fbpx
メディアグランプリ

洗脳されて生きている

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:庄司 あきこ(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
子育ては洗脳だ。
幼いころから、繰り返し親から聞かされる言葉が、想いが、子どもの思考を作り上げていく。
 
「バカッ……」
 
幼いころ、母がよくつぶやいていた言葉だ。料理をしていても、洗い物をしているときも、お風呂に入っているときも、鏡を見ていても、小声でつぶやいている。
 
「ごめんなさい」
 
幼い私は、謝ってみるのだけど、その度に
「自分に言っているのよ」
と母は言った。
 
でも、「きっと私がダメな子だからそう言うのだ」と感じてしまうのが子どもだ。
 
私は、祖父母や父、親戚から、
「○○じゃなきゃ、うちの子じゃない」
「○○できなきゃ、うちの子じゃない」
と、言われることが多かった。
 
そして、その合格ラインを越えることができなかったとき、その責任は全て母に負わされる。
 
母は、いつも戦っていた。祖父母と。父と。そして、自分と。幼いわが子と、自分自身を守る闘い。
 
毎日、闘いに疲れて、ため息の代わりに
 
「バカ」
 
とつぶやいていたのだ。
 
私が中学生になるころには、母の言う「バカ」は、私に向けられた言葉ではないと理解できるようになっていた。それでも、「バカ」と言わずにいられない原因は、私にあると思っていた。
 
私の中には、たくさんの「バカ」が詰まっていた。おかげでとても自罰的な思考回路ができあがった。マイナスな出来事の原因は、全て自分にあるとすら思っていた。逆に言うと、全てのことは、自分の努力でどうにかできるものだと思い上がっていたのかもしれない。
 
祖父母が他界し、私も成長するにつれて、母の「バカ」は吐き出されなくなった。
 
少し大人になって一人暮らしをするようになったわたしは、ある日、ため息と共に
 
「バカ」
 
とつぶやいていたことに、気がついた。
 
幼い頃、自分は絶対に言うまいと思っていたはずなのに。無意識って怖い。きっとあの時の母と同じ表情をしていたことだろう。
 
自分が無意識につぶやいたことで、気がついたことがある。「バカ」は、確かに自分に向けられて発せられた言葉だと言うことだ。ふがいない自分に。現状を変える力が無い自分に。理想と、現実のギャップが大きいことを、他人のせいにしてしまいたい自分に。
 
こんな自分は嫌だと思った私は、身体の中に詰まっている「バカ」を全部取り出してみることにした。取り出してみたら、私は空っぽだった。透明人間になった気がした。とても心細かった。「バカ」という免罪符を失って、ただの「努力してこなかった人」だけが残った。
 
母は、自身に対して「バカ」という言葉をぶつけながら、それでも必死で私が歩くレールを引いてくれていた。
 
祖父母も、父も、一人っ子の私が「なりたい自分」になれるよう、導いてくれていたらしい。
 
私は、そんなレールに気がつかずに、自分で道を見つけて歩いていると思っていた。とてもふがいなくて、情けなくて、恥ずかしい発見だった。ショックが大きすぎて、やけ食いしたら、10キロくらい太ってびっくりした。
 
ちっぽけで、恥ずかしい自分に気がついて、ついでに体重も増えて両親には心配されたけれど、その分、家族での会話が格段に増えた。
会話が増えて、わかったことが二つある。
 
一つは、父も、母も祖父母も、自分が育てられてきたとおりに私に接していたらしいこと。
 
「お父さんが子どもの頃なんて、もっと大変だったんだ」
と、父が教えてくれた子どもの頃に祖父母から言われて育った言葉は、私がかけられてきた言葉とほぼ同じだった。
父も、「○○ができない自分はダメなやつ」という思考がすり込まれていた。
 
「お母さんは、自分の子どもには、こんなこと絶対にしないぞと思った」
と、母が教えてくれた、子どもの頃のエピソードが、デジャブのようだった。
そして、母もまた、とても自罰的な人だ。
 
親戚の話を聞くと、どうやら祖父母も、そのまた親から似たような感じで育てられてきているようだ。
 
皆、自分が育ってきた環境しか知らないから、「子育ての見本」は自分の育った家庭だ。
 
そして、わかったことの二つ目は、どうやら本人には、「自分が育てられてきたとおりに、我が子に接している」という自覚はないらしいということだ。
 
まったくの無意識に、自分の親と同じような子育てを繰り返している。無意識に発動してしまうくらい、心と身体と記憶にすり込まれている。
 
この二つのことがわかってくると、祖父母も、両親も、自分自身の事もなんだか面白く感じてしまう。まったく自分の意思で生きているようでも、無意識にたくさんの影響を受けて行動している。
 
そうそう。最近気がついて、愕然としたことがある。
 
結婚して2年経った今、夫と私の会話が、なんだかどこかで見たパターンなのだ。
 
そう。これは、実家での両親の会話のパターンだ。
 
父と似たタイプの人を夫に選んだつもりは全くない。でも、なんだか似てきた。これは、実は父と似たタイプの人を選んでしまったからなのか、私が母に似てきたのか、夫の実家も似ているのか。それとも遺伝か。
自分でも気がつかないうちに、言動パターンや、思考回路が似てくるって、時間をかけてすり込まれた洗脳だと思うのだ。遺伝よりも、洗脳だと思った方が、自分で変える余地があって嬉しいし。
 
ちなみに最近、母に
「昔、バカが口癖だったよね」
と尋ねたら、まったく覚えていなかった。
 
そんなものだ。きっと母の「自分を責めすぎる」洗脳は解けたのだろう。
 
私にも、これから先、「バカ」とつぶやきながら家事をする日がやってくるのだろうか。
 
一つだけ言えることは、私の夫は、母の夫よりもずっと穏やかで優しい。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-08-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事