実家からの仕送りの隙間には
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:大原亜希(ライティング・ゼミ日曜コース)
「大学カレーも入れといたしな」
という、父からのメッセージと共に、久しぶりに実家からの荷物が届いた。
そんなカレーあったんだ、と思わず笑いたくなる気持ちを抑えて、「ありがとー」とLINEにメッセージをいれる。
野菜の段ボールにぎっしりと詰め込まれていたのは、父が長野旅行で買ってきたという10種類ものりんごと洋梨。
その間を埋めるかのように、ドリップ―コーヒーのパックがいくつかと、父が自分用に買ったという芋ようかんなどが、ぎゅぎゅっと詰め込まれていた。
私は18歳の時に実家を出て、専門学校に通うために一人暮らしを始めた。
職人としての駆け出しの修業時代は給料も安くて、貯金も中々出来なかったから、実家の父から届く仕送りは、とても有り難いものだった。
学生時代に運送のアルバイトをしていた父は、仕送りをする際にもちょっとした彼なりのこだわりがあった。
それは、中身が動かないよう、少しの隙間も作らずに荷物を詰めること。
しかもプチプチなどの緩衝材を使うのではなく、実家の台所にそのときある食材を上手く箱の隙間に詰め込む。
送られてくる荷物の中身は私が希望をいう時もあったけれど、隙間を埋めるのは必ず父セレクトの品ばかりだった。
お土産の海苔のパックの小袋、地元のおかきの小袋、父の気に入っている紅茶やコーヒーパックの小袋。
どれも一人暮らしの父の家の、目に着くところにあったんだろうなあ、というものばかり。
たまにいつもより隙間がたくさんあると、父は決まって、勤めていた大学の農学部が作っている、ご自慢のジャムや缶詰などを詰めた。
一度フランスの田舎で修行していた時にも、みかんの缶詰が隙間に入っていて途方にくれたことがある。
研修生として働いていて、お金も無かった私の部屋には、缶切りがそもそも無かったのだから。
同じアパートに住んでいた日本人の職人仲間が、一生懸命ナイフで空けようとしてくれたけど結局開かず、次の仕送りの時に使い古しの缶きりを一緒に送ってもらったこともあった。
「お前の父さん、変わってるよな」
とその友人が言ったとおり、隙間に入っている食品は大抵、父が送りたいものであって、私が欲しいものではないことも多かった。
父子家庭だからこうなるのかなあ、と自分では思っていたけれど、稀に「なんでこれ送ってきたんやろう」と、本当に不思議すぎるものもあった。
一度だけ父に尋ねたことがある。
隙間は別にプチプチとかで埋めたらいいんじゃないの?と。
父はさも当たり前かのように、
「だって、隙間があるのにもったいないやんか」
と言っていた。
久しぶりに父からの荷物を受け取って気づいたことがある。
父が送ってくれる荷物は、実家の台所と父そのものなのだ。
箱を開けた瞬間、まるで台所の風景がそこに見えるような感じ。
お気に入りのドリップコーヒーを入れて、ゆったり楽しんでいる父の姿が目に浮かぶ。
毎年決まった時期に、父がオーダーしているものだ。
長野旅行で買ってきたリンゴや芋ようかんと一緒に、テーブルに置いてあるんだろう。
父は「美味しい」と思ったものを、誰かとシェアしたくなる人で。
昔から色んなものを、近所の人に配ったりしていた。
私が職人としての仕事が忙しくて、盆や正月にも帰れないでいると、「美味しいお肉もらったんやけどなあ」と残念そうにしていた。
父からの荷物の隙間に入っていたのは、「美味しいものをシェアしたい」という父の思いだったのだ。
フランスの地方の田舎町で、半泣きで修行していた20歳のときも。
オーストラリアの灼熱の街で、多国籍のスタッフに揉まれていた26歳のときも。
帰国してから働いた高級レストランで、後輩の育成に悩んでいた30歳のときも。
父から届く、隙間無くパンパンに詰められた荷物は、いつも私をどこかホッとさせてくれた。
遠く離れた実家の空気が、その中に感じられる気がして。
それは入っている品物以上に、私にとって価値があるものだった。
実家から届く仕送りには、形は違っても、親の子供への思いが詰まっているように思う。
美味しいものを食べているだろうか、とか。
健康でやっているだろうか、とか。
たまには息抜きしているだろうか、とか。
一緒に暮らしている時には、伝える必要も無かったことが、そこには込められているんじゃないだろうか。
いつになるか分からないけれど、また次の荷物が届くのが楽しみだ。
多分私はワクワクしながら、段ボールを開けるだろう。
今度は、どんな思いが詰まっているだろうか。
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