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メディアグランプリ

留学先で痛感した「グローバルでは戦えない自分」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Kimmy(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
「君はもう帰っていいよ」
 
目の前に座っていた丸眼鏡で年齢不詳な男子が、唐突にそう話しかけてきた。周りの学生が「どうするんだ?」と言わんばかりにこちらを見てくる。
 
違う、そんなつもりじゃなかった。でも、ここに居たってどうしようもない。手が汗ばんできて、頭の中でぐるぐる思考が回り、「あ、えっと……」としか言葉が出なくなった。気づいたら、みんなディスカッションを再開していた。
 
私の留学は最悪だった。現地の学生と談笑しながら颯爽とキャンパスを歩く自分を想像していたけれど、まさか上手く友達も作れず、自分のダメな部分と向き合う毎日を過ごすだなんて聞いていなかった。それにまさか、ディスカッションをしているときにお役御免になるとも想像していなかった。
 
もしかしたら、留学先に選んだ大学が私の思い描いていた「キラキラ留学ライフ」に向いていなかったのかもしれない。
 
大学二年生の頃、ダブルディグリープログラムを使って中国の北京大学に交換留学をした。「4年かかって学ぶところを1年間で体系的に学び、頑張れば学位も貰えちゃう!」という非常においしいプログラムだ。中国に飛立つ前夜は、北京大学の学生と対等に学んでいる自分を想像してワクワクして眠れなかった。
 
ただ当然ながら、授業言語は中国語で、一部は英語で行われることもあった。「中国語はダメだけど、英語はもっとダメです」だなんて言えず、ひたすら授業についていくのに必死だった。
 
さらに言語とは別の次元で、授業の内容そのものもさっぱり理解できなかった。もともと経済学専攻であったために、留学先で学ぶ国際法や政治学などは一切触れたことが無く、予習をしなかった日には授業中の風景に「ゲームオーバー」というテロップが流れている錯覚さえ覚えた。
 
「1つの授業の単位を落とす≒学位が貰えない」と、ダブルディグリープログラムの要件がかなり厳しいため、現実を知れば知るほど机に向かっている時間が徐々に長くなり、同時に精神的にも厳しくなっていった。
 
一番精神的に辛かった思い出が、グループワーク中に「君はもう帰っていいよ」と現地の学生に言われたことだった。そのとき、「現実の時事ニュースに政治理論を当てはめ、何故それが起きたのか、将来どのような展開になるかを考えよ」というケーススタディを一緒にやっていた。
 
その男子学生の表情を見るに、きっと親切心で言ってくれたのだろう。他人が何を言っているのか、自分が何を言えばいいのかも分からず、ずっと黙って座っていたからだ。しかしその瞬間、わたしの取るに足らないプライドは砕かれた。同じ年代であるにもかかわらず、圧倒的な差を見せつけられた。
 
周りの学生は、数日前の授業で(もしくはそれ以上前に)学んだ政治理論をスラスラ話しつつ、時事ニュースや外交手法に対する考察を述べていた。彼らの圧倒的な知識量は一朝一夕で身につけられるものではなく、さすが幼少期から勉強し続け受験戦争を勝ち抜いたエリートであった。
 
悔しい。
悲しい。
情けない。
 
自分の頭の悪さと努力の少なさに劣等感が生まれた。そして、「一体何様だ、絶対に見返してやろう」と沸騰しそうなぐらいに怒りの感情が生まれてきた。
 
それから、毎日大部分の時間を勉強に割き、毎日のように図書館にこもった。怠けたい気持ちがムクムクと出てくると、名前もよく覚えていないあの男子が頭の中に出てきては、「君はもう帰っていいよ」と耳元でささやいてきた。
 
いや、あなたにだけは負けない。
 
そう思いながら勉強したものの、人生でこんなに勉強したのは初めてだったし、今までどれだけ勉強量が少なかったのかを痛感した。あたりを見回すと、図書館では毎日たくさんの学生が朝から晩まで勉強していて、机の上にはたくさんの本や資料が積み上げられていた。テスト前でもないのにまず席取りに苦労するなんて、中国に来てから初めての出来事だった。
 
「日中の架け橋となり、グローバルで活躍できる人間になりたい」と、たいそうな志を口にして中国に来たわけだったが、今なら痛いほど良く分かる。
 
日本を越えると、そこには到底同じ人間とは思えないほど優秀な人材がたくさんいる。もともとIQが高いのに、「能力有限、努力無限」と言いながら、もっと高みを目指そうと必死で勉強をしている。そんな者達と対峙した結果、今のままではグローバルで活躍できる訳ではないと悟った。
 
しかし幸いにも、自分の頑張りを認めてくれる教授がいた。留学期間がそろそろ終わるころに、アフリカ政治概論の教授が授業終わりに声をかけてきてくれた。
 
「あなたのプレゼンを記事にしたら、知り合いがいる学術誌に投稿できるよ。考えてみてね」
 
最初は何を言われているのかよく理解できていなかった。上手く反応できず、「は、はい」と答えると、教授はニッコリして去っていった。
 
自転車に乗って寮に帰る途中、じわじわと喜びが沸き上がり、これまでの努力が報われた気がした。もう頭の中には、あの男子学生の顔なんてすっかり忘れ去り、ただただ誰かに努力を認められた喜びを噛みしめていた。
 
それからも同じように、淡々と勉強を続けていった。そうして無事所定の要件を満たし、先日北京大学の学位を取得できた。
 
この話にオチはない。今もなお、グローバルで活躍するには圧倒的に知識量や能力が不足していると感じている。「君はもう帰っていいよ」という言葉は、もはや自分へのエールにもなっている。あの言葉がなければ、自分はあんなに必死で勉強することがなかったと思う。
 
「你可以回家了」
 
この言葉を胸に、これからも勉強を続けていこうと思う。
 
 
 
 
***
 
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2019-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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