メディアグランプリ

年賀状はサヨナラの合図


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:小川 智子(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 
「今年はどうしようかな」
とうとう年賀状の季節になった。
そう思いつつも足は郵便局へと向かう。今年は、やや数を抑えて65枚を購入。これでも随分と減った。段々と疎遠になる人が増えて、そのうちにやりとりが途絶えてしまう。
会えないでいるうちに互いの生活する背景がつかみにくくなる。後ろめたさはあるが、現実に顔を合わせている人達とのやり取りが毎日の流れを作ってしまう。
これは仕方ない。自然の流れなのだろう。
 
宛先は僅かな親戚と、あとの大半は友人である。そのほとんどは大学時代の友人で、就職を機に全国各地に散らばっていった。調理師・幼稚園教諭・神主・介護施設の相談員・ご住職の奥様・不動産業など、顔触れは様々だ。
以前は100枚近くを主人が印刷し、手分けしてひとりひとりにメッセージを書き入れていた。
「お元気ですか」
「そのうちゆっくり会いたいですね」
張り切ってもいないし、凝ったものは作っていない。それでもやっぱり12月の末になってしまう。掃除をしたり、ストーブの煮物に目をやりながら少しずつ書いていく。元旦には届かない、のんびりした作業だ。
 
正月明けは、つかみにくい背景を僅かながらに感じられる貴重な時間となる。
葉書の上でお互いの年齢を笑ってみたり近況報告をし合ったりする。
「えっ! お孫さんがいるの!」
「あらあ、転職したのねー」
「ネコが3匹もいる」
などと、独り言を言いながらうんうんと頷きつつ目を通す。
あっという間に気持ちが昔に帰る。
一緒に笑ったこと、涙したことが蘇る。大人になる手前の時代だから、世の中に対するしがらみも少なく、責任も薄く、でも本当に自由で、何にもかえがたい時間だったと懐かしむ。
 
それを受け取るのがとても好きだった。
昔の自分も思い出も、その中に住んでいる友人達も、まるごとが大切にしておきたいもので、自分の元へ時間差で戻ってくる。
思い出が道草を食いながら、遠回りしてやってくるような感じがして楽しかった。
ところが、である。
近頃「引っ越しました」と新住所が添えられている年賀状が目につき始めた。皆の動きが今までとは違うことに気づく。
 
親と一緒に住むことを決めた人。
同居の親が亡くなり、家を処分して都心を離れ自立する人。
やりたい仕事に合わせて住まいを転々としている人。
離婚した人、再婚した人。
中には「独立してお店を出しました」
という人もいる。
 
50歳も過ぎると紆余曲折。みなそれぞれに人生の節目を迎えている。
力強く、新しい道を模索して歩き出しているのだ。
新年に、そのお知らせをいただく度、平凡に暮らしている私は何となく申し訳ない気分になる。比べているのかもしれないが、心が揺さぶられる。毎日自分なりの正直さで生きてきた気はするけれど、今まで何をしてきたのだろうか?あの頃やりたいと思っていたことを、ちゃんとやってきたのだろうか?
しばらく同じ場所でぐるぐると同じことをしてきた気がする。
日々のしがらみに仕方ないよと呟き、感情を置いてきたルーチンをこなすだけ。
もう、道草を食った思い出を受け取っている場合ではないのかもしれない。
残りの人生、自分のためにどうやって過ごそうか。人生あと半分くらい残っているだろうか。
友人達は、必要に迫られ選択をしたのだろうが、私の生活には、その選択肢が訪れなかっただけなのか。自分が呼び込まなかっただけではないか。
思考は巡る。
 
年賀状を書くことは手間はかかるがやはり楽しい。細々とでも続けたいと思う。
でも、
「そのうちゆっくり会いたいですね」と書くのはもうやめたくなった。
当たり障りなく包装紙で包むようなその言葉。
会いたいけど、たぶん会えないあきらめが心の奥底に溜まっている。
もしかしたら、年賀状の大半はもう会えない人にあてて書いているのかもしれないな、と思った。
だったら早く会いに行こう。会いたい人に会いに行こう。
分厚くなってしまった日常の枠から飛び出そう。
 
年賀状は、もしかしたらサヨナラの合図なのかもしれない。
そろそろあなたに会えなくなりそうです、とそっと知らせてくれているのかもしれない。
全ての友人に会うのは難しいが、「是非お会いしましょう」とメッセージを添えて、来年はできる限り出かけてみようと思う。
子育ても終わった。時間も作れるようにもなった。
また、あの笑顔に会って自由があることを自分に伝えたい
 
この先も年賀状の数は減り続けるだろう。寂しいかもしれないが、その代わりに私の足跡はたぶん増えていく。
それはそれで、年に一度のお知らせを充分に活かせているのかもしれない。
そして、日常とは違う動きが私に何かをを届けてくれるかもしれない。
 
今年も残り僅か。友人達を思い浮かべながらペンを取ることにしよう。
 
 
 
 
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2019-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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