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メディアグランプリ

「好き」というきび団子をばらまいたら、仲間は案外近くにいたことに気が付いた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森真由子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「はい、読みたいって言ってた本、貸してあげる」
そう友人は言って、私に白いビニール袋を差し出した。
中身を確認すると、確かに私が読みたいと言っていた本が入っていた。これだけで既に嬉しい。
加えて驚いたのが、読みたいと言っていた本以外に、もう1冊文庫本が一緒に入っていたことだった。気持ちがもっとほくほくした。
 
最近こういうことが連続して起きている気がする。
これは私にとって、数年前には想像できなかった小さな奇跡だった。
 

 
趣味は何? と聞かれたらなんと答えるだろうか。
こういう質問があった時、音楽を聴いたり、映画を観たりするという答えをよく聞くような気がする。
聞かれた人は、実際にちゃんと素直に答えているのかが気になる。
質問された時に言う答えと心の中に仕舞ったままにしている答えで、実は区別しているのではないかとついつい勘ぐってしまう。
なぜなら以前の私は自分の趣味を積極的に言えなかったから。
 

 
何の趣味か答えた途端に、なんだ、そんなこと? と拍子抜けされてしまいそう。
だからあまり勿体ぶらないでおく。
その趣味は何にも特殊ではない、単に「読書」だった。
よくある趣味だけれど、私はなかなか素直に言うことができなかった。
こういう人、他にどれくらいいるだろうか。
上には上がいる、超がつくほどの読書家ではないと思っているため、読書が好きと自ら名乗ってしまうのも気が引けた。確かにそれも一つの理由だった。
だけどそれ以上に、本と共に思い出される学校の光景が「読書が趣味」と言いづらいものにさせていたのだった。
 

 
高校1年生の登校初日。
早めに着き誰もいない教室で、私はやることもなく、持っていた本をなんとなく開いた。
一人ぼっちだったから、本を開くしかなかった。正直その本が面白かったのかどうか、よく覚えていない。
当時の私にとって本は、自分は孤独ではないとアピールする材料に過ぎなかった。
本を開いていれば、一人ぼっちなんてお構いなしで、読書に夢中になっている自分を演出できると思っていたから。
 
高校2年生、そして3年生も。
数少ない仲良くしていた友人たちとクラスが離れ、私は再び一人になってしまった。
新しいクラスの中で仲良くしていた子たちもいたけれど、それぞれの都合によりどうしても休憩時間を一人で過ごすことがあった。
そういう時、私の行動はワンパターン化していた。
一人になることが分かっている日は、チャイムが鳴ったら即座に足を学校の図書室に運んだ。
図書室はそもそも静かな場所だから、変に孤独を意識する必要がなかった。
だから教室と比べたら居心地が良かった。図書室に用があるという名目を持っているのも安心できた。
ここでもまた本が、私の孤独ではないアピール材料に使われた。
大して読み進められていなかったけど、本を開いている時は、孤独が紛れた。
図書室を見渡すと、私以外にも常連さんがいるようだったから、もしかすると同じ理由で来ていたのかもしれない。
 

 
本当に読書が好きなったと言えるのはそれから数年後の大学生活の終わり頃だった。
でもその時は、まだ人に堂々と本が好きということを言えてなかったように思う。
どうしても私の中で、本はある種の孤独の象徴のようになっていたから。
だから、読書と答えるのはまだ恥ずかしいという気持ちを持っていた。
 
ただ、時が経つにつれ、本は当たり前のように常に持ち歩く存在になった。
読書をそれほど恥ずかしいものと思わなくなり、むしろ頻繁に本が好きだなんて言うようになった。冷静になると恥ずかしいけれど、あたかも年季の入った一人前の読書家のように振る舞ってしまっていたかもしれない。
 
とにかく、好きだとオープンにしていくうちに、最近変化を感じるようになった。
冒頭の小さな奇跡も、そのうちの一つだった。
本当の読書家には大変失礼だったと今は思うけど、読書は自分のような根暗な人がするものだと思っていた。だからわりと根が明るい友人たちには、読書が好きな人はほとんどいないと無意識のうちに思い込んでいた。
だけど、自分は読書が好きと言うと、意外にも身近で親しい人たちと最近読んだ本について盛り上がったり、おすすめの本を紹介し合ったりするようになっていた。
自分が持っていない本を貸してもらえたり、それに加えて相手が私に読んでみてほしい本も貸してくれたりする。
図書室に逃げ込むしかないほど、孤独を感じていた学生時代の私からしたら、きっと今の温かくてほかほかした気持ちを想像できないだろう。
 
今は好きなものが寄ってきてくれているように感じる、まるで桃太郎のように仲間を得た気分。
自分の好きなことを開示したら、こういう小さな幸福が訪れるようになったよ、と当時の自分に言ってあげたい。
学生時代の感情や小さなコミュニティはちょっとやりづらいことがあるから一概には言えないけど……。
だけど、もし孤独で息が詰まりそうなことがあれば、周りに自分の好きなことをせめて小出しにしていくとよかったのかもしれない。
もっと近くに感じられる仲間がいたことに気付けたのかもしれない。
 
私はもう当時に戻ることはできない。でも今まさにそういう状況に置かれている人がいるならこう伝えたい。
自分の「好き」というきび団子をちょっとずつでもばらまいてみてほしい。仲間は案外近くにいるかもよ、と。
 
<<終わり>>
 
 
 
 
***
 
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2020-08-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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