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私だからできる、薬剤師の服薬指導―私のターニングポイント―


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:三谷 智子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
私は病院で働く薬剤師だ。私がしている主な仕事は、入院している患者さんへ薬の説明をすること。今年の6月から、入院してくる大部分の患者さんが、がんの薬物治療目的で来る病棟を担当している。
担当する病棟を上司から指示されたとき、身が引き締まる思いだった。がんと一口に言っても、原因となっている部位や進行度合いにより、実施される治療は異なってくる。どの薬をどのくらい、どれだけの期間使用するかによって、効果も副作用も異なってくる。背景を理解した上で、患者さんへ薬の説明をしていく必要がある。自分の今まで培ってきた知識や専門性が問われる病棟だと思った。
 
着任した当初は、自分の知識の無さを痛感する日々だった。病気の仕組みが分からなければ、なぜ医師が患者さんへ提示した薬物療法を選択したのか分からない。医師ほどの知識は要らずとも、ある程度理解している必要が薬剤師の私にだってあった。私は満足のいく薬の理解までたどり着いていなかった。
7月になると、少しパターンがつかめてきた。勉強した症例と似通った患者さんも、ぽつぽつ現れてきた。焦る気持ちが治まり、少し余裕を持てた。余裕を持ったことで、はたと気づいた。患者さんには、医師から薬のことも十分に説明されている。私の説明は、医師がした説明をなぞっているに過ぎない。看護師からも薬によって起こる副作用が患者さんへされていた。むしろ生活に根付いた副作用の現れ方や対処法を看護師の目線から指導していた。
 
薬剤師の私が、患者さんへ薬の説明をする必要があるだろうか。私の自己満足の薬説明ではなく、患者さんの役に立つ仕事をしたいのだ。でも現状では、私の役目が分からなくなった。
 
薬剤師っている?
私の役割ってなんだろう。
漠然とした問いが浮かんだ。私が役割を果たすためには、どうすればいいのだろう。
すぐに答えは見つからない。思うように仕事が上手く運ばず、充実感も得られない。
なーにやってんだか。自分の心の中でつぶやいていた。徒労感を味わう日々だった。
 
私だからできることって、何だろう。隙間産業みたいな感じで、まだ手付かずな仕事はないかな。自分の得意とする薬と絡めて、独自性が出せるようなものはないか。日々の仕事の中でヒントを探していた。まずは、患者さんをよく診ることにした。
 
病気の深刻さゆえか、心を閉ざしていく患者さんも多い。言葉数が減る人。「もういいよ」とばかりに、会話を切り上げようとする人。無反応の人。コミュニケーションの糸口がつかめなくなる。患者さん自身も陽気に話せるものなら、話したいはずだ。体調が思わしくなく、話す元気がない。自分へ突然降りかかった現実が、あまりに厳しくて言葉にならない。患者さんそれぞれの事情があって、コミュニケーションから遠ざかっているのではないか。
 
私は母を病気で亡くした。母の看病中も、母の死後も、やるせないほどのたくさんの感情を味わいつくした。ネガティブオンパレードの感情で、過去は泣き叫ぶしか表現方法が分からなかった。初めての感情ばかりで自分でも持て余し、言葉にならなかったのだ。
母の死から数年経ち、過去の色んな出来事をそれぞれ言葉で表現できる、説明できるようになった。
私が味わい、今となっては言葉にできている経験が生かせるのではないかと思った。
 
薬の副作用を説明していくことで、どんどん患者さんの表情が暗くなる。聞き流している。質問が溢れてきて、次の説明に進めなくなる。患者さんによって反応は異なるが、根っこの感情は恐怖だと思う。自分事だと思いたくない、目を逸らしたいなど、感情があるからこそ反応が返ってきている。私自身が滞りなく説明することを優先するのではなく、患者さんに寄り添おうと思った。
 
「いっぺんに沢山説明したとて、覚えきれないですよね」
「得体の知れないものって感じがして、どうしたらいいか分からないですよね」
「ぞっとしますよね」
薬剤師という立場は一旦置いといて、私個人の感想を伝える。
過去の私は、医療が正しいことは十分に分かっているが、辛い状況の中では受け止めきれなかった。受け止めきれなくたっていい。辛いときほど、その時点の自分をそのまま全受容して欲しくてたまらないのだ。「分かってもらえた」と一瞬でも感じることができると、心が緩む。その結果、冷静になることも、癒されることも、ちょっと頑張ってみようかなという活力も生まれた。
 
患者さん目線になり過ぎて、医療の正しさをほっぽり出したような指導内容をするのも、私がしたい仕事ではない。医療の正しさってすごいことを、私は薬を通して、患者さんへ伝えたいと思っている。
 
始まったばかりで、今もなお手探りでしている。ただ、以前と異なって、患者さん自身が奥に抱えてた気持ちを、ひょっこり表してくる場面も増えてきた。
「吐き気がしんどい。でもこんなん、みんなある副作用やろ。我慢しようとしていた」
抱えていた思いを聞くことが出来て良かった。役に立った。私の心が緩む瞬間だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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