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『笑っていいとも!』の最終回を録画してるけど、まだ見ていない理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:宮崎桃子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
『笑っていいとも』の最終回を録画している。
2014年3月31日に放送されたそれを、私はまだ見ることができない。
正確に言うなら、わざと見ていない。
 
なぜか?
見ると永遠に終わってしまうからだ。
 
高校の同級生のT子は、当時、役者の中村敦夫の大ファンだった。彼女は、中村敦夫の演じるテレビドラマの時代劇『木枯し紋次郎』が大好きだった。
よく知らない人のために少しだけ解説しておくと、中村敦夫は昭和を代表する大スターで1940年生まれ。政治家としての一面もある。
T子と私が高校生だったときは、ちょうど60歳くらいだった。父親よりも上の世代だ。女子高生が好きになる対象としては渋い。渋すぎる。
でも、誰かに恋い焦がれる姿というのは、見ているこちらをなんだか幸せな気持ちにさせてしまうものだ。
 
そんなある日、両親のはからいで、T子は中村敦夫さんのファンイベントに参加することになる。
リアル中村敦夫である。動く中村敦夫である。中村敦夫と同じ場所で呼吸ができて、手を伸ばせばさわれてしまう距離。
彼女の興奮する姿はかわいらしかった。
 
しかし当日、イベントが終わった後にレストランで家族と食事をしながら、T子はふさぎ込み、泣き出したという。
 
両親「あなたのために行ったのに、何なの、その態度は」
T子「女に囲まれてニヤつく中村敦夫なんて見たくなかった!」
両親「はあ?」
T子「わたしの好きな中村敦夫はあそこにはいない!」
両親「はあ?」
T子「行かなきゃよかった!」
両親「……もう勝手にしろ!」
 
というやり取りがあったらしい。
たしかに両親からしたら「はあ?」である。私はこれ以上の、良かれと思ってやったのに事案を他に知らない。ご両親の思いやりが成仏するよう、願うばかりだった。
 
どうやら彼女の中で、理想の中村敦夫像みたいのが完成されていて、ファンサービスに励む中村敦夫は、T子にとって何かが違ったのだろう。
 
そうじゃないだろうと。
中村敦夫はニヤつかないだろうと。
いつだってクールに決めるだろうと。
でも現実は違った。
めっちゃニヤついてた。
 
T子の気持ち、私はよくわかる。
この瞬間すごく近くにいるのに、今までよりも遠くにいってしまったような感覚。
会いたかったのに、会いたくなかったみたいな複雑な想い。
まるでJ-POPの歌詞である。
 
そして私は録画したドラマの最終回をなかなか見ることができない。普通は楽しみで楽しみですぐに見る人のほうが多いだろう。
でも私はいつも思う。
見たら、終わっちゃうじゃん。
 
『おっさんずラブ』もそうだった。
最終回を見るのに、自分を焦らしまくった。最終回以外をもう1回見たりした。
ネットで関係者インタビューとか、制作の裏側とか、いろんな記事が落ちていたが、読むのが怖かった。
出演者のインタビューも極力読みたくない。演じていたときの気持ちとか、役作りとか、知らせないでほしい。プライベートでは……みたいなトークも一切不要。
そんな秘話なんかいらない。作品とだけ対峙していたい。
うろ覚えなのだが、むかし、何かの番組で漫画家の浦沢直樹さんが、連載中の漫画に対して読者から「この主人公はこんなこと言わないはずだ!」という抗議がきたらしい。
この読者の気持ち、少しわかる。
 
そして『笑っていいとも!』の最終回はまだ見ていない。
幼い頃からずっとやってた番組。見たら、本当に終わっちゃうじゃんという思いがあった。
時々SNSなどで「笑っていいともの最終回の○○と●●の共演は奇跡だったよな〜」みたいなコメントを読むたび、
「ふふふ。私には、まだ『笑っていいとも!』の最終回を楽しむ権利が残っている!」
という、なぜか優越感を覚えている。
まだ見ていないことの優越感。
まだこれから楽しめるという権利。
 
今の時代、欲しいものは基本的に何だって手に入る。どうしても欲しいアイテムを、足で探し回ることもあまりない。知りたい情報も粗方手に入る。
リアルとかコミュニティとかが叫ばれるし、
有名人とも、SNSで簡単にコミュニケーションできてしまうし、
会いに行こうと思えば、会いに行ける。
でも近寄ったことで、知らなきゃよかった現実もある。
 
なんでも手に入ってしまうからこそ、本当の憧れは憧れのままにしておきたい。
「知らない=好きじゃない」というわけではなく、本当に好きなものに、あえて近づかない人もいる。
 
エネルギッシュなファンはもちろん尊い。でも、引っ込み思案でろうそくのか細い火をずっと守るような、そんな「好き」もあることを忘れないでほしい。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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