エビデンスのない温泉分析書
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エビデンスのない温泉分析書
記事:永田浩子(ライティング・ゼミ平日コース)
「どこに行く?」
家族で旅行やおでかけの計画にはいつも苦労する。
「これを観たい」「これをしたい」「あそこに行きたい」の次がたいへんなのだ。
それは、「そこには温泉があるか」だ。
キャンプ場選びも、キャンプ場内にあればベストだが、近くに“温泉”があることは最低条件。
娘が「海で泳ぎたい」と言えば、きれいな海と“温泉”のあるところを探す。
ちょっとアウトレットへ買い物に行こうとしても、帰りに“温泉”に寄ることができるかを検索。京都のような観光地に旅行へ行くことになっても、温泉のあるホテルを探してみたりするほどだ。
先日は所帯を持ち、独立した子どもたちとの食事会。集合場所は武蔵小杉。そんな観光地ではない、普段の街でも、最後のしめは“温泉”だった。
なぜここまで“温泉”が好きなのか。
それは夫の大の温泉好きに起因しているにちがいない。
夫と二人で行った初海外旅行は、タイのクラビというところだった。ちょうど夫の誕生日と重なっていた。私は秘密で夫のための1日観光ツアーを計画した。現地の旅行会社に連絡をして、こんなこと、あんなこと、夫の好きなことを盛り込んだ内容に作ってもらった。その中に“温泉”を入れることはできないか、という要望もした。南の島で温泉とは、なんとも難しい課題だろうとは思ったが、それがあったのだ。
森の中にある川の流れの天然温泉。水着を着て川遊びをする感覚で入る温泉は、とても不思議な感覚だった。
日本では、街中でもどこでも、『近くの温泉』とネット検索すると、今いるところからそんなに遠くないところでみつかる。
そうすると、次に必要な条件を夫から出される。
泉質だ。
我々がはまっているのは、トロトロな温泉。
仙台から先にある鳴子温泉のちょっと先、中山平温泉にすすめられて行ってみた。あまりのぬるぬる感にびっくりした。それからというもの、それを基準にさがしている。
とはいっても、今は、東京からあまり出られないので、先日は秋川渓谷に行ってみた。ここにある温泉もトロトロしていた。東京都にもあるんだ、とちょっと感動した。
さきほど、泉質が条件になってくると言ったが、実は私はそこまではこだわっていない。
スーパー銭湯でも、普通の銭湯でもよいかもしれない。
自宅のお風呂とは違うリラックスできる雰囲気が好きだ。
ゆったりと大きな湯舟につかり、力を抜く。「はあー」と、声を出したくなるくらい。お湯につかる瞬間、肉体に感覚が集中する。「熱い」「ぬるい」「傷にしみる」「気持ちいい」などなど。普段、意識していない肉体に、一気に意識が入る。お湯につかるときに、ずっと悩んでいたことや、頭の中でぐるぐると考えていたことは、一瞬でとぶ。その瞬間だけ、頭の中の会話が止まる。
このためなのか、次にどうしたらよいのか、仕事のアイデアがわくことも多い。メモをとることもできないので、忘れないようにそのことばかり考えてしまうときは、困ったもの。気がせいて、温泉からそそくさとあがることもある。
肉体がゆるんでくると、気持ちもほぐれる。お風呂から出て、休憩室でゆったりしていると気分もなごやかになる。「これが旅館で、そのままごろんと寝てしまえる状態だったらいいのになあ」と思うこともしばしばだ。
アルコールに弱い私は、湯上りにビールとはいかないが、冷えた飲み物を飲んで、何かおいしいものを食べることができたら、なおよい。
主婦である私は、温泉に行った日は、お風呂を掃除したり、食事の準備をしたりという帰宅後の家事も減り、なんともありがたい。
こんな両親のもとで育った娘もまた温泉好きである。いつもと違う環境に出ることは、ちょっとした旅行気分で、うれしいのだと思う。それよりなにより、心も体もほころんで、ゆるんでいる私たち夫婦は、ケンカも少なくなる。母である私にゆとりがあるから、娘はよっぽどのことがない限り、怒られない。目元もつりあがっておらず、やわらかなのだろう。子どもにとっては、楽しい時間であり、温泉でのトラウマは、ほぼないに違いないと思われる。だから、好きなのではないだろうか。
今の季節、猛暑の日々でも、せみの声を聞きながら、露天風呂に入るのも風情があり、いい気分だ。
温泉は、オトナにも子どもにも、精神的効用は十分にありそうだ。
精神的にネガティブな気分も、オーラがきれいに洗われているかもしれないとも想像すれば、気分よくなり、心も軽くなる。
身体の中から汗とともに老廃物が出てしまい、温泉成分がしみこみ、肌もすべすべだ。パソコンに向かってばかりでガチガチの肉体もゆるむ。身体を芯から温めると免疫力アップ、ダイエット効果も期待できる。水分補給だけは気を付けよう。
以上、効能はどれもエビデンスがないことは、記しておこう。
暑い日々は、どうしてもシャワーだけで済ませてしまいがちだが、たまには温泉に行って効能を確かめてみてほしい。温泉の効用は脱衣所に貼られている温泉分析書だけではないのだ。
≪おわり≫
***
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