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ぼくがボランティアへ行くのは、誰のためでもない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高橋 将史(ライティング・ゼミ平日コース)
 
列車に揺られて、もう2時間ほど経っただろうか。
車窓から見える建物の数は次第にまばらになり、代わりに田んぼや畑が目立つようになってきた。
 
その日ぼくは、去る台風19号で大きな被害を受けた栃木県の佐野市というところまで、復興支援のボランティアに行くことにしたのだ。
 
別に強い動機があるわけではなかった。毎日何をするわけでもなくフラフラとしているぼくを見かねてか、両親から
「こんなものがあるから、行ってみたらどうだ」
と勧められたのがきっかけだった。
丁度その時、ぼくは日常に何らかの変化を起こさなければ、と思っていた。就職活動もせず、かといって強い目的意識を持って何かに取り組んでいるわけでもない現状、何も新しいことをしないままぼんやりと過ごしていたら、どこまでも堕落してしまうような気がした。どんな形であれ、人との接点を切らしてはいけないと思った。
親に対する負い目もあり、ぼくはその提案を受け入れることにした。
 
とはいえ、ボランティアへ行くのは正直あまり乗り気ではなかった。正直に白状すると、バカにさえしていたと思う。どうして自分の時間と労力を、顔も知らぬ誰かのために提供しなければいけないのだ、と。
ボランティア活動を年間何十回も行なっている人をテレビで見たことがあるが、彼らがなぜこの手の慈善活動をライフワークとしているのか、何がそこまで彼らを引き付けるのか、ぼくには理解できなかった。
 
「時給貰わないとやっていられない」
実際に活動してみた後、きっとこう思うはず。それで終いだ。
今回を最後に、ボランティアに行くことはないだろう。
 
ぼくはうつむき加減でそう考えながら、目的地の駅の改札を降り、そこからバスで目的地までへ向かった。
 
ボランティア活動を主宰しているのはその地方の自治体ではなく、社会福祉協議会(社協と略すらしい)と呼ばれる団体だ。
ボランティアの参加希望者は各地の社協のオフィス近くに設営されたボランティア本部へ行き、申請書の記入と保険への加入を済ませる。そうすることで、初めてボランティアとしての活動が許可される。
その後、参加者は数人~十数人で1グループとなり、援助を必要とする市民のもとへ向かい、ボランティアとしての活動を行う、というのが一連の流れだ。
 
ぼくはボランティア本部へ着くと、書面での簡単な手続きを済ませ、参加者が集められている大部屋へと案内された。
しばらくするとスタッフの方から案件の紹介があり、市内で米屋を営んでいるお宅へと支援をすることに決まった。
メンバーはぼくを含めて15人。ボランティア慣れしていそうな初老の男性から、中高生くらいの女の子まで、顔ぶれは様々。
作業に必要な道具を借りて、車で現地に到着したら、いよいよ活動のスタートだ。
 
その日の現場での仕事は、米蔵の掃除と、木材についた泥落としがメインだった。
実際に手を動かしてみると、木でできた足場を運んだり、デッキブラシで床の汚れを落としたりといった地道な作業を無償で行っていることに、そこまで嫌な思いを感じていない自分がいた。
意外だった。
適度な強度の肉体労働はネガティブな思考がつけ入る隙を与えず、代わりに「自分は今、人のためにはたらいている」という意識が心の中を満たした。自分の存在が肯定されているような気がした。
周りの人も文句ひとつ言わず、まるでそうするのが当たり前だといわんばかりに、ニコニコと明るい表情で、時に互いを励まし合いながら、淡々と自分たちの仕事をこなしていた。
それまで自分が身を置いた中のどこよりも、やさしいコミュニティがそこにはあった。
 
あっという間に午前の仕事は終わり、昼休憩の時間になった。
リーダーの発案で、参加者それぞれで自己紹介をすることにしよう、という流れになった。
阪神大震災のころからボランティア活動を続けているベテランのおじさん、台風での海岸の被害を見て今年からボランティアを始めたというサーファーの男性、生徒向けにボランティア活動のプログラムを自分で作ってしまったという教師の方、その先生に連れられてきた、引きこもりがちでゲーム好きの男の子……
参加者おのおののバックグラウンドは、実に様々だった。
そしてぼくの番が回ってきた。今日初めて参加したという高校生の女の子の後、15人の中で、ちょうど最後の順番だった。
「ボランティアに来たのは、僕も今日が初めてです」
それだけ言って、続きを言うのをためらった。頭の中の台本をもう一度反芻する。
本当にこんな話をしていいのだろうか。
それでも、わずか2時間弱ではあるが実際にボランティアを通じて感じたことを素直に伝えたい、という気持ちが少しだけ勝った。
ゆっくりと口を開く。
 
「実は僕、就職活動に失敗したんです。それも、2回」
全員の視線が一方に集まる。ぼくは一気に話を続けた。
「2年間かけて100社以上にエントリーしたのですが、どこからも内定を頂くことができず、就活をやめてしまいました。何度も何度も選考に落とされる中で、自分には価値がないんじゃないか、自分はこの世界に必要じゃないんじゃないか、そんな思いから抜け出せずにいました」
 
就職活動は残酷だ。それまで自由な身分を社会から保証されていた学生が、いきなり「価値があるかどうか」という市場原理の世界へと放り出される。
採用候補者である就活生は採用担当者によって「役に立つ人材かどうか」ふるいにかけられて、選ばれた人だけが新卒社員という肩書きを手にすることができる。
有名企業から内定をもらえた学生はそれだけで羨望の的となり、内定のない学生はただそれだけの理由で、自分の価値がおとしめられたように感じる。
ぼくは、「選ばれないほう」の人間だった。
 
「そんな中で今回ボランティアに参加して、被災した人のために一生懸命働いている皆さんの姿を見て、就活で垣間見たビジネスとは全く違う世界があることに驚きました。そして、自分はここにいてもいいんだと思えて、救われた気分になりました」
 
ボランティアの世界では、どこの会社に勤めているだとか、年収がいくらだとか、そんなことは一切関係ない。
「公共のために自ら行動します」という意思さえあれば、誰であろうと仲間として受け入れてくれる、存在の無条件の肯定が、そこにはあった。
 
現代に生きる人は、経済的成功と同じかそれ以上に、誰かからの承認を求めている気がする。けれど、需要と供給のバランスが支配する市場原理の世界では、誰からも需要されない存在=存在を認められない人が、どうしても生まれてしまう。
経済的な成功も得られず、誰からも存在を認められなかった人が、凶悪犯罪を起こすニュースを何度も目にした。
映画『ジョーカー』がヒットした理由も、こうした社会背景が一因にあったと思う。
ぼくは就活というフィールドでは、他者からの承認を得ることはできなかった。けれど、ボランティア活動というフィールドで、全く違う形で存在を認めてもらうことができた。
理想論ではあるけれど、もし一度でもボランティアに参加していれば、誰からも認められず自殺や凶行に走ってしまう人が、未然に救われるのではないか、とさえ思った。
 
「今日ここで活動する前は『もう来ないだろうな』と思っていたのですが、今は『また来てもいいかもな』と思っています」
 
ぼくが話し終えると、聞いてくれていた仲間から拍手が湧きおこった。
「いや~名演説だったよ、あんちゃん!」
リーダーのおじさんから声をかけられた。ぼくは照れを隠しつつ、軽く会釈をした。
 
ボランティアにハマる人がいる理由が、少しだけ分かった気がする。
彼らは、ボランティア活動を通じて、自分自身を肯定しているんだ。
 
その日の活動が終わり、荷物をまとめている途中、グループの仲間の一人の男性からこう声をかけられた。
「ボランティアはね、一回行くとなんか癖になっちゃうんだよ」
 
今ぼくは、いわきへと向かうバスの中でこの文章を書いている。
目的は、災害復興へのボランティアへ参加するためだ。
 
確かに、こいつは癖になりそうだ。
 
 
 
 
***
 
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2019-12-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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