お散歩のススメ~見知らぬ人との奇跡の出会い~
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テーマ:お散歩のススメ~見知らぬ人との奇跡の出会い~
記事:堀川 亜希子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「ほら、あれを見てごらん。見事な虹だよ!」
ステテコ姿の親父さんが、通りの先から表れたかと思うと突然嬉しそうに話しかけてきた。
前から歩いてくる私たち夫婦に、どうしても虹を見つけた喜びを共有したかったのだろう。
キラキラした瞳で、ほら、ほら、と私たちの背中の方を指さしている。
「ほんとですね!すごぉく立派な柱の虹ですね!」
と私は大きく腕を広げて応じた。
全然知らない人だけれど、お互いに驚きと喜びを共有できたことが、しみじみ嬉しくなる。
今日は朝からじりじりと太陽が照りつけていた。
アスファルトで目玉焼きが作れそうな日光の下「いっそのこと家でゆっくり過ごそう」と心に決めた私たちは、陰鬱な風景に満ちたイングランドのドラマを延々と眺めていた。
晴天と裏腹に、血みどろの戦いをまるでスポーツのように繰り広げるバイキングたちの物語に
「この国でラグビーが生まれるわけだよ」
なんて妙に納得する。
延々と続く長い物語の世界にどっぷりとつかっていたら、やがて辺りが夜のように暗くなっていることに気がついた。
おお、すごい黒雲だ!
稲光が激しく瞬き、雷がバリバリ鳴り響いたかと思うと、みるみる大粒の雨が降ってくる。火照った大地はあっという間に豊かに潤い、雨に慈しまれた。
少しずつ雷鳴が小さくなってくる。
夫は『待っていました』とばかりに小走りで玄関にかけていった。
わざわざ扉を開けて、外の空気を確かめている。
「さあ、あっこさん、思った通りだ! 外は涼しくなったから、お散歩に行こう!」
嬉々としている。
夫は散歩が大好きだ。
約3年間の単身赴任を終えてからは、一層この時間を大切にするようになった。
「何気ない時間が、いかに贅沢で幸せなことか。それが痛いほどよくわかったんだ!」
だから、特別なことではないけれど、ともに同じ方向を見ながら淡々と歩き続ける。
そして、この一週間に互いの仕事で感じたことなどを共有し合う。
ただ、それだけ。
歩いている途中で、少し大きな公園が出てくる。その公園の横でフラペチーノなどを購入して小休止するのが私たちのプチ贅沢だ。
そして、散歩には、たまに奇跡の出会いが生じる。
先ほどのステテコの親父さんもそのうちの一人。
あるときは、高齢者向け住居らしき建物のそばを歩いていた。
ふと夫が何かに気づく。
「ほら、見てごらん。誰かが僕たちに手を振っているよ。」
えっ?
見上げると、高台に立つその建物の、これまた眺めの良さそうな大きな掃き出し窓から、上品な佇まいの女性が背筋を伸ばして座っているのが見えた。
豊かな白髪はきちんとセットされており、オレンジ色のカーディガンが印象的。
きちんと両足をそろえて座っている彼女は、皇室の方々のようにこちらに向かって丁寧に手を振っている。
彼女は、日々あの窓から道行く人々に手を振っては、見知らぬ人と交流を楽しんでいるのだろうか……
私も少し手を振ってみた。
すると、彼女の様子が一瞬ぱっと輝いたように見えた。
彼女の手に、力が入る。
嬉しそう!
私は、なんだか懐かしいような心持ちになり、ますます大きく手を振った。
彼女はついに立ち上がり、さらに大きく応じてくれる。
なんと言うことだろう!
彼女も私たちとの出会いを明らかに喜んでくれている!
もう、なんだか子犬のように嬉しくなってしまった。
ついに私は飛び跳ねながら、まるでその方の娘であるかのように大手を振っていた。
うれしさの応酬。
なんだか今からすぐ尋ねていきたいような気分。
穏やかな人生を送られているようだけれど、彼女のこれまでにはどのような物語があるのだろうか。
まったく知らない方なのだけれど、出会えた喜びをかみしめていた。
人間って、なんだか不思議だ。
また、あるときは夫不在の正月をせめて楽しく過ごそうと、末娘と散歩に出かけた。
地元の小さな植物園にあるお気に入りのベンチで二人、おやつを楽しむ企画だ。
コンビニで買った肉まんを両手に
「温かいね!」
「おいしいね!」
「幸せだね!」
とキャッキャとはしゃぐ姿に、周りの人は『なんて食いしん坊な親子だろう』と思ったことだろう。
しかし、おやつを食べ終えてゆっくりとあたりを散策し始めた私たちに、ある年配の奥さんが興奮した様子で話しかけてきた。
「ねえ、ねえ、こっちに来てみて!○○の芽がもう出てきているの!
今年は暖冬だからきっと出ているんじゃないか、と思って探したのだけれど、やっぱり!
もうすぐ花が咲くわよ!きれいなの。私、大好きで毎年楽しみにしているのよ!」
「ああ、ほんとですねえ! 確かに、すらっとした芽がでてきていますね!」
「もう二,三日して来てご覧なさいよ。きっと、最高にきれいな姿を見ることができるわ!」
花芽を見つけた喜びを共有できたことが、その奥さんにはとても嬉しかったのだろう。
ふと我に返ったように、続けた。
「ごめんなさいね。いきなり話しかけてきたので、びっくりしたでしょう?
でも、あまりに嬉しくて、つい誰かに話さなくちゃ! と思ってしまって……」
ああ! 私は『喜びの共有相手』に選ばれたんだ! なんと光栄なこと!
思わず、
「いえいえ、食いしん坊の私たちに、そのような素敵な瞬間を教えていただき、とても嬉しいです。ありがとうございます!」
と答えていた。
散歩の醍醐味。
それは、見知らぬ人との『感動の共有』が起きること。
東京には、それは色々な人がいるけれど。
それでも奇跡の瞬間が訪れることがある。
あれ? 私、若い頃は人間嫌いだったはずだけれどなぁ……
散歩を通じて、新たに夫の魅力に気づき、たまたま出会った人と感動を共有する。
『人間が一番怖い』
と思っていたけれど。
『人間』というのも、まんざら悪くはないのかも。
お散歩は、人の心をオープンにする。
皆さんも是非、お試しあれ!
***
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