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永遠の愛の正体は、石ころだった

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記事:わたなべ さゆり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ダイヤモンドの原石を見たことがあるだろうか。磨かれていないダイヤモンドの原石は、そこら辺の砂利とさほど変わりない。光を当てれば多少キラキラするものの、黒っぽい灰色で、ごつごつしている。ダイヤモンドの原石は、「宝石」ではなく「石ころ」である。
 
キラキラと輝く宝石としてのダイヤモンドが「永遠の愛」の象徴である、ということに異論をはさむ者は、日本国内にはほぼいないだろうと思われる。ところが、わたしが40年近く生きてきてようやくたどり着いた「永遠の愛」は、宝石としてのダイヤモンドではなく、石としてのダイヤモンド……原石だった。
 
わたしはシングルマザーである。
永遠の愛を約束したダイヤ入りの結婚指輪は、結婚して3年で外してしまって、気が付いたらどこかへ行ってしまっていた。それから7年、まだ幼い子供のためにと仮面夫婦をしてきた。
 
10年も我慢した挙句に離婚に至ったきっかけや理由は、様々あって語り尽くせないが、わたし自身の内面的な理由を挙げれば「心から愛してくれて、心から愛せる、たった一人と添い遂げたい」という切実な願いを諦めきれなかった、ということだった。
 
わたしの両親は、わたしが物心ついた時から不仲だった。わたしは、夫婦が協力し合って何かをするということや、夫婦が信頼し合い、尊重し合っている姿というのを見たことがないまま大人になった。夫婦というのは目を合わせて笑い合うもので、趣味の話や子供の話で楽し気に話すものだということを、大人になってから知った。
 
憧れた。キラキラして見えた。わたしもあんな風に、生涯この人だけと決めた人と、愛し合い、尊重し合って、幸せな夫婦になりたかった。
 
けれど、ふたを開けてみれば、夫は他の女性の影が絶えない人で、夫婦の間に何かあるたびにわたしとは向き合わず、他の女性の存在に逃げた。夫婦のことは、片方だけに非があるわけではない。そうさせてしまったわたしにも、もちろん非があっただろう。
 
傍から見れば夫は上場企業に勤めるエリートで、可愛い子供にも恵まれ、わたし達夫婦はきっと、結婚指輪のダイヤモンドのように見えていたと思う。けれど、他でもないわたしだけは、その結婚生活がイミテーションのダイヤモンドであることを知っていた。幸せな夫婦関係や、幸せな家族関係を目の当たりにしてこなかったわたしには、そもそも幸せな夫婦関係を築く才能がないのか、あんなキラキラした関係は手に入らないのだろうかと落ち込んだ。
 
本物の夫婦関係をどうしても諦めきれなくて、最終的に離婚を選んだ。わたしは、わたしだけを見つめてくれて、愛してくれる人と共に生きたかった。今生で、本当に信頼し合い、愛し合える人と出会える可能性があるなら、それに賭けたかった。幼い子供もいるいい歳の女が、まるでおもちゃ売り場で泣く駄々っ子のようだったと思う。
 
そうして離婚後、幸いにもわたしは、不器用だけれどまっすぐにわたしを愛してくれる彼に出会うことができた。エリートではないけれど、決してわたしを裏切ることはないと信じさせてくれる彼だ。
 
彼と出会ってわかったことが、「永遠の愛」は宝石のダイヤモンドではない、ということだった。
 
彼とは、1週間に1度はケンカをする。わたしも彼も頑固なので、折れることを知らない。鼻水を垂らして泣いて訴えることもある。話しても、話してもわかりあえなくて、別れるか別れないかのケンカになることもある。決してキレイに整ってはいないし、キラキラもしていない。不格好で、いびつだ。
 
けれど、彼は他の女性に逃げることはしない。そして、わたしたちはケンカして、仲直りして、その度に少しずつお互いをわかっていって、ずっと一緒に、仲良くいられるように、少しずつ頑固な自分たち自身を変えていっている。そして、これだけケンカをしても、別れるという話に何度なっても、最終的にはお互いの手を離さないでいるということで、少しずつ絆を深めていっているように思う。
 
付き合って1年が経ち、わたしには彼しかいないし、彼にはわたししかいないのだろうと思えるようになった。わたしが、のどから手が出るほど欲しかった「たったひとり」が彼だと、迷うことなく言える。
 
「永遠の愛」を信じられる相手と出会ってわかったことが、永遠の愛は決してきれいでキラキラしているダイヤモンドではなかった、ということだ。不格好でいびつな、石ころの状態のダイヤモンドだった。ぶつかりあって、逃げずに向き合って、磨き合って、段々とダイヤモンドに近づいていく石ころ。それが「永遠の愛」の正体なんじゃないか、と今思う。
 
数年内には、籍を入れることになっている。先日は、今着けているペアリングの代わりに、どんな結婚指輪を着けようかと盛り上がった。彼は「やっぱりダイヤが入った指輪がいいだろうね」と言う。わたしは、彼にもたれかかりながら、キラキラ輝くダイヤモンドよりも、原石のダイヤモンドがわたしたちらしいんじゃないかと、冗談交じりに提案した。
 
彼は「それも面白くていいかもね」と笑ってくれた。誰より愛しいその笑顔が、キラキラしていて眩しくて、わたしも目を細めて笑った。
 
 
 
 
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2019-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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