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「いや、俺はいいや」最強グルメ体験記


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:郡山秀太(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「絶飲絶食、してもらいます」
 
僕は盲腸だった。
盲腸など、どうでもいい。
絶飲絶食というワードにインパクトがありすぎた。
 
僕のインスタグラムは、ご飯の写真におおわれている。
 
基本ランチの写真。毎度写5枚は撮る。
上から。斜めから。食器のレイアウトも変えて撮る。
店内の明るさや、日の差し具合がお店ごとに違うからだ。
 
そんなインスタグラムを見ているからなのか、よく美味しいご飯屋を聞かれる。
聞かれると嬉しい。
嬉しいからもっと美味しいお店を。
エンドレスだ。
 
自分が好きなジャンルの中で、美味しいものを食べてきたという自信あった。
幸せな食生活を送っている、と思っていた。
 
しかし、今回、いままで食べてきたどのご飯も勝てない、
絶対的な美食を体験することになるとは……。
 
「絶飲絶食、してもらいます」
 
僕の盲腸は、菌で腸が炎症をおこしているのが原因。
1週間入院して、なにも食べない、なにも飲まない、で治すらしい。
 
でも、そんなあっさり、いうこと?
そら、お医者さんからしたら、たくさんいる患者さんの一人なのでしょうけど。
 
「検査の結果がでました。大変お伝えしづらい内容です」
「はい。覚悟はできています」
「息子は、息子は助かるのでしょうか?」(動揺する母)
「落ち着いてください、お母さん。息子さんは」
 
と、いうぐらいの雰囲気で伝えてほしかった。
 
だって、絶飲絶食だよ?
何度もいうが、なにも食べない、なにも飲めない。
 
地獄じゃないか。
閻魔さま、いや、お医者さまが言うには、点滴だけで栄養をとるのだという。
 
入院は、急だった。
受診したその日のうちに入院せよ、との指示だった。
白い壁と白い天井。カーテンのみで区分けされた4人部屋。
とうとう病院のベッドが住まいになった。
 
看護師さんが、ひときわ太い針を左腕の血管に刺す。
地獄の点滴生活のはじまりだ。
不安でしょうがない。
 
その日は、急な入院の疲れからか、気づかないうちに眠っていた。
 
いつも朝、お腹がすいて起きる。
しかし今日は病室のライトに起こされた。
朝6時には、暗かった病室に明かりが灯される。
看護師さんが朝の体温・血圧をはかっていく。
 
不思議な感覚だ。
昨日の夕方から何も食べていない。
なのに、お腹が減っていないのだ。
喉も乾かない。
地獄の点滴はすべての栄養素をおぎなっているらしい。
 
だよね。
1週間も空腹に耐えろなんて、そりゃ無理だもん。
これならなんとか頑張れそうだ。
この日は持ってきていたノートPCで仕事をしながら快適な病院生活を堪能していた。
 
無意識に、自分のインスタグラムを開いた。
 
やってしまった。
 
いままでアップした写真達が、襲いかかって来る。
 
とたん空腹ではない、なにかが目覚める。
食べた記憶だ。
 
定食屋のポークソテーのバターの香りが襲ってくる。
蕎麦屋のカツ丼の旨味が襲ってくる。
中華料理屋の天津飯の酸味が襲ってくる。
 
その日、人類(僕)は思い出した。ヤツら(ご飯)に支配されていたことを。
 
ご飯が、ご飯が食べたい。
食べるという行為の記憶が僕に問いかける。
 
「なぜ食べない? なぜクチから物を食べ、味わい、喉ゴシを楽しまないのだ」
 
まだ、2日目。
食べる記憶から逃れるように、早く就寝した。
 
3日目。
思わぬ行動に出た。
向かい酒ならぬ、向かい飯テロ。
 
なぜあんなことをしたのか自分でもわからない、ということは本当にあるのだ。
 
持ってきたipadを使い、孤独のグルメを第1話から見る、暴挙にでた。
 
孤独のグルメシーズン1には、「ひとり焼き肉」の見本ともいえる話がある。
主人公の井之頭五郎が、自分を火力発電所に見立て豪快に焼肉とご飯をむさぼる。
 
焼肉の映像を見ながら、遠い記憶が蘇る。
あの頃はよかったなぁ。またいつか焼肉を食べにいきたい、な。
心なしか目が潤んでいくような気がした。
 
入院とは、暇との戦いでもある。
結局、3日目と4日目で、孤独のグルメを最新シーズン全話見てしまった。
ご飯に対する気持ちは強くなるばかり。
 
5日目。
食べるという行為は生活の中にもう、ない。
 
僕は点滴で十分さ。
もうずっと繋がっている。
シャワーもトイレも君と一緒さ。
食べるってなに? 美味しいの?
 
チカラもなく、ベッドに横たわっていると、お医者さまが現れ、こう告げた。
 
「明日の朝からごはん食べましょうか」
 
きょうは閻魔さまではなく、神さまだった。
一週間もしないで地獄から解放されることになった。
 
孤独のグルメでの自傷もしなくてよくなる。
YOUTUBEでのステーキ動画なんてもう見ないぞ。
 
気がつくと盲腸の痛みは消えていた。
荒療治(僕の中では)だったが効果は抜群だったようだ。
 
6日目。
ついに、朝食が運ばれてきた。
メニューはおかゆ、さわらの塩焼き、黒豆の甘煮。
 
ひさしぶりの食事に、感極まる。
 
友達にこの感動を伝えると、病院あるあるだよねー、と軽い返事をされた。
そんな軽いものじゃないぞ、これは。
 
おかゆをクチにはこぶ。
 
うまい。
 
さわらの塩焼きをクチにはこぶ。
 
うんめ。
 
黒豆の甘煮。
 
うんめぇぇぇ。
 
ぜんぶ、美味しい。
いままで美味しいと思えるご飯はあった。
だが、今回の“美味しい”は別格。
別格という言葉も陳腐なほどの美味。
 
ミシュラン調査員が1週間絶飲絶食で調査にでかけたら、
きっと、すべてのお店を三つ星にしてしまうだろう。
 
ご飯を食べるという行為が、神秘的過ぎて感動した。
ああ、もう言葉が見つかりませぬ。
 
僕は無事退院した。
まさか、こんな体験をしようとは思わなんだ。
 
いままで、これが美味しい、あそこが美味しいと思っていたのも間違いではないだろう。
だが、今回の入院で、食べるという行為そのものが、美味なのだということを思い知らされた。尊いものだと思い知らされた。
 
かつて、狩猟民族だった私たちの祖先は、一週間とは言わずもっと食べられない時期があったに違いない。
ようやく手に入れた食料は、さぞかし、さぞかし美味しかったことだろう。
 
もしかすると、その幸福感は現代人が感じたことがないほど、大きいものだったのかも知れない。
 
思いついた。
 
点滴で1週間絶飲絶食を体験したのち、食べる究極のご飯。
「絶飲絶食グルメ」なんて、いかがでしょう?
ぜひ、どなたか企画を。
 
え? 僕?
いえいえ。
もう結構だす。
 
 
 
 
***
 
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2019-12-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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