夏のひまわり畑とリーダーのまなざし
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:河村晴美(ライティング・ゼミ平日コース)
「相談にのってあげて。ビシバシ系でいいから」
先日、知人からの連絡があり、ある女性の相談にのることになりました。
休日の午後、花屋さんが併設しているカフェでの待合わせ。
仕立ての良い真っ白のジャケット。女性を強調しない清潔感の絶妙なバランスで鎖骨が見え隠れするカットソー。身にまとう服装と言葉遣いから、品の良さが醸し出されていました。
企業に勤めて15年余り。相談の内容はご本人曰く、責任ある仕事を任されて部下を動かし、やりがいはある。しかし、「自分に自信がもてない」 とのことでした。
昨今のビジネスを取り巻く状況は目まぐるしく変化しています。AIの台頭で知的生産しなければこのままでは仕事を奪われかねない。生産性向上を意識して部下へ成果を求めるとパワハラと言われかねない。先行き不透明の混沌とした状況の中で、部下メンバーへは、確固とした答えを提示できない。そのため、どうしても断言しづらくしまう。
自分はリーダーとして、本当に相応しいのだろうか?
女性活躍のPRのために担ぎ出されたただけで、何の役にも立っていないのではないだろうか?
加えて、これまでにも、コーチングやキャリアカウンセリングなど様々に活用してみたけれど、いまいちしっくりこなかったとのことでした。
女性はこう言いました。
「私は自分を肯定して、自信をもちたいんです」
そこで、私ははっきり言いました。「今のあなたに必要なことは、自己否定です」
大きな瞳が一段と見開いて、3秒ほど時が止まったかのように口が空きっぱなしになりました。
「あなたは、何人ものコーチやカウンセラーから話を聞いてもらい癒されたことと思います。しかし、そのどれもがしっくりこなかった。それが物語っています。あなたは悪くないと言って欲しくて共感して欲しかった。しかし、コーチングセッションの時には共感してもらっても、現実社会に戻ったら元の木阿弥。共感だけでは根本解決はできていないことに、気づいているはずですよね。自分の内面を探しても、求める答えはありません。自分の外側つまり現実社会へ働きかけない限り、いつまでたっても現実は変わりませんよ」
私は華奢なコーヒーカップの取っ手をつまみ、ブラックコーヒーを一口飲んで、カップをソーサーに戻し、再び彼女を見て言いました。
「今のあなたに必要な視点は、自己否定。つまり今の自分を壊して乗り越えていく力です」
キッパリ言ったのは私なりの賭けでした。彼女が怒り出すか、泣き出すか、席を立って帰るか……。
あらゆる展開を想定した上での逆算。
大人の所作として、どうあろうと自分の選択には責任が伴います。どんなに良いアドバイスをしても本人が変わらなければ意味はありません。
冷たいんじゃないかという意見もあるでしょう。
しかし、親身になるとはどういうことなのか? 甘えたいならば、親しい人に聴いてもらい慰めてもらっているはずです。しかし、初対面の私に相談に来たということは、親しい友人とは別の視点を期待しているからでしょう。私は自分の個人的な意見ではなく、彼女が周囲からは得られない視点を提供するために、構造を俯瞰して役割を務めようと考えました。
その視点の背景には、私が幼かった頃の夏の思い出に原点があります。
「ひまわり畑で泣くのは、これっきりにしよう」
幼い頃、夏休みに家族旅行でひまわり畑に行きました。そのひまわり畑は、子ども向けイベントとして迷路の設え。
父と母は、迷路の入り口で私たち兄妹3人へこう言いました。
「出口で待っているから、自分たちだけで行ってごらん」
私達は、元気一杯に駆け出しました。
ひまわり畑の迷路は、おおまかに壁で仕切られて、ルートには背丈以上のひまわり植えてありました。
最初は元気一杯でスタートしたものの、こっちに行ったら壁、あっちに行っても壁、進めども進めども、壁……。
目の前に立ちはだかる壁を前にして、だんだん疲れて、とうとう、妹は泣き出しました。私も半泣き状態。喉も乾いて足も疲れて、なげやりな気分です。
それでも兄が誘導してくれて、なんとか私たちはゴールにたどり着きました。
出口で待っていてくれた両親の顔を見たら、ホッしたのか、嬉しさより不安が解放されて、泣き止んだ妹と前後して、私は母に抱きつき泣きじゃくりました。
ジュースで喉を潤し一息ついたタイミングで、両親が私たち兄妹3人を連れて行った場所は、ひまわり畑迷路を見下ろす、高台の休憩所でした。
実は、両親はその高台から、私たち兄弟の動きを黙って見降ろしていたのでした。
迷っていても正解を教えようと声をかけることなく、妹が泣いていても、母はじっと見ていたのでした。
父は、小学5年生の兄に言い諭しました。
「目の前に壁があったとしても、うろたえることは無い。上から見れば、見通しが立つ。全体把握ができれば、解決の選択肢が広がる。解は、必ずある」
私はこの時に心に刻みました。希望とは、視座を高くし見通すことだ。
単なるポジティブな精神論は、瞬間的に鼓舞するかもしれないが長続きはしない。ものごとの根本解決には精神論ではなく、全体を俯瞰し見通す思考力を身につけることが重要なのだ。
傾聴し共感し癒すことは、壁の前でなぐさめているだけです。
なぐさめることは、壁を乗り越える強さを鍛えているわけではありません。
その場しのぎでなぐさめない。安直にほめない。それらは妥協です。場合によっては、本人が伸びていく芽を摘んでしまっているかもしれないのです。
今目の前にいる相談者の女性が、私に聞きました。
「今、世の中では自己肯定が大切と言われていますよね。なので、私も部下指導で自己肯定を意識して声かけしています。それなのに、あなたは自己否定こそが人を成長させるといわんばかりです。なぜ、そう考えるのですか?」
私は、夏のひまわり畑の思い出の話をしました。
彼女は、うんうんと、頷いていました。
多くの人は「ほめられたい」 と言うけれども、実はそれは真実ではない。
人間はほめられる、「承認欲求」 ではなく、「貢献欲求」 を満たすことで自分の存在価値を実感するのです。なので、相手へ伝えるべきことは、「ほめる」 ではなく感謝を伝えること。
私達は「ありがとう」 と言われることが喜びであり、自分の存在証明となるのです。
「あなたが、自分に自信が持てない今の状態を否定し乗り越えようとする姿勢をそのまま部下へ見せることこそが、誠実さであり部下へ響くのではないでしょうか」
私がそう伝えたとき、彼女の大きな瞳の中に、カフェの店先に咲き誇っているひまわりが鮮やかに映っていました。
***
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