一見、東映のヤクザ映画俳優みたいな、発達障害のコースケから教わること。
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記事:瀬戸際極聴(ライティング・ゼミ平日コース)
「発達障害」
この言葉は、よく知られ、気楽に用いられるようになった。
正しくは
会社に行けなくなった人にお医者さんが「発達障害」と診断をするような時の言葉だが、
こんな風にも使われているのを耳にすることがある。
電車に乗っている高校生の会話「彼女って、発達障害だよねぇ」
おそらく自分たちのグループで浮いている存在なのだろう。
私はこの言葉を聞くと複雑な気持ちになる。
私には、自閉症の従兄弟がいる。
いわゆる「発達障害」だ。
名前は「コースケ」
3歳ぐらいで、病名がはっきりした。
普通の学校には行けなくて、特殊学級で育った。
受け入れてくれる学校探しに、叔母が苦労していた様子を子供心に覚えている。
今、コースケは48歳。
身長183センチ。体重110キロ。
顔は、東映のヤクザ映画に出てくる、小林旭みたいだ。
とにかく見た目が怖い。
例えば、彼が電車に乗るとする。
その巨体で、小刻みに身体を震わせ、何かを唱えるかのようにブツブツと喋り出し、
時に大きな声で叫ぶ。
そんなコースケになると、車内の人々に緊張が走る。
我が子をかばうように、コースケとの間に立つお父さん、お母さん。
無理もない。
110キロの東映ヤクザ映画ですから。
でも、叫ぶコースケの言葉を、ちゃんと聞いてみて欲しい。
「白いご飯食べてもいい?」
「ポテトチップ、あと一袋食べちゃダメだよね?」
以前、コースケと2人で、山奥を車で走行中、深い霧が出て、道に迷ったことがある。
気持ちの悪い場所で、泣きたくなった。
「こんなところで、変な人が来て、襲われたらどうしよう」
緊張する私。
そのとき、コースケが発した言葉は、
「鼻をかんだ紙を、食べたらダメなんだよね。ダメ! って言ってー!」
そう叫んだ後、
鼻をグビグビ鳴らしながら、陽気に笑う彼。
そうだった。
コースケがこの世で怖いものは、オバケと犬。
体重3キロにも満たないトイプードルが来ただけで逃げる。
暗い夜道で、「人」が怖いと思っていた私のような感情は、彼にはない。
コースケが最高にいい味を出した「おじいちゃんのお葬式」
25年前のことだ。
祖父はいつも優しくて、面白くて、コースケも私も大好きだった。
お葬式はとても盛大だった。すでに引退はしていたものの、
かつては、大学の人気教授だったので、教え子たちが沢山来てくれた。
すすり泣く声が会場に響く。
祖父の娘である私の母も、叔母も、親族みんなが目を腫らしていた。
コースケは困惑していた。
なぜ、皆んなが黒い服を着ているのか分からない。
なぜ、皆んなが泣いているのか分からない……。
「おじいちゃんは、もう死んじゃったんだよ」
「コースケが大好きだったおじいちゃんには、もう会えないの」
皆んなに説明され、不可解な顔をするコースケ。
会場にアナウンスが流れ、お葬式が始まる。
お坊さんが登場した。
厳かな雰囲気で、祭壇の前にたどり着き、我々に頭を下げた。
その時、コースケが叫んだ。
「あの人は、新しいおじいちゃん? 新しいおじいちゃんなの?」
響くその声に、慌てる叔母。
泣きながら、コースケの口を押さえる。
会場にそれまで聞こえていたすすり泣きが少し小さくなった。
お坊さんは、聞こえなかったかのように、読経に入る。
読経中、再びすすり泣く人々の声。
その時、またしてもコースケの声が響いた。
「お坊さんって、江戸時代の人?」
小さく悲鳴のような声をあげ、コースケの口を押さえる叔母。
それまで泣いていた叔母の泣き声は、明らかに変化していた。
「江戸時代の人は、フンドシしている?」
「お坊さんは、フンドシなの?」
矢継ぎ早に出されるコースケの疑問。
叔母は、コースケのひざを叩く。
背中が小刻みに震えている。
もはや、泣いているのではない。
叔母の引きつけたような声が、会場に響き出した。
私自身も笑いをごまかすのに必死で、
周りを見る余裕はなかったけれど、
きっと、相当大勢の人が、異様な泣き方をしていたと思う。
肩を震わせながら……。
楽しいことが大好きだった祖父のお葬式の思い出は、
コースケのおかげで、幸せなものになった。
ある時、叔母は言っていた。
「コースケは、皆んなが持っているものを、持っていない。
でも、皆んなが持っていないものを、持っている」
そうなのだ。
コースケは、純粋で無垢。
今だけを生きていて、
そして、誰とも自分を比べない。
とても素敵なのだ。
少なくとも、コースケは自分を発達障害だとは思っていないだろう。
人と比べて何が出来ない、
人と違うから恥ずかしい……、
そんな世の中で自分の行く先々に「障害物」を置いているのは、
「発達障害」と名指しされる人達ではない。
コースケを見ていると、
私は彼よりも多くの障害を持っている。
「発達障害」という言葉を聞くと
そんな気持ちになるのだ。
***
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