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メディアグランプリ

愛しの明太じゃがチーズは、今日も静かにそこにたたずむ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:和辻真子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
やばいやばい、ちょっと出遅れちゃった。
まだあるかな?
 
……あったあった!
 
ウキウキしながら、私はそれをそっとトレイに乗せてレジに運ぶ。
 
「持ち帰りです」
 
と店員さんに告げて会計を済ませる。今日も食べることができる嬉しさを噛みしめながら。
 
その出会いは、半年ほど前のことだったろうか。
 
中途入社した今の職場は、入ってみるとそれまでの職場とはあまりにも習慣やしきたり、社会観が異なっており、自分として今後どう処していくか悩んでいた。最初に配属された部署で仕事の分掌がうまく配分されなかったこともあって、納得できないものを抱えながらも、せっかく入った職場だし、と毎日無理やり自分を奮い立たせながら出勤していた。
 
社内の人間関係は、入社順に意見が通るような習慣で、新入りの私にとってはとても冷たい空気であった。「別にここに居たいなら居てもいいけど、私たちには関係ないから」という主義をまともにぶつけられることが多い日々だった。
 
単に後から入ったというだけで、右も左もわからないことは、そんなに罪なのか? 悩みながらも働く毎日だった。何かわからないことがあって訊きたくても、周りは皆忙しく、新入りの質問はかえって迷惑としか受け取られていなかった。
 
仕事を振られない、教えて頂けないことがデフォルトなので、私は職場でできることを探して働いた。それでも、誰ともそんな状況を分かち合えないことは、次第に私の心を沈ませていった。
 
始業時間ギリギリに行くことが好きではないので、早めに出勤していたが、だんだん早く出勤することが苦痛になっていた。1分1秒でも長く職場に居たくない気持ちの方が勝っていたので、途中で時間調整して、始業に間に合うように出勤することにした。
 
幸い、出勤途中に休憩するにはちょうどいい場所を見つけたので、そこで朝食を食べることにした。コンビニでおにぎりを買ったり、ちょっとした軽食コーナーで朝食を摂ったりしていた。
 
そして、ある日のこと。
いつも利用する駅の片隅にあるカフェに、パンのショーケースがあるのを見つけた。
毎朝通っていたのに、こんなところでパンを売っていたなんて気がつかなかったなあ。そう思いながら、どんなパンがあるのか眺めた。どれもなかなか美味しそうだ。
 
あんパン、クリームパン、メロンパン、デニッシュ……。どれも食べたくなるんだけど、その中でも何故か気になったパンがあった。
 
「明太じゃがチーズ」
 
ん?
 
なんなのだそのパンは?
どんな風に3つの味が合わさるのか?
 
めちゃくちゃ気になったので購入した。
そして一口食べてみた。
 
なにこれ!
 
ナニコレ!
 
な〜にこれ!!!!
 
美味しい!
いやほんと、マジで旨い!
 
その、明太じゃがチーズのパンは、心底私の好みだった。明太子と、じゃがいもをマッシュにしたものを和え、ふわふわパンの中にフィリングで入れて、上からチーズをかけて焼き上げたパンだ。
 
そもそも、「明太子」と「じゃがいも」と「チーズ」の組み合わせが美味しくない訳がない。明太子のピリ辛を、じゃがいもとチーズで調和しており、絶妙の味だった。
 
私はこのパンにハマった。
それまで、時間つぶしのための朝ごはんを買うのにコンビニに寄っていたが、その日から明太じゃがチーズを買うことが出勤前の日課になった。職場に行く気持ちが折れそうな朝の、唯一の楽しみになった。人気商品なので、品薄になってしまうこともあり、手に入れるとホッとした。そしてそれを食べて、気が重い仕事に臨んでいた。
 
いつまで自分は干されるのだろう。入社して半年経ち、依然として変わらない仕事内容に私は失望していた。このままこの仕事内容なのだろうか。職場で面談があった際に相談してみたが、そう簡単に配属は変わらない。半ばあきらめかけてた時、夏の人事発表があり、私も異動した。異動先の、新しく上司になる人に「ちょっと話があるから」と別室に呼ばれた。
 
「ずっとあなたのことを見ていて、だんだん元気がなくなっていくのを気になっていました。一体どうしてこんなことになってしまったのかと」
 
「きちんとしたお仕事が全くなかったのです。自分でも見つけて、いろいろ試していましたが、それはやらなくていいとか、ストップもかかっていてどうしようもなかったのです」
 
「いろいろ思うところはおありだと思いますけど、これまでのことを挽回しましょうよ。この職場も、悪いことばかりではないから」
 
自分はここに必要ないのではないかと思っていたけど、見てくれている人はちゃんといたんだと思うと、無性に有難かった。異動先の部署では、きちんと担当業務もついた。それまでいた部署とは真逆で、忙しくてやることが山積みだが、私は自分が必要とされていることがうれしかった。
 
そこから今まで、いろいろ失敗もしているけど、それでもきちんと自分の居場所があることへの喜びがある。至らないながらも、今いる部署で使えるようになりたいという気持ちで仕事をしている。そしてあの時、見切りをつけて辞めなくてよかったとも思っている。
 
今の仕事に就いてから、様々なことがあったけれど、明太じゃがチーズは私を支えてくれたものの1つだ。これ食べて、元気もらおう! 振り返ると、そんな些細なことでも自分を支えてくれていたように思う。普段何気なくやっていることでも、自分の味方でいてくれることがあるかもしれない。誰が見てくれているかわからない、何が支えになっているかわからないけど、私たちはそんな「見えない支え」に守られながら生きているのかもしれない。今日も私が好きな明太じゃがチーズは、静かにカフェに並んでいる。私の守り神だ。そこにいてくれるだけで、安心する。
 
 
 
 
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2019-12-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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