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電気ケトル進化論


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記事:フジタシン(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
家電って、どのくらいで買い替えるものなのだろうか。
 
例えば、我が家の電子レンジは7年間使っているが、まだまだ現役だ。
「一人暮らしを始めたからには、バリバリ自炊しちゃうぞ☆」
という、しょうもない幻想の塊から購入した、当時の高スペック電子レンジである。
 
とはいえ、もし次に買い替えるとしたら、スチームができたり、パンが焼けたりするやつにしたいなぁと思う。
7年前の高機能レンジは、今や普通のレンジに成り下がってしまった。
 
こうして周りの家電を見ていくと、
「次買う時はもっとこんな機能がついているものがいいなぁ……!」
などと思ってしまうものばかりだ。
 
勝手に動く掃除機、ファンのついてない扇風機、4K8Kテレビ、急速冷凍機能のある冷蔵庫……。
 
技術は、進歩していく。
進歩した技術は、次第に当たり前となる。
当たり前になった技術は、安く買えるようになっていく。
 
すると数年前と同じ価格で、数年前より多機能かつ高性能な家電に買い換えることができる。企業の努力には本当に感謝である。
 
そして、時代と共に高度化していく家電によって、私たちのニーズも高まっていく。
昔は思っても見なかったようなことが出来るようになったよ! と言われて初めて「こんな機能欲しかった!」と思うこともよくあるのではないか。
 
壊れても壊れていなくても、10年も使っているなら、その家電は買い替えた方が生活を豊かにできるに違いない。
 
そう思っていた。
 
しかし、先日奇妙な体験をした。
ことの発端は、我が家の電気ケトルが不調を訴え始めたことから始まる。
 
この電気ケトルは、妻が一人暮らしの頃から使っている、彼女曰く“安物”である。おおよそ5年前から使っているようだ。
 
正直、何の変哲もない電気ケトルだ。
ヤカンのような形をしていて、水を入れてスイッチを押すと、お湯が沸く、以上。
 
ちなみにこのケトル、ここ最近使用頻度が爆増していた。
子供用ミルクを作る時に必ず使うので、1日に5、6回はお湯を沸かすのだ。
現在、最重要家電に近いこのケトルが、故障して使えなくなるのはとても困る。
 
よし、新しいものに買い換えよう。
この安物ケトルも、5年も使えば十分“お役御免”だろう。
そう思い、近所の家電量販店に向かった。
 
量販店の5階、調理家電コーナーの一角にずらりと並ぶ電気ケトルたち。
 
“思ったよりもたくさん種類があるんだなぁ……。”
 
“ふーん。数時間保温できたら便利かもね。”
 
“目的に合わせて温度調整できるのもいいね……。え!? コーヒーって沸騰してない85度のお湯で入れると美味しくなるの……!? 知らなかった……!”
 
どれも魅力的に見えてきた。
 
当初のケトルへの要望は、「注ぎ口が細くて哺乳瓶へ注ぎやすいヤツ」程度だったが、予想以上に高機能のケトルを前に、私の購入意欲も高まっていく。
 
さて、どれにしようか。
コーヒーが少し美味しく飲めるようになるのかなぁ、楽しみだなぁ。
 
その時、一緒にいた妻がこう言った。
 
「帰ろう。おかしい。高すぎる。」
 
ここに並ぶケトルたちの値札を見ると、5,000円から数万円である。
彼女曰く、うちのケトルはもっとずっと安く買ったはずだというのだ。
 
家に戻り、引退間際の我が家のケトルと同じ型番のものをAmazonで調べると、たったの2,490円だった。
 
「これでいいよね、だってすぐお湯が沸けばいいし、注ぎやすいし。」
 
彼女は迷わず購入ボタンを押した。
 
これは、僕の常識を覆す経験だった。
これだけ世界は進歩しているのに、全く進化していない電気ケトルを買うことになったのだ。
家電は、僕の生活に必要のない進化を遂げることもあるということなのか。
 
よくよく考えれば、保温機能も、温度調整機能も、我々にとっては「あったらいいかもなぁ」くらいの話だ。
店頭で一瞬、「便利かも、欲しい……!」だなんて思ってみたけど、まやかしだ。騙されるところだった。
 
当然、機能自体は素晴らしいし、誰かのニーズを満たしていると思う。しかし私は保温するほど一度にお湯沸かさないし、家でお茶やコーヒーを本格的に楽しむ習慣も別にない。
 
つまり、この5年間で電気ケトルが進歩した技術は、僕ら家族にとっては、全て空振りだったのである。
 
よくよく考えると、我々はケトルが欲しいのではない。
本質的には、すぐにお湯が手に入る環境が欲しいのだ。
 
マーケティング界では有名な「ドリルを売るなら穴を売れ」という逸話を思い出した。
ドリルを買いにくる客というのは、ドリルそのものが欲しいわけではない。6ミリの穴の開いた板が欲しいのだ。
穴を開けられるのであれば、キリでも良いし、最初から穴の開いた板でも良い。
ドリルに固執せずに、顧客の不満を解決する提案をすれば売上は伸びるという話だ。
 
今回の場合はどうだろう。
 
毎日数回、電気ケトルに100ml程度の水を入れてスイッチをおすと、ミルクを作るためのお湯が20秒で沸く。その間に、ミルクの粉を哺乳瓶に入れる作業をする。
最後に、ミルクの粉をいれた小さな哺乳瓶に、熱いお湯を注いでかき混ぜる。
 
この作業において、電気ケトルより経済的で簡単に、お湯を手に入れる方法はあるだろうか。
 
電気ポット? 保温する電気代が無駄ではないか?
温水も出せるウォーターサーバー? 高いミネラルウォーターを沸かす必要はないではないか?
 
結局、2,480円の電気ケトルには敵わないのである。
少なくともこの5年間、2,480円の電気ケトルが我が家のニーズに最適なチャンピオンを防衛し続けているのだ。
 
5年後、我々の電気ケトルへのニーズはどう変わっているだろうか。
2,480円の電気ケトルが3度目の防衛を果たすのだろうか。
はたまた、とんでもない機能が追加された新王者が誕生するのか。
 
それにしても、電気ケトルは今後、どういう進化を遂げるのだろうか。
あれやこれや考えてみたが、全く思いつかない。
結局、保温や温度調整くらいしかないのだろうか。
 
新しい電気ケトルを買いたければ、私のコーヒーライフをもう少しこだわってみるしかないのだろうか?
 
それもいいかもしれない。
 
もしかすると、電気ケトルの進化の道は、私の生活習慣の「進歩すべき方向」を暗示しているのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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