メディアグランプリ

囚人だった私が自由を手に入れたわけ


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記事:ワタナベアツコ(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
「いやぁぁぁぁぁーーー! お母さん! やめてぇぇぇぇー、やだぁぁぁぁぁ!」
娘の泣き叫ぶ声が響いた。
近所の人はどう思う? 虐待?
それでも、腕にグッと力を入れて、娘をベランダに押し出した。
何度も注意した。何度も、ダメ、やめてと伝えた。それでも、繰り返す。挙げ句の果てに、ふざけて人を馬鹿にした。頭に血が上った。15キロを超えたばかりの体を引っ張り、ベランダへと連れ出す。娘は一人外に出されるのが嫌いだ。ダメなことをすると嫌なことがある、ダメなことはダメだと分からせなければ。部屋に戻ろうとする娘。戻らせまいとする私。築40年の古いマンションのベランダはもう長い間掃除できていない。排水口には苔が生え、黒く変色していた。何度このベランダに出せば娘は言うことを聞くようになるの?どうして何度言っても分からないの? 薄汚いベランダを背に泣き喚く娘を睨みつけた。
 
晩婚の私たち夫婦にはなかなか子供ができなかった。私は子供が欲しくて仕方がなかった。いろんな病院に行って、いろんな検査をして、やっと授かった赤ちゃんだった。
あんなにほしかった赤ちゃんだったのに、始まってみると、子育ては地獄だった。
赤ちゃんは寝ない。少しのミルクを飲んで、少し休んで、そして、頭に響く大声で泣く。「お母さんって自然と赤ちゃんが泣いている理由が分かるのよ」なんて言う人がいたけれど、全然分からない。「少しは、お母さんも息抜きしなきゃね」と言われてもどこで息を抜いたらいいか分からない。ご飯を食べる時間もトイレに行く時間すらない。そして夜は3時間おきに起きる。ひどい時は1時間おき。寝られない。拷問だ。自由な時間は一切なくなった。私は、囚人になった。
 
「それでも、まぁ、可愛いんだけどね」
ママ友たちと子育ての愚痴を話した後、皆口々にこう言って微笑んだ。
「そうだね」
と頷いたけれど、本当は、「それでも可愛い」なんて思えたことはあまりなかった。
もちろん、とても大事な存在ではあったけど、早く大きくなって、早く独り立ちしてほしかった。早く、私の自由を取り戻したい、と毎日毎日思っていた。
 
イヤイヤが増える“魔の2歳児”、“悪魔の3歳児”を経て、聞き分けの良い“天使の4歳児”になると聞いていた。それなのに、うちの娘ときたら4歳になったって、口が達者になっただけ。天使の片鱗も見られなかった。なんで、うちの子は、ずっと不機嫌なんだろう。なんで、こんなに、かわいくないの?
 
amazonのおすすめの本で、『世界に通用する子どもの育て方』(松村亜里・著)という本を目にしたのは、娘が4歳になって半年ほど経った頃だった。本のタイトルにはあまり惹かれなかった。でも、レビューが良かった。そう期待はせずに、購入ボタンを押した。
 
翌々日、届いた本を、私は半日余りで一気に読んだ。
罰を与えたら子どもはどうなるのか。逆に褒美を与えたら?
心理学の研究・実験結果、脳の発達をわかりやすく紹介しながら、様々な角度からエビデンスに基づいた子どもとの関わり方を提案していた。本は全体を通して、子どもへの優しさであふれていた。全てが、私が今、対峙している子供への関わり方とは逆だった。
 
私は試しに、本に書いてあることの一つを実践してみることにした。
「共感」だ。
まずは、娘の言うことを、すぐに否定するのをやめてみよう。第一声は、共感して、寄り添う言葉。それからなぜダメかを説明してみた。すると、どうだ。いつもはすぐ言い返す娘が「はーい」とすんなり受けいれた。
え? こんなに簡単なことで? 今まで、怒鳴り合って、格闘していた時間は何だったのだろう。
 
思えば、私も怒鳴られて、外に出されて、育てられてきた。「甘やかしたら子供がダメになる。ダメなことはダメだと教えてやるのが子どものためだ」と思っていた。自分なりに、一生懸命子どものことを考え、子育てしていると思っていた。でも、違った。全部“私の”都合。自分本位だった。
 
「本当はもっと遊びたかったよね。話聞いてくれて、ありがとう」
娘に声をかけると、はにかみながら笑い、腰に抱きついてきた。
かわいかった。
もっとこの子の笑っている顔がみたい、と思った。この子が気兼ねなく笑う姿をもっともっと見てみたい。
 
それから、私は少しずつ、子供との関わり方を変えていった。長い間に身につけた習慣は一瞬で変わることはなかった。けれど、本を繰り返し読み、著者の講座やワークショップに足を運美、仲間と語った。新しい子どもとの関わり方は、確実に、私たち親子の関係性を変えていった。
 
あれから1年。娘は不機嫌な顔をすることが減った。そして、たくさん、私に触れてくるようになった。私ももう娘をベランダに連れ出さない。ベランダでは、問題は解決しないことが分かったからだ。私は娘と一緒に子どもみたいにふざけ合い、ゲラゲラ笑い、そしていっぱい抱き合うようになった。
ずっと娘は不機嫌な子だと思っていた。でも、きっと、ずっと不機嫌だったのは、私。いつもイライラしていたのは私。子どもは、私にとって、自由を奪う存在だった。自分らしくいられる、自分だけの時間を取り戻したかった。
でも、娘との関係性が変わった今、子どもと一緒だって、私は、私らしく笑えるようになった。
囚われた囚人だった私は、自分を変え、心の自由を手に入れた。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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