メディアグランプリ

ロールプレイングゲームにたとえると誰でも理解できる引きこもりの仕組み

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:藤井康子(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 

私たちはみんな「自己肯定感のメーター」を持っている。あなたも私も。
−−−−そんなメーター見たことないって?無論、体の中(多分頭や胸?)から取り出して直接そのメーターの指している数値を見ることはできない。でも次のような場合に私たちはこのメーターの数値を意識するんじゃないだろうか。
朝起きて、鏡に映った自分を目にした時、「なんだか今日の顔は今ひとつだな」と思った経験はきっとあなたにもあるだろう。「今日は誰にも会いたくない」「一歩も外に出たくない」と思うかもしれない。普通はそう言いつつもどうにか外出したり、仕事に行ったりするものだが、このメーターの数値が底をついていると私たちは本当に外に出ることができなくなる。逆に言えば、このメーターの数値が充分に高ければ、私たちはそもそもこのメーターを意識する必要なんかない。
このメーターの数値はロールプレイングゲーム(RPG)におけるライフのようなものだ、と思ってもらえればわかりやすい。RPGといえば日本ではファミコンのドラゴンクエストシリーズ(通称ドラクエ)などが有名だが、どんなRPGでも「体力ポイント」とか「ライフ」とかゲームによって呼び方は異なるが、プレイヤーがプレイしているキャラクターの健康状態を表す数値が出てくるものだ。これなしではRPGが成り立たないと言っても過言ではない。ここではそれを「ライフ」と呼ばせてもらう。ライフがゼロになれば、もちろん私たちがプレイしているキャラクターは死んでしまい、ゲームは始めから、もしくはセーブしたところからやり直しとなるわけだ。
で、ゲームの中でこのライフの数値が小さい時、私たちはどういう行動をとっただろうか?−−−−あくまでゲームの中で、である。ライフがさらに減る可能性のある敵との遭遇や危険が予想される行動はできるだけ避け、まずはライフを回復させる方策−−−−滋養のある食べ物や薬草や休息、怪我や病気を治す力を持った能力者を探し求めたはずだ。そして元気いっぱいになったところで、つまり死んでしまう可能性をできるだけ排除したところで初めて、改めてミッションのクリアに必要な危険な行動へと踏み出していったはずだ。この順序は絶対に逆にはできない。
しかるに引きこもりの状態に陥り、なかなかそこから抜け出せない人の生活はどうなっているかというと、ちょうどこれと似た状況を想像してもらえるといい。引きこもりの人の自己肯定感−−−−つまりRPGで言うライフ−−−−は危機に瀕しているのだ。ベースラインのライフがゼロに近いということは、そこにもう一つ何かのダメージが重なれば一発アウト! つまりゲームで言えば即、主人公の「死」を意味する。これは現実には、ちょっとしたことですぐには回復しないようなダメージを心に受けやすい、ということである。しかも多くの場合、彼らの暮らす家の中には、よその家にはいないような特殊な敵キャラがおり、もちろんこの敵に遭遇するとライフが減ってしまうのだ。ここで言う「敵」とは、引きこもりの人の自己肯定感をさらにジリ貧にさせてしまうような関わりをする親などの家族のことだ。悲しいことだが、誰だって自分のライフをゼロに近づける−−−−つまりただでさえ低い自己肯定感をさらに引き下げるような働きかけをしてくる存在のことは、たとえ親や家族であろうと「敵」だと感じざるを得ないだろう。例を挙げれば、本人の状態はそっちのけでとにかくできるだけ早く仕事に就くようにとプレッシャーをかける、といった親の振る舞い、あるいは引きこもりの本人のことで思い悩むあまり親自身が平常心をうしない、引きこもりの本人が罪悪感に苛まれてしまうような場合、たまに訪ねてくる親戚が引きこもりの本人や親の取り組みを一切尊重せずに一方的に本人や親を非難するような場合というのはこれに当たると言える。
こうなると、たとえ家の中であってもむやみにうろつくことは引きこもりの本人にとって大変危険な冒険となるので、おちおち自室を出ることもできなくなる。そしてまた、運よく彼らをかわして外に出ることができたとしても、自分のことを最もよく知る一番信頼できるはずの家族でさえ自分の敵なのだから、家の外はもっと敵だらけに違いないと思い込み−−−−実際にはそうとは限らないのだが−−−−外部のまだ見ぬ「味方」としての他者−−−−それはずっと連絡をとっていない友人かもしれないし、メンタルヘルスの専門家かもしれないし、ただ単にその人のことをよく知らずに親切に接してくれる人かもしれない−−−−を信頼して出会いを求めることもままならなくなってしまうのだ。
つまり、自分の周りがライフを減らすような人間関係ばかりであるとき、私たちはなかなか引きこもりの状態を脱することはできない。そしてこのような状況では「引きこもる」という行動はむしろ今以上にライフを低下させないための次善の策であり得るのだ。
では最善の策は何かと言えば、引きこもりの人が自分にとってのライフの補給場所を見つけることである。ライフの補給場所は、やっていると自然と元気が出てくるような、その人が好きな活動をすることかもしれないし、自分のことを否定せずに受け入れてくれる仲間や、一緒に喜んだり悲しんだりしてくれる理解者のことかもしれない。あるいは一定の距離をおいて普通に接してくれる友人かもしれないし、引きこもりの子への接し方を工夫するようになった親かもしれない。とにかく、このようなライフの補給場所さえ安定して確保できていれば、私たちは少しずつまた外の世界で冒険を繰り広げることができるのだ。
 
 
 
 
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2019-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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