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これだから映画は困る


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記事:リュウヒロキ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
ある映画を見て10年ぶりに昔のことを思い出した。文字通り、僕の人生が変わった日のことだ。
 
僕は北海道の大学に通いつつ、東京で就職活動をしていた。
希望していたのは広告業界。なんのことはない、ただなんとなく華やかなイメージに憧れていただけだ。
 
とはいえその日、第一志望の大手広告代理店の面接とあって、僕はいつになく気合が入っていた。
いざ面接が始まって、最初に志望動機を聞かれた。
いま考えればありきたりで中身のない内容だったが、用意していた言葉を何とか出せたように記憶している。
 
問題はその次だ。面接官は続けて僕にこう聞いた。
「あなたがやりたいことは分かりました。では、配属された部署が自分のやりたいことではなかったとき、あなたはどうしますか?」
 
僕は思いっきり固まってしまった。
「どんな形であれ、大好きな広告に関われれば幸せです!」
そう言ってしまえばよかったのだ。
まぎれもなくその会社は僕の第一志望だった。
先のことなんてわからない。入ってみて初めて分かることもたくさんある。
だからその場は嘘でもこの会社に入りたいと言ってしまえばよかったのだ。
 
結局、その時の僕は何も言えなかった。
いや、言ってはいけない気がしたのだ。
 
そんな散々な結果に終わった面接の後、僕はホテルを取っていた新宿に戻った。
ごはんを食べる気もせず、そのままホテルで寝てしまおうかと思っていた。
けどこのまま帰っても、失敗した面接のことで頭がいっぱいで眠れそうにもない。
 
そんな時だ。
歩いていた大通りのすぐ脇に地下に降りていく階段を見つけた。
看板を見ると映画館のようだ。
特に映画を見たい気分なわけでもない。
けど、このままホテルに帰るのもつらい。
気付けば僕は、吸い込まれるようにその階段を下りていた。
 
正直その時見た映画の内容は、今となっては細かくは覚えていない。
一部の権力者が強大な資金力を武器に世の中を意のままにしている日本を舞台に、主人公が自分の犠牲をかえりみず立ち向かうという内容だったと思う。
ただ、時間だけはあっという間に過ぎたのを覚えている。
 
映画館を出ると、暗くなった冬の東京は北海道よりも寒く感じられた。
そして、僕は、泣いていた。
悲しいからではない。
自分のふがいなさを悔やんでいるわけでもない。
ただただ湧き上がる「やってやるぞ!」という気持ちに震えていた。
そして、そう思わせてくれた映画の、物語の力に感動していた。
 
人生最悪の日だ。映画を見る前までは本当にそう思っていた。
けど、映画を見た後は未来への希望に満ち溢れていた。
 
理由は一つ。
気付いたからだ。
僕には人生をかけるべきものがすでにあると。
「どんな形でも、関われれば幸せです!」と、胸を張って言えるものが。
 
それは「物語」だ。
思えば、人生のたくさんの場面で大きな影響を受けていた。
小学生の時、いとこの家で初めて漫画に触れて朝まで夢中で読んだ。
中学時代、ドラマの主人公に憧れて検事になることを志した。
高校時代、映画の舞台になっていた北海道に興味を持ち、札幌の大学に進学を決めた。
大学時代は映画製作の現場に携わり、映画祭にボランティアスタッフで参加し、仲間と上映イベントも行った。
どれも物語の持つ力に動かされていた。
そして、物語を生み出す人たちのことが大好きになり、この人たちと一緒に、この人たちのために何かをしたいと思うようになっていた。
その結果、目指したのが広告業界だったのだ。
いい作品を作る現場のクリエイターがちゃんと評価される環境を作りたいと思った。
就職活動のプレッシャーでそんなことも忘れていた。
 
それをあの時見た映画は思い出させてくれた。
そして今、僕は「物語」を生み出す会社で働いている。
あれから10年がたち、職種もいくつか変わったが、変わらず物語に関わり続けている。
 
そんなことを10年ぶりに、あの時と同じ冬の新宿の映画館で思い出した。
映画のタイトルは『国家が破産する日』。実に気持ちが奮い立たせられれる作品だ。
これだから映画は困る、やめられないじゃないか。
 
 
 
 
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2019-12-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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