メディアグランプリ

感覚を呼び覚ます


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記事:つちやなおこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「いいなぁ、知らないことばっかりで毎日楽しいだろう」
 
学生時代、研究者の父に言われた言葉だ。
当時は、まだまだ未熟だなと言われたのかと思っていた。
でも、この気持ち、今ならよくわかる。
 
その場所、そのタイミング、まさに一期一会で、動けなくなるぐらい心がふるえる美術作品に出会うことがある。
 
鮮明に覚えているのは、学生時代に見た京都近代美術館のピカソ展。当時、日本美術を勉強していた私は、せっかくピカソがこんな近くにやってくるんだから、とりあえず見ておこうかなという軽い気持ちだった。
 
教科書に載っている、画面が青い「青の時代」、「アフリカの時代」そして、いわゆるピカソという「キュビズムの時代」、戦争をモチーフにした「ゲルニカ」。それぞれ、大学の講義である程度は知っていたのだが、特にキュビズムの大きな作品を前に、心が震えた。作風はまったく好きではないと思っていたのに、その迫力に圧倒された。本当に立ち尽くしたのを鮮明に覚えている。大きい、そして、すごいエネルギー。これが世界のピカソか。興奮した。
 
そんな体験は、その後、学生時代に旅行で海外の教会や美術館を巡った時に、何度か経験した。必ずしも好きと思っていなかった作品でも、圧倒的な存在感を感じた時が多かった。
研究対象としてみる事とは全く別の次元の、ストレートに心に響く鑑賞体験だった。
 
そして、その原体験ともいえるものが、私にとっては奈良の法隆寺だった。小学3年の夏休み、父が急に家族で奈良に行くと言い出し、博物館かと思いきや、奈良駅からさらにバスに乗って法隆寺へ。参道は灼熱の太陽が照り付けていて、だらだらと汗をかきながら、下を向いて歩いていたのを覚えている。その全く湿度のないからっとした空気の先に、金堂や五重塔が見えてきたとき、砂漠のオアシスみたいだと思った。外の明るさに比べて、中は真っ暗で、だんだん目が慣れてくると浮かび上がる仏像たち。とりわけ私の中で響いたのが玉虫厨子だ。このかわいいおうちのようなものは何? かわいい絵が描いてある。難しそうな仏像よりも自分の身の丈に合った宝物をみつけたような気がして、ずっと見ていた。面白い! とわくわくした。
 
大学では、美術作品は研究対象となった。研究対象となったとたん、心震えるものではなくなった。とにかく説明をしなければいけない。分かる楽しさはあるのだが、心に響くものではなくなってしまっていった。
何を見ても、この構図はどうなのかだったり、制作年代はどのくらいかだったり、そのものを純粋に鑑賞することができなくなっていた。これはいい屏風ですねといいながら、どこがいいのか説明はできるのだけれど、説明をすればするほど、そのものからは遠ざかる感覚だった。
 
心震えるものに出会いたい。
知識が邪魔をしてしまう前の状態で見たい。
そこで冒頭の父の言葉だ。
ようやくわかってきた。知らないって無垢で感動が大きいんだ。
あの言葉は、馬鹿にしているのではなく、父の心からの言葉だった。
 
ずっと、たくさん知ること、勉強することが大事だと思ってきた。
知ればより深く理解できて面白いと。
でも、そんな後付けの解釈ではなく、画家の感動がそこに書き込まれているとしたら、無知で無垢なほうが、純粋に画家と同じ体験ができる可能性が高いんじゃないか。
 
大人になると賢く生きられるが、子供の頃のような感動が少ない。
何にでも感動する、何もかもが初めてというフレッシュさがうらやましい。
そして、もう、そんな頃には戻れないと思っていた。
 
それが、この4ヶ月間、ライティングを通して内なる自分を見つめると、感覚がぱーっと外に向けて開きだした。まだこんなに感覚が残っていたのかと驚くほど、世界が違って見えてきた。
この4ヶ月間のライティング生活は、自分の今の生の感覚を知る心のトレーニングになっていたようだ。
 
法隆寺へ行ってからもう数十年、ひたすら知識を増やしてきた。
それに反比例するかのように、何かを感じる力が鈍ってしまった。
それが、たった4ヶ月のライティングゼミで、また、感覚の扉が開き出した。
 
世界は広い。
まだまだ見たことのないものばかりだ。美術作品だけではない。映画だったり、建築だったり、写真だったり。
自分さえ、そこに目を向けて、足を運びさえすれば、まだまだ新しい世界は広がっていた。
 
ライティングは、感覚を呼び覚まし、世界を広げてくれる、未来へのチケットだった。
 
 
 
 
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2019-12-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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