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セミナー中に「伸びた冷やし中華」の出前が届きました


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:濱守栄子(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
「お昼食べるのが?」
 
お盆で帰省中の私に父が言った。
 
父は岩手の実家で一人暮らしをしている。母は25年前に病気で他界し、姉は車で1時間半かかる場所に嫁いでいる。私が婿を取って一緒に住んで欲しいというのが彼の本音だろうけど、そんな私は42歳にもなるのに、未だ音楽の夢を捨てきれずに、東京で一人暮らしをしている。
 
誰が言い出したわけではないが、この時期には必ず家族で実家に集まるようになっている。私の家族に限ったことではないとは思うが、親戚中が集まるビッグイベントなのだ。お墓参りをしたり、バーベキューをしたり、花火をしたり。普段ゆっくり顔を合わせる機会も少ないため、昔話に花が咲き、毎年何故か異常に盛り上がる。せっかく家族が揃っているので、今年もできるだけ家族との時間を優先したい。それが本心ではあった。
 
しかし、今年は少し違う。困ったことに、受けたいセミナーがこの期間内にバッティングしているのだ。そのセミナーは、午前10時から13時にかけての講義だけでなく、毎日23時59分までに課題を提出しなければならない「スパルタ」のゼミ。とても家族との時間を優先できるような状況ではないのだ。
 
この条件でセミナーを受けるべきか、正直とても悩んだ。実はこのセミナーは日曜コースもあり、通常は4か月かけて卒業するプログラムになっている。しかし今回私が狙っていた夏期集中コースは、5日間でそれを全て学ぶというハードコースなのだ。
 
悩んだ私は、このセミナーの主催者に意を決して電話をした。電話口に出たのは、まだ20代と思われる女性。私はまるで、裁判官が尋問するかのように根掘り葉掘り質問をした。質問しておきながら「こんなこと言われても困るだろうな……」と客観的に思う自分もいたが、時すでに遅かった。
 
しかし電話口の女性は、私のくだらないとも思える尋問に対して何一つ嫌な顔せず(実際顔は見えないけど)優しく丁寧に一つずつ返答してくれた。やはり私のような「前のめりな性格」には、4か月じっくりコースよりも、短期集中コースの方が合っているようだった。
たった今卵から孵ったばかりのひよこを扱うような丁寧すぎる回答に、私はすっかり彼女のファンになってしまった。このセミナーを受けたい! こんな丁寧な応対をしてくれる人がいるのであれば、間違いないセミナーだ! と確信したのだ。
 
家族には申し訳ないと思ったが、私はすぐに申し込みをして一括で料金を支払った。
 
そしていよいよセミナー当日となった。うちのポケットWi-Fiは、機嫌が悪いとなかなかの回線不具合を出してくるので「今日はしっかり頼むよ!」と祈る気持ちでyoutubeのアクセスリンクをクリックした。すると、思った以上に綺麗な画質と音質で、すぐ目の前で先生が挨拶しているかのような、臨場感のある映像が流れた。神様も私を応援してくれているかのようだ。Wi-Fiよ、本当にありがとう。心から感謝の気持ちが溢れてきた。相武紗季似の美貌を持つ先生の熱意のこもった話は、「いつやるか? 今でしょ!」の林先生を見ているかのように面白くて、気が付くとあっという間に第一講が終了。そして第二講に入ろうとしているタイミングだった。
 
「お昼食べるのが?」
 
と、父親が部屋をノックしてきた。
 
「腹減ったから食べたいけど、セミナー中だし……いいよ」
 
と断った。
 
その断り方に、私の本質が見えたのだろうか?
約十分後、父親は冷やし中華を作って部屋まで持ってきてくれたのだった。
 
なんて素晴らしい父親なんだろう!
わが父親ながら、尊敬のまなざしで神々しい彼を拝んだ。
この人の娘で本当に良かったと思った瞬間だった。
 
その冷やし中華は、麺も少し伸びていて、スープも少し薄くて、冷蔵庫にある残り物の野菜が乗っているもの。正直お店で売ってるようなクオリティではなかった。しかし、朝食を食べそびれて集中力の限界が来ていた私にとって、この夏食べた何よりも美味しく感じた。ある意味凄いと思う。
 
冷やし中華を食べながら(失礼)講義を聴き、情熱のセミナーはあっという間に終了した。
 
どれくらいの時間が過ぎただろうか? 次なる難関が私に襲い掛かる。
 
私がアクセル全開で宿題を進めていると、「叔母ちゃん、何やってるの?」と姪っ子達に囲まれてしまった。
 
年に数回しか会えない姪っ子達は、私を慕ってくれている。もしかしたら「おぼん玉(お年玉のお盆バージョン)」が欲しいだけかもしれないけど。今回も一緒に夏休みの宿題の工作を作る約束をしていたのだ。
 
ついにこの瞬間が来た! しかも、ノリに乗っているこのタイミングで!
「勉強してるんだよー!」と言っても、お構いなしに話しかけてくる。
 
宿題が続けられなくなってしまった現実に、後ろ髪惹かれる思いだったが、大好きな姪っ子との工作の時間に切り替えることにした。姪っ子に話しかけられたら、すぐにチェンジすると自分の中で決めていたからである。
 
姪っ子は、布とリボンをうちわに貼って、まるでアイドルグループの応援グッズのようなオリジナルのうちわを作りたいのだという。私にとってそれは簡単な作業だったが、まだ小学生の姪っ子にとっては、レアポケモンを入手するほど未知なる作業だっただろう……。私を頼って、一生懸命アイロンをかけたり、布を切ったりする姪っ子がいじらしくもあり、またとてつもなく愛しい。1時間ぐらい作業に没頭し、想像以上にレベルの高いうちわが完成! これには姪っ子もご満悦のようだった。
 
うちわが完成したことに満足したのか、姪っ子からのマシンガントークから解放された私は、家族と一緒に夕飯を食べるために、集中して宿題に取り掛かった。
リフレッシュになったのか、滝のようにどんどんアイデアが降ってくる。それまでバラバラだったジグソーパズルの最後のピースが嵌るように、スムーズに原稿が進み出し、夕飯前に宿題を提出。無事、家族との時間を確保することができた。
「やっぱ私、すげーわ」と、自分で自分を称賛しておいた。
 
夕飯は、家族でバーベキューを楽しんだ。半生のシイタケに爆笑し、値段の割に少なすぎる花火に愚痴をこぼし、カメムシと格闘し、望遠鏡で一緒に星を見た。どれもかけがえのない思い出だ。
 
明日が来るとは限らない。父親も今年で73歳になった。あと何年こうして同じ時間を過ごせるだろうか。
 
セミナーを受ける前は、家族との時間が減ってしまうのではないかと心配していた自分だったが、神様はその気持ちを汲み取ってくれたのか? 絶妙なタイミングで私と家族を繋いでくれた。時期が時期だけに、もしかしたら天国の母親の粋な計らいだったかもしれない。もちろん自分の努力の結果でもあるが、家族との時間を大切にしたいと思っていたのは、私だけではなかったのかもしれない。誰かに応援されるということは、時に自分が持っている能力以上のパフォーマンスを発揮してくれるのかもしれない。
 
「今日はお昼食べるのが?」
 
セミナー二日目。父親はミョウガの乗った素麺を作って部屋に持ってきてくれた。
 
明日は何が出前されるのか、今から楽しみな私である。
 
 
 
 
*** 
 
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2020-08-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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