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共働き家庭に生まれた、子ども時代の思い出は、奇妙なことに温かい


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記事:高遠にけ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「共働き家庭なんて、子どもがかわいそうね」
共働き世帯が益々増加している現代でも、今だにそういう方がいる。
かくいう私も昭和の共働き家庭で育ったので、冒頭の言葉を散々投げかけられた。
 
保育園時代のことは、結構よく覚えている。
果たして、私はかわいそうな子どもだっただろうか。
 
私の保育園時代は、親戚が毎日迎えに来てくれ、両親が帰るまで親戚宅に預けられていた。
保育園のすぐ近くに、親戚の家があったからだ。
それでも年に数回、親戚も両親も都合がつかない時は、延長保育で夜遅くまで残らなければならないことがあった。
 
延長保育は、保育園児の私にとって非日常な体験でもあった。
普段1日1回のおやつの時間は、延長保育となると1日2回となるからだ。
ちょっとした優越感に浸っておやつを食べていたが、隠しきれない不安もあった。
 
いつもは明るい時間に帰っているので、日が落ちて薄暗くなっていく保育園が、当時の私には少し怖かった。
 
誰もいない教室や体育館は暗闇に包まれ、さっきまで友人とけたたましく走り、笑いあっていたはずの場所が、今はしんと静まり冷え冷えとしている。
延長保育の幼児達が集まる教室と、職員室だけに灯りが点いていて、その他は真っ暗だった。
暗い空間に吸い込まれてしまいそうで、とにかく怖かったことを覚えている。
 
19:00を過ぎる頃、延長保育で残っていた子ども達を迎えに、1人、また1人と部屋から友達が帰っていく。
数少なくなった子ども達は、私を含めて皆が、遊びながらも玄関をチラチラと気にかける。
 
自分が最後になって取り残されてしまうのではないだろうか。
誰か迎えに来てくれるのだろうか。
……忘れられていないだろうか。
 
大人になった今でも、私は1人、取り残されることが少し怖い。
薄闇に染まった誰もいない部屋に1人佇むと、胸がキュウとなる。
薄暗い保育園の暗闇と、取り残される怖さをリアルに思い出す。
 
けれど、同時に胸が温かくなる奇妙な懐かしさも感じるのだ。
 
私の生まれは地方都市ではあったけれど、まだ共働きでフルタイムの家庭は珍しかったように思う。
コンビニもなく、夜遅くまで営業している保育所や託児所等もない田舎である。
当然子どもを預けるのは、親戚か知り合い等の家になってしまう。
 
兄と私は、人々に好奇の目で見られ、かわいそうねと同情されてきた。
本人達はあまり気にしていないのに、あまりにかわいそうと言われるので「そうか、私はかわいそうな子なのか」という気分になってくる。
同情される度に子どもの私は、必要のない不幸を少しずつ背負わされていた気がする。
 
けれど私はむしろ、幸せな子どもだったのではないか、と思う。
 
両親は週末、私達のためにかなりの時間を割いてくれていた。
クタクタになるまで働いた週末、せっかくの休日にも関わらずに。
週末の思い出は、ピクニックに行ったり、映画館に連れていってくれたり、と楽しい記憶の方が多い。
 
謀殺されそうなほど忙しかったはずの中で、本当に頭が下がる。
中学時代の3年間は、母が毎日欠かすことなく、お弁当を作ってくれていた。
母と同じことをやれと言われても、当時の母と同じ年齢となった私には絶対無理だろう。
 
それを考えた時、当時はどれだけ辛かったのだろう、と思った。
どれだけの時間を犠牲にして、私達に費やしてくれたのかと。
母は、小さい私達を親戚に預けて、泣きながら仕事に向かったことがあったそうだ。
 
恩を返したいけれど、とてもではないが今でも返せそうにない。
兄はちょっとグレたけれど、今では両親の傍で2人を気にかけ、暮らしている。
 
幼い頃の思い出は、寂しく悲しいものだけではない。
両親が限られた時間の中で、私達子どもをどれだけ気にかけていたかを改めて知る、大切な思い出だ。
 
令和の共働きのご家庭も、毎朝子どもに何かしらの罪悪感を持ちながら、仕事に出かけていらっしゃるかもしれない。
けれど共働き家庭の子どもはかわいそうでは決してない。
本人は両親が忙しいことを当たり前に分かっている。
誰よりも気にかけ、愛してもらっていることが、いつか分かる時がくる。
 
かわいそうという周囲の人々が、子どもに対して一番かわいそうなことをしているのだと、私は思う。
 
大人になった今でも、私は1人、取り残されることが少し怖い。
けれど、同時に胸が温かくなる奇妙な懐かしさも感じる。
 
それは幼い頃の私が、決してかわいそうではなかったからだと思う。
 
 
 
 
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2019-12-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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