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誰もが眠れる魔法の精油。これがあれば眠れるのか?

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:南園 貴絵(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「ちっとも眠れやしない!」
そう言って義母が小さな茶色の小瓶を差し出した。
これは私が嫁いで同居をし始めて1年半経った、今から4年程前の出来事である。
 
小さな茶色の小瓶。
アロマテラピーの精油が入った小瓶で、ラベルは『ラベンダー』の表記。
 
「あー、お義母さん。ラベンダーを買ってしまったのですね……」
「店員さんが、安眠にはラベンダーがいいと勧めてくれたのよ。洋子さんはよく眠れるって言ってたのに」
ため息交じりに呟く義母。
どうやら1ヶ月前、友人の洋子さんとランチをした時に、某デパートのハーブやアロマテラピーの商品を売っている専門店で買ったらしい。
 
買う前に相談してくれたらよかったのに、と強く思った。
が、言えなかった。
私はアロマテラピーを習っていたけど、その当時は資格取得に興味がなく、受講していたのは、生活に香りを取り入れていこうという趣旨のレッスン。
もちろんアロマテラピーの正しい知識を学んでいたのだが、専門店の店員さんより優れたアドバイスができる自信は到底なかった。
 
それに、その頃知った“新しいアロマテラピー”で驚きの情報を聞いたばかりだった。
『ラベンダー精油が安眠につながらないだけでなく、頭痛を招く原因になっている人もいる』
これにはとても驚き、困惑した。
まだ自分の中で情報整理できていなかった。
だから、いくら一緒に暮らしているからと言っても、義母に安易に伝えられる状況ではなかった。
 
義母が時々睡眠導入剤を服用していたことも、あまり薬に頼りたくないと思っていることも知っていた。
だから、薬に代わって眠ることができる『何か』を求め、アロマテラピーの精油を試してみたことは容易に想像がついた。
 
『眠れない時にはラベンダーを使う』
実際、ラベンダー精油に誘眠作用があることは認められている。
専門店の店員さんが間違った情報を伝えたわけではない。
洋子さんが嘘をついているわけでもない。
義母のラベンダー精油だけが不良品だったわけでもない。
 
では、なぜ義母は眠れなかったのか。
 
そもそも眠れない理由は、皆同じなのか。
興奮して体が熱くなりすぎて眠れない人もいれば、冷えすぎて眠れない人もいるだろう。
羊の数を数えても眠れないように、思考がグルグル巡って眠れない人もいるだろう。
 
なかなか眠れない、寝つきが悪いという事実は同じでも、眠れない理由は人それぞれ違う。
それなのに『眠れない時にはラベンダーを使う』が皆に当てはまるなんて無理がある。
 
義母は、いつも冷静だが思考を巡らせすぎてしまうタイプである。
そして洋子さんは楽観的であり、あまり考えすぎないタイプらしい。
どう考えても二人の思考タイプが異なっていることは明白だ。
 
ここで私は、自分自身のある出来事を思い出した。
もう15年は前になるが大失恋をして、食事も喉を通らない程、寝ても冷めても元恋人のことを考えていた時期があった。
見かねた親友が、気分転換にとラベンダー精油をくれた。
それはそれはもう吐き気がする程強い香りに感じ、とても眠れるような香りではなかった。
頭も痛かったが、それはラベンダー精油とは関係のないことだと、当時は思っていた。
もしも“新しいアロマテラピー”の、あの情報が確かならば……
 
ここで私はひとつの仮説を立てた。
『義母は、重度の失恋を引きずり続けている』
誰に?
ってそれは、愛する息子だろう。
いくら結婚適齢期を過ぎた息子(この話の当時は38歳)と言っても、愛する息子。
結婚してくれて一安心、ひとつ屋根の下で暮らす同居とは言っても、喪失感に似た感情があるに違いない。
『失恋』という表現が適切かどうかはわからないが、きっとそうに違いない。
 
そして、別の小さな茶色の小瓶をひとつ、義母に差し出した。
『ラヴィンツァラ』という、クスノキ科の木の部分の精油。
 
「スーッとした香りね」と義母は呟いた。
ラベンダー精油で、精油の効果に対して疑問と、小さな不信感を抱いていたようだが使ってくれることになった。
 
「最近、薬飲まなくても眠れるのよ。何だか目覚めもスッキリするわ」
1週間後のことだった。
微笑む義母の手には小さな茶色の小瓶があった。
私は安心した。
 
それから1ヶ月が経った頃、また義母からあの小さな茶色の小瓶を差し出された。
「中身がおかしくなったみたい。前と香りが違うし、また眠れない」
精油の使用期限は問題ない。
香りを確認しても何も変わっていなかった。
変わったのは義母の心と体の状態だった。
「このところ胃もたれがして、食欲がない」という。
手元にあった何本かの精油の香りを嗅いでもらい、義母が気に入った精油が1本あった。
新鮮な植物油に、数滴の精油を垂らして、少し大きな茶色の瓶に入れた。
「これは、お義母さんにとって『塗る太田胃散』でもあり『塗る睡眠導入剤』です」と言ったら少し驚いた顔をしていたけど使ってくれた。
翌日、また義母が茶色の瓶を持って笑っていた。
「胃もたれもよくなったし、昨日は眠れた」
 
あれから4年。
今でも時々眠れない時には、義母にあった茶色の小瓶を渡すようにしている。
もちろん中の香りはその時々で変わる。
 
そして、あの時立てた仮説が正しかったかどうかは、未だわからない。
が、義母が眠れるなら、どちらでもいいとも思う。
 
 
 
 
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2019-12-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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