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ルーツをたどるロードトリップの先にあったのは


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:川﨑 裕子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
夫は父親を知らない。夫の両親は結婚しなかった。
 
父親について、夫は母親にたくさん質問をしてきたらしい。夫の母親も真摯に答えてくれていたようだ。とにかく、愛情たっぷりに母親から育ててもらった。それは配偶者の私からでも痛いほどよく分かる。
 
ただ夫は、自分が50歳を過ぎた今でも、父親の存在が気になって仕方がないようだ。
 
ある時、夫にある考えが浮かんだ。
「自分の父親の苗字は、言語によって変化するのではないか」と。
 
私の夫はカナダ人だ。夫の父親は、カナダ人でもギリシャ系だ。ヨーロッパ系の人は、英語を使用する際に苗字が少し変化する人もいるらしい。
 
夫は急に思い立った。英語の苗字をギリシャ語風に変えて検索してみたのだ。父親だけでなく、親戚がゴロゴロと出てきた。夫はその中の一人に思い切ってメッセージを送ってみた。
 
メッセージを送った相手は、夫のいとこだと判明した。
 
知らない事実をたくさん教えていただいた。会ったこともない、得体の知れない、日本に住むカナダ人を信用してくれた。
 
「彼には彼の人生がある。それに高齢だから私の口からは何とも言えない」と書かれていた。
 
更に「でも、私としては、あなたを家族として受け入れますよ」とあった。
 
これは、父親を知らない夫にとって、嬉しい衝撃だった。母親以外に自分を受け入れてくれる親類の存在を知ったのだ。
 
夫は、躊躇なく、「会いに行きたい」と言い出した。
 
飛行機の発着のない、ギリシャの地方都市に行く。それは無謀ともいえる旅だった。だが、夫の意志は固かった。
 
レンタカーでアテネの喧騒を抜け、高速道路を乗り継いだ。車で出発して3時間余りが経っただろうか。無事に、夫のいとこが住む地方都市にたどり着いた。夫は早速、連絡を取ってみた。
 
「もっと早くに詳細を伝えておきなさいよ!」
これは、私の心の声だ。
実は夫は「この夏に会いに行きます」くらいしか伝えてなかったようなのだ。
 
でも、夫としてはイザとなって断られるのが怖かったのだろう。急に連絡してダメだったら、諦めがつくと思ったのだろう。
 
いとこの住む都市は、夫の父親の故郷でもある。そこを訪れることができただけでも、大進歩のようだった。
 
私たちの不安をよそに、いとこからはすぐに返事が来た。その日は一緒にディナーをすることになった。いとこだけでなく、妻と娘と孫もやってきた。人見知りの私たち家族だが、初めて会ったとは思えないほど打ち解けた。
 
翌朝、いとこがホテルに迎えにきてくれた。オフィス兼自宅に招待してくれたのだ。ギリシャ式の朝食も振る舞っていただいた。
 
おもてなしはそれだけでは終わらなかった。いとこは建築家だ。彼が設計した建物にも案内してくれた。彼らのお気に入りのレストランで、お別れのランチもした。
 
急に連絡したのは夫だ。それでも、彼らの夏休みの予定に最大限にフィットするように私たちを迎え入れてくれた。いとこは夫にとっては歳の離れたお兄さんのようだった。私たちの娘のことも孫のように可愛がってくれた。
 
この、夢のような出来事は、夫を柔和にした。夫はもともと優しい人だ。だけど、言葉ではうまく表せない、何かの重荷が取り払われたように見えた。
 
あれから、もう4年が経つ。今もインターネットを通じてギリシャの親戚たちと交流を続けている。夫の父親も健在のようだ。親戚のSNSにコメントをしているのを夫が健気に見つけてくる。
 
今後も、父親とは会える可能性は少ないだろう。
 
今はコロナで渡航をするのも簡単ではない。だからこそ、あの時、思い切ってギリシャに飛び込んでよかった。思い出の写真を見る度に、夫の表情は柔らかくなる。
 
後になって聞いた話だが、実は夫の父親は病院に来てくれたのだそうだ。生まれたての自分の息子に会うために。
 
夫の両親の中でどんな話し合いが行われたか分からない。実は父親のことをずっと悪者かのように私は思っていた。だが、片方の側面から見ただけでは分からないこともあるのかもしれない。
 
インターネットの恩恵を受けて、自分を受け入れてくれる親類の存在を知った。何かに突き動かされたように無謀な旅に出た。このことが、間違いなく夫の幸福度を上げた。
 
自分を受け入れてくれる人がいる。
温かいつながりがある。
希望がある。
 
こんな支えがあると、人は前に進んで生きていけるものなのだと思う。
 
両親に育てられた私に夫の気持ちが全部分かるわけではないだろう。でも、私も自分の過去やルーツに良い意味を見つけて生きていきたい。そして、人を許せ、温かく受け入れられる人でありたい、と強く思った。
 
 
 
 
***

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2020-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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