない。
 
そして、今日、「木工屋さんのシェードランプが届いて、玄関がやっと完成しました」とLINEが来た。引っ越しをされてから3か月が経つ。
それでも、まだ、家は完成していない。
 
キッチンの収納は、今回タッグを組んだ、家具職人による作品だ。
独立したばかりの、若い、職人である。普段はテーブルや椅子を作ることが多いが、今回取り組んだのは、備え付けの食器棚。
家が完成したら、職人の名前を、刻印するという約束だった。
 
そろそろ、彼に連絡ができる頃だろうか。
 
 
 
 
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2019-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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