私の居場所
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記事:山田章人(ライティング・ゼミ平日コース)
あなたは自分の家の中に居場所はありますか?
私の実家は、戦前の家で未だに現役で、そこを母が一人で守ってくれている。
実家に帰ると、必ず座る場所がある。
その場所に、座れるようになって40年近くになる。
それまでその場所は、父の座る場所であった。
祖父がなくなり、祖父が座っていた場所に父が座るようになり、晴れて父の居場所に座れるようになったわけだ。
戦前の家であるため、造りは民家風であり、台所、居間、の他2部屋が襖で仕切られただけのある意味開放的で風通しがよく、見晴らしも良い間取り、別の意味ではプライバシーなど皆無の間取りになっている。
祖父が座っていた部屋は、家族が食事をとる部屋でもあり、テレビも見る部屋でもあり、この家の中心で、間取り的にも中心にある。
そして、祖父の座っていた場所はその中でも中心で、台所も見ることができ、テレビももちろん正面にあり、和室なので小さい床の間もあり、祖父の時代は水屋も置いてあった。
まさに、この家の司令室のような席なのである。
一緒に住んでいた訳ではないので、帰省先となるわけだが、私が幼い頃の思い出として、寡黙でどっしりとした祖父はほぼ一日その場所に座っていたような気がする。
朝は新聞を机に開きじっくり読んでいた、うたた寝もし、夕方になると台所で祖母が炊事する姿を目にしながら、そこから漂う晩御飯のいい匂いも一緒に、好きであった相撲をテレビでその席から楽しんでいた。
座っていた座椅子は、すっかりお尻のカタチが分かるほどだったし、周りには動かなくても全てが間に合うように配置されていた。
老眼鏡、爪切り、孫の手、ちり紙、ゴミ箱。
そこは100%祖父の居場所で、他の誰もが座っているのをみたことがない。
その祖父は、私が中学生の頃他界した。
喘息持ちであったため、肺炎を起こしてしまったのだ。
祖父がその場所で、喘息の吸引の薬をいつも吸っていたのも思い出の一つである。
その後、私の家族もその家に住むことになり、と同時に祖父の居場所に父が座ることになった。
周りの配置は少し模様替えされ、動かなくても手に取れるものも、父のものに入れ替わったのである。
この頃私は家を出ていたので、その場所の思い出としては幼い頃の記憶としてどうしても祖父の姿のほうが色濃くあるが、その後は父の居場所となっていた。
また、その家に戻るまでは、借家、賃貸に住んでいたので、どうしても借り物の場所という感覚は子供ながらに思っていたが、祖父がいた場所は紛れもなく祖父の居場所であり父の居場所であった。
私は今、家をつくる仕事をしている。
一軒一軒全く違う、注文住宅の設計をしている。
いつの間にか意識しているのは、祖父の居場所であったあのような場所をつくることである。
時代的に家長という存在は薄くなってしまったのでカタチは変わるが、住まい手の家族それぞれがそれぞれの居場所を意識して間取りを考えている。
最近は、意識しないとそのような場所はつくりにくい。
それも、勝手に作るのではなく、お互い話をして居場所を作ってあげられるといいと思う。
家の広さの問題ではなく、意識の問題だと思っている。
何も一部屋を別に作るというのではなく、場所を作るだけでも特別なものになる。
階段の下に、照明と椅子だけでも居場所になる。
あるお施主さんは、私の祖父の居場所と同じように家中が見渡せる場所がほしいと言われた。
でも、中心ではなく端っこに欲しいと。
一人になるのは寂しいからと。
人それぞれ、好みの居場所は違うと思うが、居場所がある家と居場所がない家では帰りたくなる家はどちらだろうか?
居場所があると、そこにいる時間はそれぞれの時間を大事にしてあげるという空気を作ることも必要だが、それが家長の役割なのか、今は話し合いなのかはご家族に任せるが、そんな努力も家づくりの一環だと考えている。
家をつくる側としては、やはり早く帰りたくなる家をつくりたいのである。
さて、家の中の居場所に人一倍思い入れのある私の居場所だが、祖父の居場所であり、父の居場所であったその場所。
残念ながら父も持病があり、祖父と同じ年で亡くなった。
つまり、祖父と父が居たその場所は晴れて私の居場所になったか?
実は今は、義理の弟と甥っ子の座る場所になっている。
私は、その場所の隣に長年座っていたため、そこほうが居心地が良いのだ。
ここが私の居場所である。
意識しない場合、良い居場所を手に入れるには長い歳月が必要なのだろう。
***
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