フライヤーは遊園地からの招待状だった
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:晶(ライティング・ゼミ特講)
初めて舞台演劇を観に行ったのは、専門学校生の時。下北沢にある本多劇場だった。大好きな小説が原作の舞台。「これは見に行きたい!」と思い、ひとりで観劇に行くことを決めた。
ネットでチケットを予約して、電車の時刻と劇場の場所を調べた。
少し道に迷いながらもたどり着いた劇場は思っていたよりもこじんまりした雰囲気だった。
初めての観劇に緊張しつつ、おとなしく席で開演を待つ。幕が上がってからは楽しくて、目の前に広がる世界に飲み込まれてよく笑ったのを覚えている。
次に舞台演劇を観に行ったのは、それから何年か後のこと。
人気のあるスポーツ漫画が原作の、いわゆる“2.5次元”と呼ばれる舞台。
気になりつつも観にいくほどでもないかなと思っていたのだが、友達が「近くの映画館でやるライブビューイングのチケットが取れたから行かない?」と誘ってくれた。
プロジェクションマッピングを使用したかっこいい演出や、イケメン役者さんたちが原作のシーンを再現している。広い舞台をめいっぱい使うものだから、あっちもこっちも見たいといった具合になって、いい意味でとても疲れて楽しかった。興奮した。
「舞台を観るの、楽しい!」
目の前で繰り広げられる非日常の世界にまんまとあてられた私は、それからというもの、2.5次元の舞台を何度か見に行くようになった。
転機となったのは1枚のフライヤー。
舞台を見に行くとフライヤーの束が置いてあったり渡されたりする。その劇場で今後行われる公演や、出演している役者さんが次に出演する公演のフライヤーなどだ。
目に留まったのは、その日観に行った舞台に出演している役者さんが主宰している劇団のもの。いままで小説や漫画が原作の舞台しか見たことがなかったが、その劇団はオリジナルの物語をやっていた。
「もしもあなたが幼い頃、物語を読んで想像するのが好きな子供だったのなら絶対に、この場所を訪れたほうがいい」
その文字に惹かれつつもなかなか予定が合わず、実際にその劇団を観に行ったのは劇団のことを知ってから半年ほど経った時。川崎にあるホールで行われる公演で、あの日見たフライヤーに書かれていた演目とは違うもの。
驚いたのは、その近さだった。客席と舞台の距離は1メートルもない。目の前を駆け抜けていく役者さん。額の汗が見える。照明の熱さ。緊迫したシーンにつられて自分の体にも力が入る。自分もその世界に入り込んだような錯覚。約2時間の公演はあっという間に過ぎていった。
さらに驚いたのは、終演後。さっきまで目の前でお芝居をしていた役者さんたちが劇場のロビーでお客さんと談笑していた。
その光景を横目で見つつ、ふらふらと帰ろうとした時。偶然目が合った人に話しかけられた。
「楽しかった?」
話しかけてきたのはその劇団の主宰の人。
顔見知りでもないのに、普通に話しかけられたことにびっくりした。話した内容は覚えていない。けれど、余韻でふわふわした頭で、目の前で繰り広げられた物語のことを考えて帰ったのは覚えている。
その劇団の川崎での公演はあと数日しかなかった。数日後には舞台は片付けられて、普通のホールに戻る。同じ演目を今後も同じようにやるとは限らない。映像として残らないかもしれない。ほかの人に観てもらうこともできない。終わってしまったら、もう観ることはできない。舞台は、この日この時間にしか存在しないものだと思った。
それから舞台演劇を意識して観に行くようになった。
舞台を観に行ったらフライヤーをチェックする。そこから知っている役者さんが出演している舞台や、フライヤーやあらすじを見て気になった舞台、自分が好きそうだなと思う舞台など、観に行きたいと思った舞台はなるべく観に行くようにした。この機会を逃したら、もう二度と観られないかもしれないから。
展示などで使われるギャラリーでやる小さい公演。薄暗闇のなかで光や影の表現を使う公演。1時間近くを一人で演じるひとり芝居。即興でお芝居を披露するもの。短編を何本もやるオムニバス形式の公演。生バンドの演奏や、激しいダンス、殺陣、ミュージカル形式のもの……。
さまざまな表現や演出は、アトラクションに乗っているような感覚にも似ている。
私は、舞台演劇を見に行くことは遊園地に行くようなものだと思っている。電車に乗って会場まで行き、開演までワクワクして過ごす。幕が上がれば、そこには音や光や言葉、映像、人の動き、緊張感、笑い……さまざまなアトラクションが詰まっている。アトラクションを楽しんだら、余韻に浸りつつ帰路につく。誰かと一緒に観に行ったときには、それぞれの感想を言い合ったりする。
今日もどこかで公演は行われている。座席にはフライヤーの束。
「次はぜひこちらにいらしてください」と言われているみたいだ。
たくさんあるフライヤーを一枚ずつめくりながら「次は何を観に行こう」なんてことを考える。
***
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