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「沖縄・石垣島合衆国」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:古田篤司(ライティングゼミ平日コース)
 
「え、また、あのホテル、部屋作ってるん?」
僕は、聞く耳を疑った。
「そうなんです!前までは100室で、去年100室増えて200室になったんです。
「それで、今さらに100室増やしてます!」
石垣島の地元旅行代理店に勤める真穂ちゃんは、声をうわずらせて続ける。
「合計3倍って、ホント、働き手はどうするつもりなのか…… 狂ってますよ!」
 
沖縄の離島、石垣島。
沖縄県の中心である那覇市から南西へ約400キロ。
飛行機で、さらに1時間ほど飛ぶ。
サンゴ礁の中に浮かぶ緑の島々と青い海は、沖縄の中でも特別に印象的である。
夏が長く、冬でも暖かい。2月になると花が咲き始める美ら島だ。
 
4年前に、新しい空港ができ、東京や大阪から直行便で3時間ほどとなると、
人気が大爆発。
大量に人が押し寄せ始めた。
人口が5万人の島に、年間140万人の観光客が訪れる。
そして、その多くは、離島ゆえに宿泊する。
おまけに、日本中で起こっている外国人観光客の波は、台湾や香港に近い位置にある島へ真っ先にやってきた。
 
ホテルが、足らない!
 
内地(沖縄では日本本土のことを、こう呼ぶ)資本や外国資本のホテルまで、
新たな立地の話が途絶えない。
その度にわき起こるのは、人手不足の話。
いかんせん、離島なのだ。
隣のまち、というのがない。
居る人間の数が限られている。
ましてや、島中の会社や事業所でも、働き手が足らないのだ。
 
「ほら、うちの旅行社の新人の飯田さん、彼女もホテルを辞めて来たんですよ」
「ん、確か、小林さんも、だよね?」
「そりゃー、もうキツイですもん!」
新しいスタッフが確保できないとなると、今のスタッフにしわ寄せが来る。
仕事の量が増え、こらえきれずに退職するスタッフが次々に出る。
いくら部屋を増やしても、予約は取れない。
100室あっても、20室しか売ることができない、なんてザラなのだ。
 
僕が、石垣島を始めて訪れたのは、今から18年前のこと。
「人口300人の沖縄の離島が、密かな人気!」
そう聞いて、石垣港から船で15分のところにある竹富島に行ってみたかったのだ。
赤い瓦葺きで平屋の家が並ぶ、美しい町並み。
どこからか聞こえて来る、三線(さんしん)の音。
海に落ちる夕日が綺麗で、夜には静寂が訪れる。
そして、朝には、地元の方が綺麗に掃いた白い砂の道を、ゆっくりと散歩する。
心が洗われる感じがした。
 
竹富島では、小さな民宿に泊まる。
民宿の主人は、だいたい個性的なおじいとおばあ。
「時間を気にせず、ゆっくりと過ごせばいいさー」
縁側で泡盛を飲み、宿で出会った人とおしゃべり。
そして、おじいの三線に身を揺らす。
旅人は、ここで命の洗濯をして、都会へ帰っていく。
そして、また少し疲れたら、
島のゆったりした時間=島時間に身をまかせるため、戻ってくるのだ。
 
僕は、10年ほど、石垣島や竹富島といった沖縄の離島に通った。
そのうちに知り合いが増えていき、「あなたの仕事は?」と聞かれるようになった。
観光地や商業地の活性化をする仕事をしている僕は、
自然な流れで、島の観光に関係する仕事もするようになった。
 
「何か、島の課題を解決する手助けをしつつ、事業もやっていきたい」
その考えの中で直面したものの1つが、この人手不足の問題だ。
単に人をどっかから集めるだけではない。
島の民宿のように、静かな愛情を感じられる宿づくりをお手伝いしたい。
それが旅人の心を癒すはず、だからだ。
 
妙手、ってのは、なかなか思いつかなかったある日のこと。
「真穂ちゃんは、どこの出身だっけ?」
何気に聞いた。
彼女は、名古屋の出身。
いわゆる、ナイチャー(内地人)だ。
石垣島には、移住した人がとても多い。
「移住してもうまく行かないことが多いけど、石垣島は、割と居つくよね?」
「そうそう。島の人がいい距離感で親切に付き合ってくれるしね。」
そうなのか? ちょっと違和感があった。
 
「あ、石垣島はもともと《合衆国》だから、かな?」
「ん、なに、その《合衆国》って?」
「うーん、昔、大津波があって、もともと住んでいた人の多くが被害にあったんだって。それから沖縄や台湾のあちこちから移住してきた人たちの子孫が、今の石垣島の人たち。だからアメリカと同じなんですよー」
「なるほど、いろんな国や地域の人が集まってるから、アメリカ合衆国みたいってことかぁ」
 
ん、ちょっと待てよ。
なんで、気がつかなかったんだろうか。
田舎だから、離島だから、ということで、考えつかなかったのか。
《合衆国》の風土がある。
それなら、いろんな国の人が集まって、普通に働いたって、構わないんじゃないか?
外国人観光客が増える中、英語や中国語を話せる人が小さなホテルにいても、喜ばれるんじゃないか?
人手不足の問題もある。
それも解決に繋げられたら、一石二鳥だ。
 
日本は外国人が働きやすい国、とは言えない。
だから、受け入れる地域がどんな場所なのか、は、誘い入れる側も考えなければいけない。
でも、石垣島は、合衆国なのだ。
きっと、仲良くやってくれるに違いない。
大切なのは、この島の雰囲気を大切にして、
旅人の心を癒すことができるか、なのだ。
 
それから、僕がお誘いして、島のホテルや観光・旅行業社で働く方は、20人になった。
台湾、ベトナム、インドネシア、ロシア、キルギス、といった国からやってきた。
多くは、日本語や観光を学んでいる大学生。
彼らは語学と自分の専門能力を現地現場で磨くため、1年間、日本に研修(インターンシップ)に来ているのだ。
中には、そのまま会社に就職したりする子も現れている。
 
台湾からインターンシップに来て1年。
卒業と同時に、島の観光施設に就職した劉さんは、こう話す。
「私、とても大切にされています。だからお客さんも、大切にしていきたいです」
そう、その心の使い方こそがホスピタリティ。
島の観光に携わる人で、一番大切なことだ。
 
国際的な観光地を目指すなら、合衆国になった方がいい。
おじい、おばあの沖縄もいいけれど、同じような優しい目線で接してくれる、
いろんな国の方が自然に働いている場所。
それを、おじいも、おばあも、望んでいる。
優しい離島合衆国。そのお手伝いを少しずつしていきたい。
 
 
 
 
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2019-12-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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