メディアグランプリ

知らないことを調べてみると藤井聡太が藤井棋聖になった


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記事:岡 志津(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
ニュースが分からない。
 
何が分からないって、藤井聡太。
将棋のすごい子。
 
藤井聡太が分からないっていうより、将棋が分からない、といった方が正しいかな。
「史上最年少タイトル獲得!」とかニュースで言ってたけど、この前も「史上最年少◯◯」とか言ってなかったっけ。
どんだけ最年少記録があるんだ。
しかもタイトルってなんなんだ。
 
そう思いつつ、大して興味もないもんだから、右から左に流す。
いや、興味がないわけではない。
 
「プロ公式戦の史上最年少記録を更新しました!」
「へえ〜」
 
「プロデビューから無敗のまま歴代最多連勝記録を更新しました!」
「ほお〜。若いのにすごいなぁ」
 
このくらいの興味はある。
羽生さんとひふみんも知っている。
むしろ、自分の子が藤井聡太みたいに育ってくれると最高だなと思ってたりもする。
 
「そういえば今何歳になってるんだっけ?」
どうやら藤井聡太は18歳になっているらしい。
14歳、史上最年少でプロ入りというニュースを見てから、いつの間にか4年の月日が流れていた。
 
「よその家の子って、知らないうちに大きくなってるんだよな」
おばさん感丸出しの感想をつぶやきつつ、
分からないのにそのままスルーしていた将棋について調べてみることにした。
 
調べ始めてみると、何が分からないのかが分からない。
グーグル先生になんて聞けば良いのかも分からない。
 
分からないことはいっぱいあったが、知りたいのは将棋というゲームのルールではなく、将棋界の仕組みだと気付いた。
「◯◯戦」とか「◯段」とか「◯◯名人」とか色々あるけどなんなの?
 
「将棋 段 戦」みたいなキーワードで苦戦しながらも、なんとなく知りたいことにたどり着いた。
 
《分かったこと》
・段位は6級から九段まであり、四段以上がプロ棋士。
・「◯◯戦」というのはタイトル戦のこと。
・8つのタイトル戦があり、8大タイトルと呼ばれる。
・8大タイトルを序列順に並べると、竜王戦・名人戦・叡王戦・王位戦・王座戦・棋王戦・王将戦・棋聖戦。
・通常、棋士の肩書きは「◯◯八段」のように段位で表す。
・タイトル保持者の場合は、「◯◯名人」のようにタイトル名が肩書きとなる。
 
つまり、藤井聡太の「史上最年少タイトル獲得!」というニュースは、
棋聖戦というタイトル戦で勝利し、タイトル保持者になったということだった。
七段でもあるが、タイトル保持者なので肩書きは「藤井棋聖」。
 
知ってしまえばそこまで難しいことでもない。
知らない時は、ニュースが聞こえてきても「へえ〜」とか「ほお〜」とかで終わっていた感想が、「来年、棋聖戦のタイトル防衛できるかな?」とか深みが出てくる。
……大した深みでもないか。
 
そして、思い出した。
私には、知らないこと、分からないことをそのままにしておくクセがあったんだ。
なぜなら、記憶力が悪いから。
 
人の名前も英単語も世界史も日本史も、全然覚えられなかった。
世界史で神殿を聞かれる問題には全部「アブシンベル神殿」と書いた。
小学校の時に理科ではだいたい「白濁する」と書けば正解だったが、中学や高校になるとダメだった。
 
とにかく記憶力が悪い。
 
記憶は人によって総量が決まっているから、大事なことを忘れないためには余計なことを覚えないようにしなければいけない。
記憶できない頭で、なぜかこの説だけは覚えて実行していた。
だから、分からないけど大したことなさそうなことは深く知ろうともしなかった。
 
が、調べてみると全然そんな説は出てこないし、むしろ逆。
覚えれば覚えるほど記憶力がアップするという。
ネットで調べただけなので真偽のほどは確かではない。
でも、記憶力の総量が決まっているというあやふやな説に縛られ、自分で自分の世界を狭めていたことに気付いたのだ。
 
「ママもついに後期高齢者になったのよ〜」
謎自慢してきたうちの母は今年76歳になるが、孫の写真見たさにスマホに変えた。
 
高齢者向けのスマホ教室に通い、「分からないことがあったらauの人に聞くの」と言ってお客様センターに電話して知りたいことを聞きまくる。
「auの人」イライラしないのかな?と心配するほど超初心者の質問をしていた母。
最近は、動画をスクリーンキャプチャし、その画像に文字を入れてLINEで送ってくる、というなかなか高度な技を使ってくるようになった。
「カーシェアリングを検討してるんだ」と言ったらすぐ「スマホで勉強してみる」とLINEがくる。
母にとってスマホは、知らないことを教えてくれる小さな辞書みたいだ。
 
後期高齢者の母でも、知らないことがあればどんどん調べて、知っていることに変えている。
本来なら、知らないことを知ることはきっとワクワクするような体験だったのに。
私はすっかりその楽しい体験を忘れていた。
 
今、目の前に生まれたばかりの赤ちゃんがいる。
動くものや音の出るものになんでも興味を示し、触って確かめようとする赤ちゃんが。
この先、「なんで?」「どうして?」と質問責めで大人を困らせるであろう赤ちゃんが。
この我が子から次々と溢れ出る好奇心に、この先負けないように。
知らないことを知って世界を広げていく。
スヤスヤと寝ている自分の子に、たくさんの世界を見せてあげられるようになりたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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