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うつからはじめる生き方改革


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うつからはじめる生き方改革

記事:みつしまひかる(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
2016年2月、診断書には「うつ状態」と記された。
働いて7年目、真冬の宮城県。
気温氷点下の中、僕は休職した。
 
時を戻そう。
2012年4月、僕はアメリカの西海岸にあるサンディエゴという都市に駐在員として赴任した。
それまでの3年間、僕は皮膚に貼る「貼付剤」というお薬の研究開発に従事し、大阪で働いていた。
当時から、貼付剤の領域は技術課題が大きい上に、市場性やコスト競争の点からも見通しは悪かった。
状況を打開する技術開発とビジネス開発が求められていた。
そこで、会社は貼付剤にデバイスを組み合わせた米国ベンチャーの新技術に着目し、その技術を買い取った。
アメリカで本技術の開発が計画され、僕は派遣されることになった。
 
入社当時から海外赴任を希望していた僕にとって、4年目の大チャンス。
しかも、サンディエゴは一年を通して雨がかなり少なく、気温も10~25℃程度と非常に恵まれた気候。
待遇面でも充実しており、まさに至れり尽くせり。
ワクワクした気持ちで日々を過ごし、基礎的な検討を一通り済ませた頃には2年経過していた。
 
2014年4月、ある日本の大手製薬企業との共同研究が決まり、僕が主担当となった。
2020年現在、本テーマが僕のキャリアのピークである。苦難の上に一定の成果が得られたのだ。
アメリカの新技術では、薬を貼付剤へと加工するにあたり、薬が水によく溶ける必要があった。
しかし、パートナー提供の薬に水を加えると、粘り気が出て固まってしまった。
初手で大きな壁であったが、なんとか薬液の調製方法を工夫して、乗り越えることができた。
 
続いて、貼付剤の製造方法、薬の安定性、動物実験による薬の吸収性の検討を、提供された少量の薬でやりくりし、遂行できた。結果が出たらその日中にデータをまとめてパートナーに送付し、翌日には会議で説明、薬の吸収性が不十分な場合は次の打ち手も併せて提示する。
日付が変わる前まで準備し、朝6時には動物実験を開始したこともあった。
しかも、自社開発の検討や他社との共同研究も同時並行で、動物試験は同日同じタイミングに3~4つ、分単位で管理し遂行する時期が続いた。
 
目まぐるしく、しかし充実した日々だった。
結果として、ミスもなく結果も良好で、本テーマは続行、大型動物での試験に移行することとなった。
 
2015年4月、僕は日本に出張した。
大型動物での試験、アメリカ滞在期間の延長手続き、そして社内発表のために。
大型動物での試験は、試験委託機関にデバイスの使い方や貼付剤の貼り方を指南しながら、パートナー同席の下、無事終了した。
アメリカ滞在期間の延長も、準備の甲斐あり、無事認められた。
そして社内発表も、つつがなく終えることができた。
本テーマが僕のキャリアの目玉になる。そう疑わなかった。僕は有頂天だった。
 
翌日、空港に向かう前。PCを開き、メールをチェックした。
大阪の部門長からメールが来ており、何の気なしに開封した。予想外のことが書かれていた。
「日本に帰任してもらいます」。
帰任先として、宮城県のど田舎が示されていた。
古巣の研究開発部門は、1年半ほど前に、大阪から丸ごと異動していた。
僕は混乱した……。
 
勤務地:世界的な大都市→日本のど田舎。
気候:一年中通して過ごしやすい→夏のみ過ごしやすく、長い冬は氷点下。
職場環境:開放的→超閉鎖的。
研究内容:未来を切り拓きうる新技術→将来性のない古い技術へ逆戻り。
キャリア:初の成功事例の可能性→から、外される
……
どうポジティブに捉えようとしても、無理だった。
天国から地獄、たった4行の通知であった。
 
2015年7月、僕は日本に帰任した。
すでに僕のエネルギーは10%を切っていた。
が、当然仕事は降ってくる。すぐにプロジェクトに入れられた。
今後製造改革できなければ破滅である、その対策を立案せよ、という。
まずは現状確認からと、製造原価や今後の売上・利益予測を算出したところ、数年以内の赤字転落が確実視できた。
無理無理無理……。
 
他にも担当テーマはある。日本の有名製薬企業との共同研究、および、自社技術開発。
どちらも未経験の難題であった。しかも後者は着手すら半年以上遅れていた。
 
冬休み、実家に帰省した僕は大みそかの真夜中もデータを見ていた。日付が変わっても。
何の光も見えないトンネルへと強制的に追い込まれている気分だった。
年が明けても、状況は好転しなかった。むしろ、仕事の期限がどんどん迫っており、着実に悪化していた。
 
2016年1月20日(水)の日記には「2時前に就寝。6時半起床。心身ボロボロだ……」と汚い字で書いてあった。その日から同年3月18日(金)、僕の誕生日まで、記載はなかった。
 
2015年の11月頃には、精神科のクリニックへ通っていた。
じわじわと着実に生きる気力を奪われ、ついに僕は休職した。
2016年2月4日のことだった。
 
休職にあたり、大阪の実家に戻った。
大阪の転院先の医師には、まずは「何もしない」「規則正しい生活」を心がけるよう言われた。
一日中、ぼーっとしたり、本を読んだり、テレビを観たりした。
最初はこれで良かった。
だが、来る日も来る日もこんな一日は、長い。長すぎる。
処方された薬には、効果はなかった。
 
1ヶ月が経っても、何も変わらない。ずっと家にいると、こころは停滞し、腐る。
そこで、ジムに入会し適度な運動をすることにした。
また、復帰準備には頭を使うトレーニングが必須と考え、宣伝会議のコピーライティング講座に入会し、講座の課題、およびビジネス書で勉強することにした。
生活記録を付け、「規則正しい生活」を実践した。
 
それは再生していく日々だった。
自分で考え、好奇心をもって取り組み、試行錯誤を楽しみ、前向きであること。
 
当たり前のことだった。そう生きてきたのだから。
でも、帰任が決まって以来1年以上、できていなかった。
主導権を取り戻す日々が、やっと始まったのだった。
 
同時に、自分の性格の危うさにも気づくようになった。
意味を見出せないことをしていると、すごくストレスが溜まるのだ。
だから、物事を良いように解釈したり、他に有意義なことを用意したりするよう心がけた。
うつは、生き方を見直すきっかけになったのだ。
 
この後も、こころは揺れた。
休職中、家族、友人や親戚から、復帰はいつと聞かれると、辛かった。
月々会社に提出する病状報告書を書くときは、思うように自信が戻らないことへの不安や苛立ちに対峙した。
平日の外出で近所の視線が気になった。
社内の人事報告に一喜一憂した。
SMAPの解散に、サラリーマンのやるせなさを感じた。
……
それでも、少しずつ、少しずつ、力を取り戻していった。
 
結局、僕は2016年の年末に復職を果たすことができた。
その後も、大阪への異動や、研究開発から企画への職種転換など、いろいろあった。
それでも、苦しみ楽しみつつ、今も仕事を続けている。
 
なお、アメリカ時代のテーマは、2016年5月にパートナーシップ契約を結び、そのプレスリリースがなされた。
同年10月にはCTO賞の受賞おめでとうございますと、休職中の窓口の保健相談室から伝えられた。
ただその後、本テーマはパートナーの都合により、中断された。
人生はわからない。
でも今はそれも一つの思い出だ。
時間軸を長く見る。こころの持ちようで、楽しめることは色々ある。
この先も、きっと、そのはず。
 
 
 
 
***

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2020-08-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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