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「ボス猿」の対処法

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記事:しみず あいこ(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
幼稚園のママ達には、色んなタイプの女性がいる。
「無難」に過ごす事を目標にしているタイプ、人間関係を広げて思い切り楽しみたいタイプ、出来るだけ人との関わりを遮断したいタイプ。
そして……自分の王国を作りたい、いわゆる「ボス猿」タイプ。
 
私は、「ボス猿」タイプと出くわしてしまった。
 
今から3年前、長女が幼稚園に入園して間もない事の話である。
 
「ボス猿」との出会いのきっかけは、P T A役員だ。初めてのP T A活動、私はとても緊張していた。学生時代から委員会活動と名の付くものは、面倒臭いと思っていたが「役員をするなら年少のうちに」という噂を耳にして、立候補した。
面倒臭いと思っていたP T A役員だったが、想像していたより楽しいものだった。人との繋がりが出来るからだ。知り合いが誰もいない中での幼稚園生活は、親にとっても不安なものだ。P T A役員という環境は、そんな不安をかき消し、私の居場所を作ってくれた。
 
友人も出来た。
年少に子供を持ち、親も子もお互い初めての幼稚園生活。意気投合するのに時間はかからなかった。
 
友人は、私と正反対の性格だった。彼女は正義感が強く、何事にも一生懸命に取り組む。自分の思った事は誰にでもはっきりと伝える事が出来る。自分の置かれた立場に100%以上の力を出して誠実であろうとする彼女の姿は、「適当に」乗り切ろうと思っていた私の腐敗した心を清めてくれた。
 
あるP T A役員会議での出来事だ。議題のテーマは、今年度のクリスマス会で行う保護者主催の催し物について。
 
年長のベテランママが言った。
「今年も、例年通り保護者で演劇をしましょう。子供達も待っていますからね」
 
友人は言った。
「今は働くママも増えています」
「保護者主催の演劇のあり方を見直してみたらどうでしょうか」
 
その場が凍りついた。
 
ベテランママの眼光の奥から鋭い眼差しが彼女を捉えている。
「ボス猿」が牙を向いた。
 
紆余曲折はあったが、役員会議は滞りなく終わる事ができた。……が、「ボス猿」の怒りはおさまるはずがない。
 
数日後、友人と同じチームの私は「ボス猿」に呼び出される事になる。
「保護者の演劇についてだけど、幼稚園に入って間もないのに何がわかっているの!」
「あなたはどう思うの!」
 
もの凄い剣幕だった。
 
私は、言ってしまった。
 
「私も保護者の演劇は当然やるべき事だと思います」
 
自分を守るため、咄嗟に私は友人を盾にした……。
 
私は、一体何を言っているのだ。私の言葉によって友人の居場所が奪われてしまう。
 
どうしようもない後悔の嵐と、情けなさと、恥ずかしさで、自分が消えたくなった。
これでも、私は親なのか……。
 
後にわかった事だが、この幼稚園の最強の「ボス猿」は自分と異なる意見や、慣例に背いた人に対して激しく非難し、排除していたそうだ。彼女の考え方を浸透させた「ボス猿王国」を作るため、幼稚園に入って間もない新人ママ達に近づいて意見を求めるのが彼女の人脈の作り方だった。
 
そして、その多くが私のように「ボス猿」の貫禄に負け、保身のために「ボス猿王国」の民となるのである。
 
ある記事が目にとまった。記事によると、ボス猿をボス猿にたらしめるのは、本人ではないという。周囲の猿の行動によって「ボス猿」に見えるようになっている、というものだ。体格がよく、いかにも強そうな猿に対して、周りの猿が気を使う。毛繕いや、バナナの献上、おもてなしを心がける。全ては自分の存在を守るため。
 
ベテランママを「ボス猿」に持ち上げたのは、他ならぬ私たち「ボス猿王国」の民なのだろう。「強そうな」存在を目の当たりにした時、反射的に湧いてくるのは、保身の心。保身の心の集まりこそが、まさに「ボス猿」王国なのかもしれない。
 
その後、私は、保身を捨てる事を決めた。
 
他の先輩ママに相談し、自分の犯した罪と友人を守りたい気持ちを伝えた。先輩ママは、力になってくれた。先輩ママが立ち回ってくれたおかげで、「ボス猿」の友人への怒りは収まった。
 
私も、「ボス猿」王国に縛られていた心を解放する事ができた。
 
きっと、誰しも自分が可愛いに違いない。トラブルに出くわした時、咄嗟に自分を守る行動をとってしまう。それは、それで正しい。生きていく上での知恵のようなものでもある。
 
でも、保身の心で身を固めた時、私のように苦しくなることも時にはあるだろう。
そんな時は、心の本音を「誰か」に聞いてもらうといい。
その、「誰か」が力になってくれるかどうかは分からないけれど、自分自身を縛っていた「ボス猿王国」から、心は自由になれるはずだ。
 
「ボス猿」は、存在しない。
 
心の中にあるただの「保身」こそが、「ボス猿」の正体なのだから。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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